ボルゾイ虐待窒息死事件裁判 講演会のお知らせ

2022年10月13日動物愛護,日本

3歳のボルゾイの不審死

閲覧注意
一部、衝撃的な画像がありますので、苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

2019年7月、秋田県在住のSさんは、飼っているボルゾイ犬、「ヴァロン」を、千葉県のブリーダー宅に預けた。
もともとヴァロンは、子犬の時にそのブリーダーから購入していた。
交配目的の期間限定のお預かりで、交配が終わる1か月後に帰宅する予定だった。

ところが、1週間後のある朝。
Sさんはブリーダーより「ヴァロンが死んだ」という連絡を受けた。

ヴァロンの遺体に見られた異常

千葉県と秋田県のちょうど中間点の高速道路のサービスエリアで、Sさんとブリーダーは会う約束をし、そこでヴァロンの遺体の引き渡しが行われた。

佐藤さんはヴァロンの変わり果てた姿を見て絶句したそうだ。

すらっと細身だったヴァロンの体重は、35キロから27キロまで落ち、削痩していた。

口の中が血だらけで、前歯が2本折れており、そのうち1本は無くなっていた。

口の中に、細かい毛の塊のようなものが絡みついていた。

首から背中にかけて、大きな青い内出血が皮下に認められた。

顔と前足に傷があり、カサブタ状になった傷があった。

その後、Sさんはヴァロンの遺体を地元の獣医師に診せて死後診断をしてもらった。
平行して警察に通報し、県警は動物死体鑑定のため、ヴァロンの遺体を病理解剖に提出した。

病理検査の結果と死因(簡略)

削痩、軽度脱水。
頭部と前足の関節部に軽い創傷
背中から右側の胴体部分の広範囲に、筋肉内におよぶ皮下出血
左第1,2切歯の破折
咽頭から気管部に軽度の食渣の貯留
気管、気管支、気管気管支分岐部に、多量の食渣が貯留。
重度の気管支の閉塞
胃内には少量の食渣。

死因 食渣が気管気管支分岐部に多量の食渣による窒息死

病理解剖獣医師のコメントとして、背中の内出血は、窒息時にもがいた時に、犬が自分で作ったかもしれないこと。
前歯が折れたのも、犬が自らケージを噛んで折れたのではと示唆した。

虐待の疑い

Sさんは、動物虐待を疑って、ブリーダーを相手に民事裁判を起こした。
Sさんが感じた動物虐待の疑いは以下のとうり。

健康なヴァロンに適切な食餌を与えなかった。

前足をロープで縛るといった束縛行為をしたのではないか。

棒のような物を使って威嚇し、それに噛みつかせたため、ヴァロンの歯が折れたのではないか。

背部を、板のような道具を使って、強い力で叩いたのではないか。

弱っている、あるいは意識消失したヴァロンに対して、カテーテルのような物を用いて流動食を強制給餌をしようとした。その時食道、胃ではなく、誤って気管に管を入れてしまい、気管支内に多量に給餌し、窒息させたのではないか。

ヴァロンの折れた前歯(閲覧注意)

動物虐待か、事故か

Sさんは動物虐待を疑ったが、ブリーダーは虐待を否認した

以下、ブリーダー側の説明である。

体重減少に関しては、適切なドッグフードを与えていた。
最初はカップ3倍のドライフードを完食したが、その数粒しか食べなくなった。
死亡する前日には、カップ1杯程度を軽くふやかして、肉汁を含んだおからを混ぜたものを食べさせた、と供述。
顔や前足の傷(カサブタ)に関しては、縛ったり殴ったりしていない。
前歯が折れて出血したことに関しては、棒のような物を噛ませたり叩いたりすることは行っていない。
背中を叩いていない。
ヴァロンに強制給餌を行っていない。

裁判では、虐待行為があったかどうか、そして、交配のために犬を一定期間預かるという管理責任の2つに焦点がしぼられた。

動物虐待の判決

コロナ禍のため長期化した裁判の一審判決が2021年8月に出た。
判決は、Sさんの訴えを一部認め、犬への暴行行為に対して計66万円の賠償を命じる判決を行った。

裁判官は、ヴァロンの背部の内出血は、暴力行為があったと思われること、窒息死の原因は、強制給餌によるもの認めた。

ヴァロンが窒息死したのは、気管支部分に誤って強制給餌をし、そのための窒息死であることを認めた。
背部の広範囲におよぶ内出血に関しては、故意に暴力をふるったためにできと思われるとした。
また、死亡当時のバロンの胃内には、少量の食渣しかなかったことから、ブリーダーが供述した、「肉汁おからを含む、ふやかしたカップ1杯のふやかしたフードを与えた」に関しては、信ぴょう性がないとした。

一方、折れた前歯に関しては、意図的な暴力との関連性が証明されていないとした。

ヴァロンの窒息死裁判のハイライト

事件と裁判を振り返り、この裁判の画期的だったことは、以下。

以下のような状況であったにも関わらず、裁判では動物虐待を一部認めたこと。

1. 加害者は、動物虐待をしていないと否定していた。

2. 虐待を行った時の証拠の写真、動画が一切なかった。

3. 虐待の目撃者もいなかった。

4. 動物虐待を疑う、近所の人による通報もなかった。

5. 虐待現場の検証がなかった。

6. 病理解剖の鑑定は、原因として虐待との関連を示さなかった。
背部の内出血は、犬がケージなどに自分でぶつかった可能性があること。
前歯は、犬がケージを噛むなどして起こった可能性があること。

7. 以上の状況から、ヴァロンの死因、外傷に関して、一つ一つ法医学的に虐待の証明していったこと。

法医学裁判

今回の裁判は、法医学的なアプローチで勧められた。

原告の弁護士が非常に有能であったのはもちろんだが、証拠である解剖結果を深く分析して、理論的に虐待への因果関係を証明することが認められた。

現在の日本の動物虐待は、多くが、動画や写真、内部告発といった証拠や、目撃者があるケースがほとんど。

逆に、動画や内部告発でない限り、刑事訴訟しても不起訴になることが多々ある。

虐待した人がNOと否定し、動画がない、目撃者がいないケースでは、虐待が証明できない。これではまだまだ司法制度が未熟と言えないか。

ヴァロンの窒息事件の裁判を振り返る講演会のお知らせ

動物虐待の証明とは?
法医学的アプローチとは?
ヴァロンのケースを詳しく振り返る、講演会が企画されました。

2022年11月19日。秋田県由利本荘市で、生の講演会が開催されます。
ヴァロンの裁判の原告弁護士である高城弁護士と、私西山による講演。
さらにヴァロンの飼い主様の当事者を囲んで、今後の動物虐待の訴訟に関することを、深く掘り下げるトークを予定しています。

当地は源泉で有名な温泉地でもあります。
コロナも一段落した今、慰安を兼ねて、合流しませんか?
遠方からの参加者も大歓迎しております。
多くの方の参加をお待ちしております!

動物虐待の裁判について、深く考えましょう。

詳しくはホームページよりお申込みください。
要予約

最後に、3歳の若さで急逝虐待死したヴァロン君のご冥福を、心からお祈りしたいと思います。
また、動物虐待されて命を落としたにも関わらず、動画や目撃者がいないというだけで、不起訴になったり、虐待が証明されなかった無数の動物たちの命に改めて、ご冥福を祈りたいと思います。
西山

関連サイト、資料

東京地方裁判所民事第18部 判決文
交配のため預けた愛犬が窒息死、ブリーダーに損賠命令判決…「被告が暴行」
読売新聞オンライン

2022年10月13日動物愛護,日本

Posted by Dr. Yuko Nishiyama