コロナでペットを飼う人が増えた?

アメリカ,動物愛護,新型コロナウイルス

対面からバーチャルへ

今年はコロナの影響もあり、私は一度も日本に行っていない。
講演会、勉強会、あるいは学校の講義などは、ぜんぶネットだ。
移動時間もないし、交通費もかからないし、便利なのは確か。
不便なのは、日本とロスとで時差があるので、ライブの場合はこっちの夜や深夜であるということ。
後は、部屋の見える部分を、きれいに整頓しなくてはならないこと。笑。
飛行機のマイレージが貯まらないこと。涙。
ともあれ、便利な世の中になったもんだ、と、アナログ世代の自分は、しみじみと思う。
1年まるごと、ロサンゼルスに腰を落ち着けて住んだのは7年ぶり。
コロナがなかったら、やはり日本とロスを、2-3が月おきに行ったり来たりの、半々の生活を続けていただろう。
本業である、臨床獣医としてのお仕事も、この1年、割とまじめに、ロサンゼルスでやっていたことになる。笑。
コロナ禍での、ソーシャルデイスタンスを配慮しての診療なのだが、ロスのどこの動物病院も忙しくててんてこ舞いだそうだ。

新患で忙しい


ロサンゼルスの動物病院の場合、今年の3月の初期の流行時に、急患以外は診ない、という時期が1-2か月ほどあった。
ちょうど最初のロックダウンの頃である。
その後、診療が再開すると同時に、どこも多忙で予約がなかなかとれない、という状態になり、それが夏から秋、そして今でも続いている。
これは全米的な傾向らしく、米国獣医師会や保健会社などの調査でも明らかになっている。
当初は、「コロナ禍で急患しか診なかったのだから、そのツケがきた」くらいに思っていたが、いやいや、明らかに新患が増え、飼い主さんの意識も高まっていると感じている。
新しく愛護団体から成犬、成猫を譲渡してもらった、という人。
ブリーダーから子犬、子猫を購入した、という人。
特に子犬や、若い犬は需用より供給が不足し、愛護団体でも順番待ちになっているという。
さらに、今まで以上に責任を持って飼う、という姿勢が全体的にみられるようになった。

衝動飼い?

これに関して、メデイアなどは、コロナ禍で家にいることが多くなり、寂しいからペットでも飼って、寂しさを紛らわせている、と結論している記事が多いように思う。
そして、コロナが落ち着き、あるいはまた通勤が始まると、今度は簡単にペットが捨てられるのでは、と懸念する声もある。
寂しさから衝動的に、何も考えずに動物を飼う人は、以前からも一部いたと思う。
だが、今のペットブームは、私はそういう人だけではないように感じている。
実際、多くのシェルターでは、今のところ、「コロナ衝動飼い」の後の、「コロナ遺棄」現象は多くないと言っている。
まあ、これから今後、どうなるか、やはり心配ではあるが。。

飼い主さんの変化

なぜ私が、衝動飼いではないと思っているのか。
それは、ロサンゼルスの動物病院の外来にやってくる、多くのペットの飼い主さんたちの、微妙な心の変化を、肌で感じているからである。

例えば、ロブさん。
テリア系の犬を飼っていて、ずいぶんと歯石がつき、いくつかの歯はグラグラして、もう麻酔下での歯科処置をしないとダメだよ、内臓がやられるよ、という話をずっとしてきた。
来院の度に、もう4年以上。
犬が歳だから、とか、お金がきついから、とか言って断っていたのに、いきなり先日連れてきて、すぐに歯科処置をしてほしいという。
今とても混んでいるから、早くても3週間後であると告げると、ひどく不満そうなお顔。
犬が痛いとか食べられない、というのではない。
「本当にコイツの体と健康を考えると、早くしてあげたいと思うようになった」と本人の弁。

例えばリデイア。
チワワ8歳に、小さな乳腺腫瘍を発覚したのが3年前。
細胞診ではいちおう良性であったが、たまたま悪性細胞が出なかっただけかもしれないし、少しづつ大きくなっているし、早く外科除去したほうがいい、と勧め続けていた。
そして先日、いきなりやってきて、1日も早く手術してほしいという。
「本当にこの子のことを考えると、やはり手術をするべきと思って」というのが本人の弁。

そして、ブレークさん
雑種の大型犬を飼っていて、毎年、ワクチン等で連れてくるのに、今日は9歳の茶トラの猫を連れてきた。
ぼてーっと太って、診察台の上で余裕のグルーミングなどをしている。
「愛護団体から引き取ったのですか?かわいいですねー」と私。
(ちょっとお世辞も入っていたかも汗)
「はい、9年前、子猫の時に家にやってきました。今日はワクチンを。」とのたまう。
9年も飼っていて、一度もワクチンも打たず、一度も病院に連れてこなかった理由を問うと、「こいつ外にも出ないし、どこも病気しないし、見ての通り健康そのもので。
でもさすがに、たまにはワクチンくらい打ってあげないと、と思ってね。」
というのが本人の弁。

たまには??

コロナ禍で動物愛が目覚めた?

飼い主さんが、責任を持ち、愛情を持って自分のペットを飼ってくれることは、獣医師としても大いにうれしいことだ。
コロナ禍ではなくても、飼っているうちに愛情がわき、どんどん責任のあるいい飼い主さんに成長する人も、以前から存在していた。
だがどうなんだろう。
この数か月、動物病院の忙しさは、こんなうれしい飼い主さんが増えているから、と感じているのは、私だけだろうか。

本当の理由は私もわからない。

リモート勤務や、在宅時間の長さに関係している、という説もある。
コロナで明日の自分の運命も保証の限りではないので、ペットや子供にお金を投資する気分になっている、と想像する人もいる。

私は、やはり、コロナによって、人々の生活の価値観が、少しづつ変わってきているからかな、と感じている。

今までお金を使っていた部分は、多くは、社交的なものだった。
すなわち、人に見せたいもの、見てもらってうらやましがられるもの。
カッコいい車、ブランドの服やバッグ。靴。時計。ジュエリー。
予約がとれないスタイリストにやってもらうヘアカット。
落ち着いたステキなレストラン、ちょっと贅沢なホテル。
これらが悪い訳ではないが、コロナ禍ではこれを実行するのが難しい。
見栄を張る機会も少なくなり、必要も減った。
その先にあるのが、家族、ペット、本当に仲のよい友などの心のこもった交流。

そんな訳で、ペットを飼い、ペットをきちんと飼いたいと思う人が増えたのかな、と漠然と感じている。

ということで、毎日の診療を、実はとても楽しみでもある。
今日はどんな人から、どんな驚きの「エピソード」が聞けるやら。
誰が、素敵な飼い主さんに変わってくれるか。
ひそかに心ワクワクしているのである。

どうかどうか、すべてのペットたちが、捨てられることなく、最後まで大切にされますように。。。