猫カフェを作りたい

動物愛護,日本,獣医療・ペット

猫カフェを作りたいのでアドバイスがほしい

Aさんより質問をいただきました。

「私は猫を1匹飼っていて、殺処分問題に心を痛めています。
保護活動の経験はありませんが、少しでも殺処分ゼロのために何かしたいです。
つきましては、猫5匹から10匹くらいの猫カフェを作りたいと思っています。
空き家を利用するもので、すでに場所は決めてあります。
どういうことに気を付けたらいいのか、アドバイスお願いします。」

猫カフェを作るために

Aさんへ。
殺処分ゼロのために猫カフェを作りたい!
なんて素敵なことでしょう。
心優しく、また前向きに行動を計画するAさんは、きっと責任感のある優しい方なのだと思います。

しかし近年、猫カフェや猫シェルターと言った、保護猫が多頭で住む環境について、いろいろな研究が進み、猫の保護活動の考え方が急速に変化しています。

結果から言うと、「猫は収容施設をできるだけ避けて譲渡へ」というのが新しい動きになってきています。

猫カフェのような大部屋で保護すると、いろいろな問題があることがわかってきました。
保護施設では個別の部屋かケージで過ごし、できる限り滞在時間を短く、というのが新しい動きになっています。

アメリカでは、猫は従来の保護施設の大部屋ではなく、1-2匹の保護猫を預かりボランテイアさんの家に預けて管理するのがどんどん普及しています。

今日は猫カフェを含む猫の収容施設のあり方や運営、将来について、シェルターメディスンの見地から簡単に私の意見を述べます。

シェルターはもう時代遅れ?

実は全米の傾向ですが、シェルターなどの猫を複数収容する施設は、「もう時代遅れ」という風潮になってきました。

もちろん、現在も猫のシェルターは保護活動には欠かせない存在ですが、今後シェルターや、猫の大部屋はどんどん減ってゆくことになると言われています。

大部屋というのは、猫が複数同じ部屋で過ごすタイプのもので、猫カフェもこれに含まれます。
2-3匹から10匹以上まで規模も様々でしょう。

アメリカでは新型コロナを経て、保護猫の非シェルター化が急速に進んでいます。

今日はその内容と理由についてご紹介します。
これからカフェを経営しながら猫の保護活動をする上で、役立つ情報になると思います。

コロナで変わった全米の保護施設

アメリカではコロナ以降、猫の保護と譲渡のあり方が目まぐるしく変わりました。

コロナ前は、

① 保護猫がシェルターなどの公共施設(センター)に集まる
② 保護団体がセンターから猫を譲り受け、所有施設(シェルター)で世話をする。
③ 譲渡会、譲渡希望者募集、審査、トライアル、正式譲渡
というのが一般的でした。

これは現在の日本の保護活動とほぼ同様のシステムと言えます。
ところがコロナの流行時、人と人の対面が限られることから、猫はシェルターから預かりボランテイアさんに急遽移されることになりました。

猫を新しく飼いたいという希望者をネットで応募を募り、書類審査しました。
そしてズームなどで猫と面会し、代表と話して譲渡を決定するといったことを行いました。

試行錯誤でコロナのために始めた苦渋の対策でしたが、しばらくして、「これって案外いいのでは?」と関係者が感じ始め、シェルターメディスンの専門家が、さらに詳しく研究するようになりました。

そして実は、私たちが想像していた以上に、「非猫シェルター」の利点があることが判明し、専門家もこれを奨励し始め、現在に至っています。

大部屋で共同生活をする場合は、猫はAll in-all out (オールイン・オールアウト)法といって、同居猫を一部入れ替えず、譲渡まで同じメンバーにし、新入りの猫との接触を避けることが奨励されています。

猫が猫シェルター、猫カフェの大部屋に住むと増えるリスク

研究の結果、猫が共同生活をすることで増えるリスクは以下のことが分かっています。

伝染病の伝染および慢性キャリアの出現
猫パルボ、猫上部気道感染症、伝染性結膜炎、消化管内寄生虫、外部寄生虫、真菌症など。
白血病ウイルス、猫エイズの感染の可能性(血液検査の感度と特異度は100%ではない)
ストレスおよび問題行動
攻撃性、猫の間の葛藤、他
ストレスに由来する疾患の発病率の増加
FIPの発症 、エルぺスウイルス関連疾患、カリシウイルス関連疾患、尿路疾患、膀胱炎、猫エイズ・猫白血病の発症
猫は同居メンバーが入れ替わるとストレスになる
例えば5匹の同居猫のうち、1匹が去り、また新しい1匹が入る、といった管理方法は、猫により高いストレスがかかると判明。(ウイルス排出量も増える)

ストレスを受けることで、免疫が低下して下痢や腸コロナウイルスの排出が増加したり、不顕性ウイルスの活性化(ヘルペスなど)して発症したり、あるいはFIP発症リスクが高くなるといったことが分かってきました。

人間と対面する「お見合い」について

ひと昔前は当たり前だった対面式の譲渡会。

特に猫は譲渡会場に猫を連れていっても、怖がってしまってシャイに隠れしまうのは皆さん経験済み。

それに比べて、猫カフェ、猫シェルターに人間が訪問するほうがストレスがないと信じられてきましたが、研究によると、この方法でも猫はストレスになっているそうです。

ペットショップのような場所でも、継続的に人に閲覧されるとストレスになるのと同じで、たとえ接触しなくても、多くの人に見られるというのはストレスなので、写真や動画でネットお見合いをして、それから最終選考の人のみ直接面会する、というのが増えています。

実際、よく撮れた猫の日常の写真や動画のほうが、うまく猫の性格をアピールできます。

人間だって、今や出会い系サイトで出会うのが増えている時代。
不安はあったけれど、猫のネットお見合い、ネット譲渡会はやってみたらすごくいい、ということで、今アメリカでは、どんどん増えています。
猫カフェでのお見合いも、時代とともにネットに切り替わるかもしれません。

猫カフェを作る準備

Photo taken in Ban Doi Chomphu, Thailand

ということで、長期的にはシェルターや猫カフェが減少し、個人のボランテイアが中心に保護猫の世話をし、ネットによる譲渡が今後は増えると予想される猫の保護活動。

しかし現在の日本では、行政の殺処分ゼロ政策も続いており、民間の保護団体がセンターから引き取っての譲渡活動は続くことでしょう。
また地域猫政策が普及しつつも、まだまだノラ出身の子猫が持ち込まれます。
猫カフェは地域保護、譲渡活動として、やはり今は欠かせないものでしょう。

実際のカフェの設立ですが、以下に重要事項をまとめてみました。

許可、事務手続き 
第一種、第二種の動物取扱業許可の取得(自治体、組織の形によって多少差がある)
飲食店経営許可など

建築関係
地区によっては規制があったり、また地主や大家さんと内装などの許可が必要

保険に加入 建築、水漏れ、火災などに備えて。

内装デザインと工事
検疫室、隔離室、およびall in- all out をするための部屋のサイズや設計について、事前に詳しく計画。施設内のゾーニングを決定。

消毒、伝染病予防に配慮した建築素材
木、布、麻、カーペット系は完全消毒できないので使用禁忌。消毒できる素材、壁、床材の使用、コーテイング等の実施。消毒できるインテリアや家具。

保護猫の選定 どこから、どういう基準で?

Capacity of Care  保護猫の収容数 スペース、猫が快適に過ごせる広さ、管理する従業員の数(時間)などの計算。

コスト管理  家賃、人件費、維持費、水光熱費、猫の医療費他の計算。見込まれる収入や寄付金などの計算。寄付金を当てにしての運営は危険。

獣医療の基礎知識 基礎検査(ウイルス検査、寄生虫検査)、検疫方法、ワクチン、清掃と消毒、空調と消臭管理、伝染病予防、ストレス予防といった、基礎を学ぶ。

毎日のケア 具体的なスケジュール、給餌、清掃、洗濯、廃棄物処理など把握。

譲渡審査。責任者とポリシーの設定。譲渡面接の仕方、譲渡基準の設定。

カスタマーケア カフェ訪問者のルールや制限時間など。

譲渡後の里親さんのフォロー。 譲渡先で問題ないか。

スタッフやボランテイアを雇う場合は、従業員・ボランテイア規定、マニュアル作成、定期的な勉強会や指導。

相談者の対応 飼えなくなった飼い主からの引取り依頼や相談依頼といった、問い合わせや相談の電話やメールが見込まれる。対応方法を設定。

広報、宣伝。 猫の譲渡につながる宣伝が必要。SNSやブログの管理。レビューなどのチェックとフォロー。お客様からのフィードバック。クレーム処理など。

ブランディング 猫カフェのロゴ、コンセプト、カフェグッズなどの製作、プロモーション商品。

定期的な内覧会、オープンハウスなど

人も猫も幸せになる場所

猫カフェは、お客様がやってきてこその場所です。
単に猫を保護するだけならば、猫シェルターを作るべきです。

訪問するお客様が、新しい飼い猫を探している場合、単に猫と一緒の時間を求めている場合、いろいろでしょう。
それぞれのお客様のニーズに合わせ、お客様がハッピーになるよう努力しないと、結局は誰もやってこないシェルターになってしまいます。

同時にそこに住む5匹10匹の猫を描の健康管理し、快適に保護しながらきちんと譲渡審査して譲渡する責任があります。

伝染病や病気の知識、消毒の方法などの知識は不可欠です。病気も早期発見しなくてはなりません。

また保護猫の譲渡活動で重要なのは、その猫が将来繁殖してしまわないこと。よって譲渡前手術(NBA)で、不妊去勢手術をしてから譲渡する、といった基本を忘れてはいけません。

よって理解のある動物病院が近くにあって、よい関係を保たなくてはなりません。

NBAは社会貢献です。将来的に不幸な猫の数を減らし、そこでようやく殺処分ゼロ政策に貢献できます。

猫カフェという建物だけではなく、猫カフェの中の猫も、代表もスタッフもみんな幸せで、社会貢献する小さな猫の空間を、ぜひ作っていただきたいです。
ぜひがんばってください。

ご案内
西山ゆう子は、犬と猫の保護活動をする人を対象に、獣医学的アドバイスとサポートを行っています。スタッフの勉強会、個人相談、現場でのアドバイスに対応しています。

詳細は「お問合せフォーム」よりお気軽にお問合せください。

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Posted by Dr. Yuko Nishiyama