子猫に去勢手術をすると、尿道閉鎖になりますか?
子猫の去勢手術を断られました
Aさんより質問がありました。
私は猫の保護活動をしています。
生後3か月や4か月齢の健康な子猫を譲渡する前に、不妊去勢手術をしたいと思っています。
しかし、近所の獣医さんは、子猫にはしない、最低でも生後6か月まで待たないとできない、と言われました。
子猫の時に去勢手術をすると、将来尿道閉鎖になるから、ということでした。
アメリカでは生後5か月までに手術をするのが一般的と聞きました。
尿路閉鎖と子猫の去勢について、関係を教えてください。
下部尿路疾患と尿道閉塞
Aさんへ。
尿道閉塞(以下、尿閉と略)は、猫の尿道が狭くなったり詰まったりして、排尿ができなくなる大変怖い病気です。
尿閉の原因に関しては、過去長い間、いろいろ研究がされ、多くの学術論文で報告も出されてきました。
結論から言うと、現在、去勢手術の年齢と、尿道閉塞の発症に関連はない、とされています。
すなわち、6か月齢以下の、性成熟に達する前に去勢手術をする場合も、性成熟に達した生後7か月齢以上で去勢手術をした場合も、発症率に差がないことが判明しています。
去勢手術を行う年齢と、尿道閉塞の発症は関係ない、すなわち、生後6-7か月まで待ってから手術をしても、子猫である今手術をしても、尿閉の発生率は変わらない、というのが現在の認識です。
下部尿路疾患と尿閉
少し専門的になりますが、説明したいと思います。
猫に下部尿路疾患(FLUTD)という疾患があります。
これはオスにもメスにも発生する、泌尿器症状を呈している猫の総合的な病名です。
具体的には、
・排尿姿勢をしながら、オシッコの流れが悪い
・少量の尿を頻繁に行う
・排尿中の痛み(声を発するなど)
・泌尿器を頻繁に舐める
・トイレ以外の場所に排尿する
・血尿
・排尿困難、尿道閉鎖
などがあります。
このような一連の下部尿路疾患の症状の中の1つとして、排尿ができず、オシッコが膀胱に多量に充満するという尿道閉鎖があります。
下部尿路疾患の原因と治療
下部尿路疾患の原因は様々です。
・尿の中に結晶がある
・膀胱および尿道に、砂あるいは石がある
・尿路感染(膀胱炎)
・突発性膀胱炎(非感染性の膀胱炎)
・腫瘍、他
獣医師は各種の検査で原因を追究し、それに応じて治療を行います。
尿道閉鎖と原因
尿路閉鎖は、尿が全く出なくなり、膀胱が大きくなることで急性尿毒症を併発し、緊急処置をしないと死にも至るものです。
一般に、以下のものが尿道閉鎖に関与します。
・尿プラグ 尿の中のミネラル成分、炎症性成分、粘液などが結合して、やわらかい糊のようなプラグができてしまうと、それが尿道を塞ぎます。
・尿結石 ミネラルから成る結晶が発達して石になり、それが尿道を塞ぐもの。
・尿道炎 炎症により尿道の内膜が肥厚し、尿道を塞いてしまうもの。
子猫の手術と尿閉は関係ない
このような命に関わる尿閉。
中には発見が遅れて死亡してしまうケースもあります。
私たち獣医師は、過去に、どうしたらこの悲惨な病気の発症を減らせるか、いろいろ研究してきました。
そして確かに、過去には、性成熟になる前の若いオス猫に去勢手術をすることにより、尿道が未発達で細くなるために、尿閉が多発するという「仮説」もありました。
Aさんの最寄りの獣医さんが懸念したのは、過去の報告のためだと思います。
しかし現在、子猫の去勢手術と尿閉の関係は否定されています。
それが、猫専門学会や、獣医泌尿器系の専門家たちの一致した見解になっています。
2022年に、大学病院で会陰尿道瘻手術を行った過去の統計分析報告によると、去勢手術をした猫の年齢による差はないと結論されています。
この文献は専門委員会に支持されています。
参考文献 Neutering is not associated with early-onset urethral obstructions in cats, J. feline Med Surg 2022
尿閉になりやすい猫
尿閉になりやすい要因としては、1つだけではなく、複数の要因が関与していることが分かっています。
・遺伝的要因
・食餌の中のミネラル量とバランス
・食餌の水分量と、飲水量
・排尿頻度 猫の砂などの好み、および清潔さ
・肥満
・ストレス
・運動量
・ライフスタイル 室内猫に多い
・その他
予防
尿閉を予防するためには、その猫の体格や日常生活、食生活からライフスタイルまで、総合的なアプローチが必要です。
まずは最寄りの獣医師に相談し、尿や尿路内に石や結晶がないか、尿検査をしてもらうことをお勧めします。
また、尿路疾患用の処方食を予防的に使用するのを希望する人もいますが、腎臓に持病がある場合などは禁忌です。
また上記のように食餌だけで予防できるものではありません。
獣医師とよく相談したうえで決めてください。
早期去勢について
以上のように、早期去勢手術は尿路疾患に関与していません。
譲渡前に不妊去勢手術をすることは、不本意に繁殖してしまったり、子猫の遺棄やノラ猫を予防するのに絶対的に効果があります。
ぜひ、子猫の不妊去勢手術を、怖がらずに広めていただけたらと思います。
それが現在の獣医界の一致した見解です。
文責 西山ゆう子
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