ロサンゼルスの山火事とペットの同行避難

アメリカ,人生・生活,動物愛護,被災

過去最悪の経済被害となるロサンゼルスの山火事

多くの皆さんから安否のご心配をいただきました。
わが家は山火事少し離れた場所なので、皆無事です。
ご心配ありがとうございます。

ロサンゼルスの郊外で現在3か所、山火事が発生して消火活動が続いています。
そのうちPalisades 地域のものが大きく、住宅地域に広がり、約17000エーカー、1000軒以上が焼失したそうです。
現在避難命令により約3万人以上が居住地から避難しています。

おそらくこの災害被害は過去最高で、推定520―570億ドルに膨れ上がるだろう、と予測されています。
天災被害としては、歴史上過去最悪の経済被害になるそうです。

火災やそれによる被害と同時に、現在当地で問題になっているのが空気汚染です。

もともとロサンゼルスはLA Basin と呼ばれるように大きな盆地のようになっており、3方向が山で、1方向が太平洋。
大きな山火事で発生した煙が大気に広がり、山からの風でロサンゼルス地域全体に広がっています。
外に出ると、かすかな焚火のような匂いど同時に、うっすらと霧がかかったような不透明な空気に包まれ、太陽が出ていても黄色からオレンジ色の世界になって不気味です。

しばらくすると、目がチカチカしてきます。
大きく燃えた化学物質が空気中に出ているために、化学物質の空気汚染があると言われ、住民はくれぐれも、なるべく外に出ないようにと自宅待機命令が出ました。
学校も、多くのエンターテイメント系のイベントも休校、中止。

街は恐ろしく静かになっています。
5年前の新型コロナの緊急事態宣言を思い出しています。
本当に家が全焼してしまった方はお気の毒でなりません。

山火事の原因

日本にいると「山火事自然災害」はあまりピンとこないかもしれません。
もともと砂漠気候である南カリフォルニアはこの時期、空気が非常に乾燥します。
そして、サンタ・アナ強風と呼ばれる、非常に乾燥した強風が周期的にやってきます。
この風で山の木が大きく揺れて、摩擦で発火したり、送電線から発したスパークの火が木などに飛んで発火したりするそうです。
たばこの不始末とか、あるいは誰かのいたずらが原因のこともあるようですが、多くはどんなに気を付けても自然に発生する天災の一つと言われています。
いったん火が発生すると、乾燥した山はあっという間に火が広がり、さらに強風によって今回もあっという間に火が広まってしまいました。

ペットたちの避難について

ここで、今回のロサンゼル山火事災害における、ペットの避難状況をお知らせします。

私はカリフォルニア獣医師会が共催している、カリフォルニア獣医療部隊California Veterinary Medical Reserve Corps (CAVMRC) という、災害時に被災動物の救護および手当をする災害獣医師の一員になっています。

この部隊は、災害時に獣医師会および災害に関するいくつかの公的な部署により、被災発生の非常時に結成され、必要に応じて発動命令が下されます。
現在私は自宅待機状態で、必要であればいつでも現場に行けるようにしています。
今回はまだ現場には呼ばれていませんが、詳しい状況は随時入手できる立場です。
よって、皆さまに一部ご紹介したいと思います。

避難命令


(私の携帯に届いた避難準備命令アラート)

住民の避難に関しては、日本と同じように、強制命令、勧告、そして避難準備をするよう注意喚起するなど、いくか異なるアラートが発令されます。
私の携帯にも来ました。

緊急アラート ロサンゼルス消防局より。あなたのお住まいの地区に避難注意が発令されました。周囲の状況に注意して、危険を察したら直ちに避難しなさい。家族とペットと一緒になり、避難用品を準備しなさい。天候、ニュースを聞き、alertla.org で詳細をみなさい。

この段階で、すでにペットと一緒に過ごし、一緒に避難というメッセージがあります。

避難命令が出たら

避難命令は、避難所に行きなさいという命令ではありません。
その場所から避難しなさいという命令であり、どこに行くかは個人の自由です。

ペットがいる、いないに限らず、避難命令が出た後に人間が行く先は、大きく分けて3つ。

a. 避難所 
b. 知人、親戚、友達など、一時的に泊めてもらえる家。
a. ホテル、モーテルなど有料の宿泊施設―民間会社や慈善団体などが費用をサポートすることが多々ある。

一方、ペットに関しては以下のオプションがあります。

b. ペットの同伴を認めている避難所で一緒に過ごす
c. ペットだけ、アニマルシェルター(ペットの避難所)で預かってもらう
d. 避難所以外の場所でペットと一緒に過ごす(知人宅など)

避難所ではペットを同伴してもよいか

基本的に、人間の避難所は人間のためのものです。
人間用のベッドや備品、簡単な食糧などは配給されますが、ペット用のものはありません。

今回のロサンゼルスの避難所では、各避難場所により若干差がありますが、ペットの受け入れに関してはおおむね以下のようになっています。

a. 基本は小型犬に限る。
b. 動物用の備品はすべて自分で持参しており、避難所での配給を必要としない人。すなわち、ペット用の食事、ボウル、尿シート、ベッドなど、すべて持参すること。
c. さらに、鳴き声、臭い、ノミなどで他の人に迷惑をかけないこと。

基本的に、ペットと一緒に避難所に入りたい人で、以上のことを守れる人は同伴を許しているようです。
ただし、鳴き声がうるさいなど、周りの迷惑になる場合や苦情が出た場合は、他に移ってもらうようにします。
また、同じ避難所の中で、ケージを積み上げたところ(外など)で、飼い主から離れて動物だけ別にされる、というのはありません。

場合によっては、小学校など、部屋がたくさんある避難所の場合、犬部屋、猫部屋などを設けて、同じ避難所内で、動物は別部屋というのもたまにあります。
しかし、動物用のケージやフード、備品をその場に搬入し、ペットを世話管理する人を派遣する手間やコスト、時間を考えて、「動物別室」はあまり普及していません。

アニマルシェルター避難所

日本でいう動物愛護センター(自治体の管轄)や、愛護団体が所有している動物のシェルターが、被災時には、動物の避難所として機能します。

普段は、譲渡対象のペットが住んでいますが、そもそも多頭の動物が住める環境ができている訳です。

アメリカでは、人は人の避難所、動物は動物の避難所に別々に過ごすことが多いです。

その理由はいくつかあります。

a. アニマルシェルターは、動物が安全、衛生的に住む環境であり、基本動物は個室(ケージ、パドック)で安全に滞在できる。
b. 伝染病などに配慮され、消毒や掃除に適した作りになっている。
c. もともと逃亡予防の作りになっており、間違って逃がしてしまうという事故が少ない。
d. 訓練されたスタッフがおり、またボランテイアも集まりやすい。
e. 中型犬以上の大きな犬も安全に保護できる。
f. 近所からの苦情が少ない。(吠えても大丈夫)。
g. 備品が豊富(ペットフード、ボウル、シーツ、他)
h. 獣医師が常在し、健康管理がしやすい

実際に、どこのアニマルシェルターも、普段から災害時用に備品を蓄えています。

どっちがいいか


小型犬を胸に抱いて、人間の避難所で一緒に過ごすのと、人と動物が別々に、動物はアニマルシェルターで安全な環境で過ごすのと、どっちがいいか。
どちらも良し悪しがあります。
しかし、多くの場合、ペットと避難する人は、どちらにも行かない人がほとんどなのです。

実はペットを所有しているアメリカ人は、「どっちも嫌だ」と考える人がほとんどなのです。

犬や猫を飼っている人は、避難命令が出たら、避難所やアニマルシェルターではなく、一定期間、自分とペットを一緒に預かってくれる友達や親戚の家に行くのが大多数です。
それゆえ、避難命令が出た時に、動物と一緒に泊めてもらえる家、を事前に考えている人がほとんどです。

あるいは、ペットだけ信頼できる友達や、遠い親兄弟のところに連れていき、「お母さんごめん、しばらくこの子お願い」と言って犬を預け、自分だけもどって被災した家を修復する、などはよく聞くパターンです。

アメリカでは、半数以上の世帯で犬か猫のペットを飼育しています。すなわち、ざっとみて半分以上の被災者は犬か猫と一緒に避難します。
これらの多くの人は、最初から人間の避難所や、アニマルシェルターに頼らず、知人親戚の家に直行しています。

大動物

今回山火事が発生したPalisades 地区は、ペットの馬を飼育している人が多い場所です。
馬は馬専用の避難所が設置されていますが、恐怖でうまくトラックに乗ってくれなかったり、複数馬を飼っている人は何度も往復するなど大変です。

また馬の獣医師は当地には少なく、CAVMRCの馬部隊は獣医師不足で、遠方から馬の獣医師を招集しているようです。

このような緊急事態に、馬や家畜などの大動物を避難させる途中、どうしても間に合わなくなったら外に逃がしてもよい、という緊急時の特例があります。
すなわち、火災で焼死するのを避ける最後の手段として、公道に馬、牛を放して、自分は逃げなさいということです。
これは非常に危険なので、通常は許されない行為です。
逃げ延びた馬や牛は、やがてどこかで捕獲され、タグやマイクロチップからオーナーのところに戻ることを前提とした救命処置です。

まとめ

ペットを飼育している人は、避難命令が出たら一緒に避難するのは、何よりも原則です。

そのうえで、自宅から逃げたらどこに行くか。
被災という特殊な環境下で臨機応変に対処しなくてはなりません。

普段から、避難所に頼らず、自分もペットも一緒に安全に保護してくれる親戚や友達を作り、お願いしておくのはとてもよいことと思います。

Providing is preventing
備えあれば憂いなし。

日本語にも英語にも、同じことわざがあります。
先人たちは、洋の東西を超えて、偶然にも同じことわざを作りました。

何千年という長い歴史の中で、災害が何度も人の命を奪い、動物の命を奪い、「あの時準備しておけばよかった」と後悔したからではないでしょうか。
その先人たちの想いをしっかりと受けとめ、次世代に伝えていきたいものです。

今回の災害の被災者、犠牲者、おそらく数えきれないほどの野生動物の命にお悔やみ申し上げます。
西山ゆう子

現場の写真などはこちらから