国家試験に落ちてしまったあなたへ

2023年12月23日アメリカ,人生・生活,動物愛護,日本,獣医療・ペット

ちょっと落ち込んでいるあなたへ

獣医師国家試験、そして愛玩動物看護師国家試験の合否が発表されましたね。
合格して喜ぶ人がいる中で、きっとひっそりと不合格の通知を受けて落ち込んでいる人がいることでしょう。
あなたの職場や環境には合格して喜ぶ人がきっといて、さらに合格した人におめでとうと言う人もいるかもしれません。
あなたはそんな中、1人心の中で涙を流しているかもしれませんね。
今回、落ちてまったあなたに、元気が出る応援歌として、私からこのメッセージを送ります。

実は国家試験なんてどうでもいいもの

といっても、今のあなたには下手な慰めにしか聞こえないでしょう。
でも聞いてください。
本当に国家試験なんて、実はどうってことないテストなんです。
それは、農水省なり何なりの偉い人達が、プロとしての仕事をするうえで、資格という枠を設けるほうが都合がよいし、免許制度としたほうが便利だからにすぎません。
1回だけのテストで、あなたの本当の実力が本当に分かると思いますか?
試験に受かることと、実際の実力とは別のことです。

試験に落ちても、あなたの実力は変わらない

国家試験に落ちたからといって、あなたの知識、実力が明日からなくなりませんよね。
例えばあなたが、長年現場で実力を積んできた看護師ならば、明日から保定ができなくなる訳でも、明日から採血できなくなる訳でもない。
今まで取得してきた経験も技術も、何一つ変わりません。
院長や職場の皆が認めている、あなたの性格、仕事に対するまじめな態度、情熱。
国家試験ではそこまで判定できません。
農水省に、本当のあなたの技術や人格の判定はできないのです。

落ちたことなんて、将来忘れる

これも慰めにしか聞こえないかもしれませんね。
でも本当です。
そもそも、人生の中で国家試験なんてたいした重要なものじゃないという事に、将来あなたは気が付きます。
自動車運転免許の学校に通っていた時の、最終テストの前の緊張感を今でもその苦痛を覚えていますか?もう忘れていませんか?
おそらくあなたのこれからの人生は、もっと大変なテストや試練があり、そして楽しく幸せなことも多々あるはずです。
国家試験に1回2回落ちたということなぞ、そのうち忘れることでしょう。

私の人生の中の試験

私は30歳前にアメリカに移住したので、少し変わった人生を送ってきたと言えるかもしれません。
ただ振り返ると、ずいぶんと多くの試験を受け、受かったり落ちたりがありました。
もうほぼ忘れた試験もあるし、心に深く残っている試験もある。
私の「試験遍歴」を聞いてください。

まず、人生初だったのが、高校受験、そして大学受験。
そして大学受験。当時は共通一次テストと言った。
まあ当時はストレスでニキビだらけの顔になったが、学生なのでフルタイムで勉強でき、それは贅沢なことだったと改めて思います。
次が獣医師国家試験。これは卒論の研究と論文を書きながらの2重生活だったので、まあ寝る時間がなくてたいへんだった。が、今となっては苦労したことはよく覚えていない。
獣医師国家試験は幸い1度で合格できた。

その後、アメリカに1人で渡って動物病院で仕事を始めた。
当時のカリフォルニアは、外国人獣医師であれば、動物看護師の試験をそのまま受けることができた。
確か渡米3か月くらいの時で、当時はインターネットもなかったので、郵送で問い合わせたら、あなたは受験資格あるわよ、来月試験あるわよ、と願書が送られてきた。
どんな試験問題が出るかも知らないが、とにかく受けてみた。
この試験は今でも覚えている。とにかく英語がわからない。
語彙力がないので、答えではなく、質問がわからないのだ。
幸い、計算問題が多かったので、これもぎりぎり合格できた。

その次が、米国の国家試験。
米国で獣医師として臨床をするための資格試験だが、外国人獣医師には英語や英会話を含む、複数のテストが課せられた。
その1つが国家試験で、米国獣医大の学生たちと肩をならべて同じ会場で受験。
これは3回落ちた。
1回目は、とにかくどんな問題が出るのか知るための偵察受験で、準備不足で不合格。
次は結構真面目に準備の勉強をしたが、もう少しという結果で不合格。
この頃は動物看護師としてフルタイムで仕事をしており、勉強する時間もなかなかなかった。
またインターネットもなく、獣医学生のように試験対策の教科書さえもない。1人孤独に模索しながら勉強するしかなかった。
毎日仕事をし、帰宅して食べる間も惜しみながらもくもくと勉強し、朝日が昇り始める頃まで没頭して準備すること1年。
今度こそ、と全力で臨んだ3回目の国家試験。試験時間は8時間。
最後の問題を終えてペンを置くと同時に終了のベルがなったが、本当に憔悴しきってしばらく席を立つことさえできなかった。
結果は、1点足りなくて不合格。
郵送で不合格通知を受け取った私は、アパートの自分の部屋のじゅうたんの上に丸くなって、床をどんどん叩きながら大声泣いた。
20分間、ただただ床を叩きながら泣き叫んだ。
人生でこれ以上できないくらい、全力で努力して臨んだ試験だったのに、落ちた。
しかし、誰のせいでもない、自分の実力なんだと悟るしかなく、次回は受かる可能性が大きいというふうに理解し、再び徹夜の生活を続けた。
そして次回は合格できた。

その次に、カリフォルニア州とハワイ州の州獣医師試験を受けた。
カリフォルニア州試験は、ひっかけ問題が多くで有名。なのでこれもかなりまじめに徹夜で勉強。

その後、獣医師になってから、鳥エキゾの専門医試験も受けた。
これは今までと違い、プレゼンテーションや小論文がきびしく、多くの文献(もちろん英語)をかなり読みこなさなくてはならず、再びニキビだらけの顔に。

それからしばらくして、50代になり、私はフロリダ獣医大の大学院で法医学の終了コースを受けることにした。
この時、大学院に入るための入学試験。これにはTOEFLの英語試験で高スコアーが必須だったので、渡米20年以上になりながら、改めて英語の基礎勉強。これはかなりきつかった。
そして、法医学終了コースの最終試験。
これはインターネットのものだったが、1分で強制的に次の質問に移行させられる。
とてもカンニングなぞする暇がない。しかも総計5時間!
ちょうど私は日本に住んでおり、深夜の1時から朝6時までの試験。
この法医学コースは、自分が学びたいと思ってとったものだが、3年半の受講中、それぞれのセメスターで地獄のような宿題やテストに追われ、本当にヘトヘトになった。

こうやって人生を振り返ると、いろんな試験を受け、受かったり落ちたり。
だが受かったことも、落ちたことも、今となってはすべて思い出。
自慢げに話すことでもないし、夢にうなされることもない。
登山と同じで、途中は苦しくても、頂上に着けばそれを忘れて幸せな気分になれる。

不合格になった時の対処法

このように、私も何度も試験に落ちた経験があります。
それに、試験だけではなく、他にも人生の中で、落ち込むような苦しい経験も時にはしました。
流産は12回しています。妊娠7か月の死産も1回。
自宅に空き巣が入り、高価な宝石類を全部盗まれたこと。
地震の被害にあって、アパートが半壊したこともあります。
そういう時、どうして切り抜けてきたか、ここでこっそり、私の立ち直り方法を紹介します。

くさる

まず、少しの間、ふてくされましょう。
ふてくされる。ひきこもる。くさる。
不合格通知は、心の傷です。
それを修復するのに、少しばかり静養する時間が必要です。
通常は、自分の家や部屋に引きこもり、何もせず、あえて我慢せず、ぼーとするなり、だらだらと好きなことをして過ごしましょう。

ずっとスマホをいじっていてもいい。
ゲームしたり、動画をだらだら見てもいい。
お風呂も入らず、おかしを食べて寝る。
がまんしないで、自分を甘やかして、思いっきりダラダラしてください。
ただし、期間限定です。せいぜい1日か2日。
普通は1-2日もあれば十分です。
例えば仕事が休みの土日とか。
そして、最後の夜に、「よし。ダラダラは十分。これでおしまい。明日から気持ち入れ替えて仕事します」と意思決定します。
これとても効果ありますよ。

自分へのご褒美を買う

次。
何か自分のために、お金を使いましょう。
大金じゃなくてもいいです。
自分が好きな物、好きな食べ物。なんでもいいです。
今の時代は、ネットで購入でもよいでしょう。
不合格だったけど、がんばった自分へのご褒美として、自分に何かをプレゼントするのです。
駅前のケーキ屋で、チョコレートケーキを買って全部1人で食べる、でもいい。
牛角でお腹いっぱい焼肉を食べるでもいい。

お金は、落ち込んでいる自分を立て直すために使うこともできるんです。
むしろ、こういう時のために、自分は毎日働いてきたのかもしれません。
気にせず、自分へ何かプレゼントしてください。
私は過去に、ピアスとかハンドバッグとか買ったこともあれば、
1人でランチしたり、1人旅行したり。
これも、効果ありますよ。

院長、先輩へのあいさつ

さらに次。
一通りくさり、自分へのプレゼントも終わったら、後はまじめに仕事に戻りましょう。
その時、院長なり先輩なり、職場の人に、きちんと、直接あいさつ、をしましょう。

「この度、不合格となりご心配をおかけしました。今日からまた、気持ちも新たにがんばりたいと思います」

簡単にこういう挨拶をしましょう。
すでに、ラインやメールで、不合格は知らせ、また院長も、「それは残念だったね」とメッセージを送ってくれても、です。
これは、不合格通知の会話ではなく、あいさつです。
日本にもアメリカにもある、自分の身に不幸があった後の、あいさつという儀式なのです。
オトナの社会の決まり事です。
そりゃ、何度も不合格の話を持ち出したくないし、何も言わないでスルーして働きたいですよね。
でもあえて、きちんとあいさつしましょう。

不合格のあいさつをすると株があがる

なぜなら、こういう時にきちんと、面とむかって「不合格でした、ご心配おかしました」という人は、しっかりした人だ、という好印象になるからです。
あなた自身の株があがります。
あなたが、しっかりとしたいい人間だ、とアピールできるのです。
不合格なんて、人生の中でそうそうありません。
滅多にないチャンスです。こういう苦境でさえも、自分の株を上げるために利用しましょう。

不合格のあいさつをしながら、相手の反応を観察する

さて最後に。

不合格でしたと挨拶をした時に、院長なり先輩なりが、どういう言葉を返してくるか。
ぜひぜひ、しっかりと観察してください。
これは、その人がどれだけあなたのことを想っているか、どれだけ心のある人か、どれだけ人の苦しみが分かっている器の大きな人かが、よくわかる時です。
普段の会話からは、なかなかそういう人間性はわかりません。
あなたもいつか、後輩が試験に落ちた時に言葉をかける時があるかもしれません。
人が傷ついたり悲しんだりすることは、長い人生では誰にも起こります。
配偶者や子供の死。
事故や災難。
病気や負傷。
流産や死産。
何かが起こって苦しんでいる同僚や友に、どういう言葉で、自分が何を伝えられるか。
これは、実はとても難しいことです。

心にひびく言葉を言ってくれる人は、きっとあなたのことを大切に思っている人です。
この機会に、ぜひ、しっかりと観察してください。

そして、不合格という不幸を経験したあなたは、将来誰よりも、その苦しみや悲しみを理解できる心の大きな人間になることでしょう。

一回り大きくなったあなたは、より人の悲しみや、動物の苦しみを理解できる獣医師、看護師になるはずです。

実は動物病院が必要としているのは、そういう他人の痛みや苦しみが分かる人間なのです。

あなたは大丈夫。必ずいい獣医師、看護師になります。

どうか安心して明日から、また仕事に励んでください。
がんばれがんばれ。あなたは大丈夫。

Best Wishes

2023年12月23日アメリカ,人生・生活,動物愛護,日本,獣医療・ペット

Posted by Dr. Yuko Nishiyama