動物保護活動に疲れたら 自分の限界を知ろう
壁?それとも限界?
飼えなくなってしまった動物を飼い主から引き取り、あるいはセンターからの引き取りをして、生涯飼育をする里親さんを探すという動物保護活動。
がんばって活動している人やその保護シェルターを訪問すると、感じることがいろいろある。
今の保護活動に疲れてきている人たちがいる。
特に私は日本の複数の愛護団体と関係を持ち、シェルターメディスンや運営アドバイスを行っているので、一歩入ると元気なシェルターと、壁にぶつかって余裕がなくなっているシェルターの違いを敏感に感じてしまう。
どこのシェルターにも多かれ少なかれ問題はあると思うが、今日は特に、少し疲れてしまっている方、団体、動物保護活動家の方へのアドバイスとして、個人的な意見を述べたい。
自分のシェルターの健康度の診断
まず、自分のシェルター、自分が保護している動物たち、そこに通って下さるボランテイアやスタッフ、そして自分自身を含めて、健全か、病んでいないかというのを冷静に診断することをお勧めしたい。
簡単なようで、自分や団体が病んでいる、改善が必要であると気づいていない人が多い。
毎日の多忙な業務に押し流されて、考える時間さえない、という人もいる。
自分のキャパシテイーを考えず、必要以上に無理をして多くの動物を引き取りすぎている施設に多々遭遇する。
いろんな部分で自分の限界以上に無理をすると、長続きしない。
以下、具体的にチェックする項目と、それに対する対処や予防を考えてみた。
キャパを超えていないか スペース
法改正により、環境省が数値を出してケージのサイズを明確したが、実際のシェルターでは、一律に一つの数値で決められるものではなのは、皆さんご存知の通り。
犬や猫の年齢やブリード、活発か外遊びが好きか、高齢か静かで狭い所が好きかというのは、個体差が大きい。
人がたくさん通る場所のケージが好きな犬、静かで孤立している部屋が好きな犬。
外の景色が見えるのか、3方向塞がって何も見えないのか。
1-2週間くらいで、譲渡されて出ている動物なのか、長期ステイになりそうな子なのか。
猫の場合も、大部屋に向いていない猫もいれば、逆に広さを好む猫もいる。
一般的に米国では、犬1匹あたり3X6メートルのプライベートラン、猫には1.5 X 1.7 メートル以上のケージがあるべきと言っている。
大型犬が少ない日本は事情が異なるとはいえ、環境省の基準はあくまでも最低基準だ。
判断するのは、現場のあなた自身。
犬がストレスで吠える、猫が快適に過ごせていない、伝染病やストレス性の病気が頻発するならば、収容する動物の数を減らすのがまず第一歩だと思う。
収容動物の幸せ、すなわち、5つの自由が満たされているかどうかを判断できるのは、動物のお世話をしているあなただけであろう。
キャパを超えていないか 世話人の数
次に、在所している動物たちの世話人の数についてチェックしてほしい。
1日何回散歩しているか。
散歩と散歩の間隔、特にケージ内で排尿しない子をどうしているか。
猫のトイレの掃除の回数。
食事の回数。
ブラッシングやトリミング、爪切り。
動物の病気のサインを、いち早く見つけているか。
ちゃんと観察できているか。
シャイな子、慣れていない個体の順化をきちんと行えているか。
動物にリラックスして、優しく接する時間があるか。
いつも散歩、排便排尿をせかしていないか。
人数のキャパの計算をしてほしい。
ボランテイアやスタッフの勤務時間を合計し、動物の世話や掃除、洗濯などの合計時間を計算し、在所する動物の数で割って1匹あたりの世話時間を出す。
これは、実際に犬猫に接する時間ではなく、細かい計算方法があるが、ここでは割愛する。
通常、1匹あたり30分以上というのがユニバーサルな目安。
人が足りない、世話が行き届いていないと感じたら、それはマンパワーのキャパを超えている証拠。
もしそうだとしたら、ボランテイアを増やすのがいち対策だが、通常は収容動物の数を減らす努力をすることが促される。
キャパを超えていないか お金
お金がなければシェルター経営はできない。
愛護団体、保護活動ボランテイアといえど、一組織の経営。
しかも、生きた命を預かっている大切な組織。
倒産したら、迷惑なのは動物であると同時に、それを緊急保護する他の団体が被害を被り、また動物愛護団体の社会信用も損なわれ、社会全体がその後始末をすることになる。
昨年1年間に得た収入を正確に計算してほしい。
ご寄付、自分の懐、会の物販で得た収入、すべてまとめた総計。
そして昨年1年間に費やした支出を割り出す。
フード、猫砂、医療費、人件費、電気水道代、家賃、ガソリン代、すべてです。
支出と収入を比べて、赤字ならば改善しないと崩壊です。
昨年はコロナで、この年は〇〇市の崩壊を引き受けたから、などと、なぜか、「去年は特別だった」と言い訳する代表が多い。
昨年が例外ならば、その前の年は例外ではないはずだ。
毎年きちんと計算して出してから、例外と判定して。
ついでに、1匹あたり、入所から出所まで平均何円、費やしているか、
把握してほしい。
毎日、運営に必要な、日あたりの実コスト。
1日に1匹あたりに費やす費用。
回転率。すなわち、1匹の平均在所日数。
すべてちゃんと計算して把握してほしい。
逃げも隠れもしない、それがあなたのシェルターの現実の数字であり、黒字でない限り、その日、すなわち施設が崩壊する日が必ずやてくる。
赤字の場合、寄付をさらに増やすのがいち改善策。
ならばきちんと、計画的、効率的に安定したご寄付を取得すること。
そして多くの場合、ご寄付だけに頼る運営は不安定、不確実でストレスを伴う。
しかも保証がない。
赤字なら、支出を減らすべき。
すなわち、動物を減らしなさい。
それが最も確実でストレスのない改善策。
キャパを超えていないか 環境
建物が古くなりすぎていないか。
木の素材は消毒が完全にできないので、シェルターや保護施設では使用禁忌とされている。
環境アンモニア濃度は2ppm以下。(アンモニア計測器はホームセンターで買えます)
適切な彩光。換気、湿度、室温。
動物が快適に過ごせない、そこで働くスタッフが快適に過ごせない環境ならば、改善の必要ありです。
動物を減らし、もっと動物たちが快適に暮らせるように、リモデルや改装、引っ越しを考えること。
施設の改善のための費用を捻出して、環境改善することが優先になる。
人間関係
複数のスタッフ、ボランテイアが集まれば、そこに人間関係が生じる。
その人間環境を乱さず、ポジテイブに維持するのは社長である代表の役目。
人の悪口や非難、いじめや無視など、思わしくないことが起こればしっかり原因究明し、改善を求めるなり解雇するなりする。
非健康的な職場環境は動物にストレートに影響する。
あなたに悲しいことがあった日に、帰宅して一番最初に気が付いてくれるのは誰ですか?
あなたの犬、猫でしょう?
皆が気持ちよく、人間関係がしっかりしているシェルターは、動物たちの顔つきも違う。
そこを訪問すると、1秒で私には伝わる。
人間どうしがうまくいっていない団体の動物は、皆悲しんでいる。
まして、団体の代表がワンマンで、スタッフが機嫌を伺うようなところは、問題外。
メンタルケアとSNS
獣医師や動物看護師もそうだが、動物を扱う仕事にはメンタルなストレスはつきもの。
時に動物の死に遭遇する。
がんばっていたのに、心無い人から中傷されることもあるだろう。
もっと早く気が付いてあげれば、と後悔することもある。
まして、SNSの世界での批評に心が壊れそうになる人も多々あるだろう。
そういう、折れそうな自分の心にどう向き合い、消化し、乗り越えるか。
やはり動物を本当に愛している仲間のサポートではないかと思う。
苦しくなったら、わかってくれる人に話してほしい。
そういう人の話を、しっかりと聞いてあげてほしい。
もちろん、重症な場合は精神科医やカウンセラーといったプロに頼ることもあるだろう。
動物保護活動に疲れたら、少し休むこと。
毎日会っているスタッフやボラさんに、ちょっと憔悴した様子があるのならば、気が付いてあげて。
心が疲れた人が、遠慮せず休める環境を整えてあげて。
セルフケア
ともすれば殺処分される運命だった動物の命。
それを保護し、世話をして譲渡につなげる。
小さな命を守るのを仕事にしているのならば、自分のこともしっかりと守ること。
最後に健康診断をしたのはいつ?
持病が悪化しているのに、時間がないことをいいいことに、無視していないか。
疲れが取れないのに、無理していないか。
時には動物から離れて、まったく違う空間と時間を自分に与えること。
最後にいい映画を見て感動したのはいつ?
最後にいい本を読み終えて感動したのはいつ?
最後に、勉強したいと思ったことをちゃんと勉強できたのはいつ?
自分自身への小さなネグレクトを続ける人に、他人(動物)の命を本当に守れる資格なんかない。
まとめ
いいシェルターとは、殺処分ゼロに貢献するだけじゃない。
どれだけ多くの子を引き取ったではない。
どれだけ大口のご寄付があるか、でもない。
どれだけ多くの芸能人がついているとか、どれだけSNSで話題になっているか、でもない。
私は実際にシェルターを見て、そこがいいか、悪いか判断する。
いいシェルターは、以下のようなところ。
どれだけ動物がゆったりしているか。
どれだけ衛生で、病気が予防できているか。
どれだけ動物たちが、穏やかに人と接触しているか。
どれだけそこのスタッフやボラが、輝いているか。
いいシェルターでは、すなわち、そこに住む動物と、そこに通うボランテイアと、そして何よりそこの代表が、みんな仲良くチームで働いているところ。
どうかどうか長く健全に動物保護活動をしてほしい。
動物のためにがんばるあなたを、心から応援します。
DrNishiyiama.com は、有料でシェルターのアドバイスを行っています。キャパシテイー計算や診断から動物管理、人事管理まで、広く全般的なサポートをいたします。行き詰った方はどうかお気軽にご相談ください。
西山ゆう子
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