預かりさん〜動物を引き取るのではなく、あずかる人たち〜
「あずかりさん」とは

「殺処分ゼロ」を目指す動きが広がってから、日本の動物保護活動は目まぐるしく変化しました。
自治体の施設(保健所や愛護センター)で殺処分される犬猫を救おうという福祉意識が広がり、センターから保護動物を引き出すことで、多くの自治体が殺処分ゼロを達成、あるいは殺処分数の減少に成功しています。
一方で、引き取りを行う保護団体や個人が「今すぐ殺処分されてしまうかもしれないこの子を救いたい」という一心で引き出しを進める中で、「自分の家は満杯でこれ以上飼えないけれど、誰かが一時的に預かってくれるなら救える」という場面が生じます。
通称「預かりさん」とは、こうした保護活動者からの依頼により、「では私が一時的に預かりましょう」と手を差し伸べる人たちのことです。
また「預かりさん」は、保護団体からだけでなく、一般の飼い主が何らかの理由で飼えなくなった犬猫を個人として一時的に預かるケースもあります。
「預かりさん」と「保護団体の預かりボランティア」の違い
ここが非常に誤解されやすいため、明確に区別しておきます。
犬猫を保護するシェルターを持つ保護団体の中には、集団生活が苦手な子やケアが必要な子を、シェルターではなくボランティアの自宅で生活してもらうことがあります。
これは通常、団体とボランティアとの強い信頼関係のもとで行われ、住む場所がボランティアの自宅であっても、動物の所有権や管理責任はあくまで保護団体にあります。必要があれば譲渡会にも連れていきます。
今日お話しする「預かりさん」は、この団体所属の「預かりボランティア」とは全く別のものです。
自称「ボランティア」と名乗っている場合があっても、特定の一つの保護団体に所属しておらず、団体の代表やルールの指示に従うこともありません。あくまで自らの判断と意思で預かることを決定しています。
預かりさんの業務(有償預かり)

これらは「有償引取り」や「下請け預かり」とも言われています。個人や団体から対価(報酬)を得て動物を引き取り、自身の自宅や所有スペースで保管・管理を行う個人または事業者のことを指します。
スタートは善意や正義感からであっても、対価(預かり料・引き取り料など)が発生している点において、実質的な「預かりサービス事業者」として機能している実態があります。
預かり業は合法ですか?
動物を一時的、あるいは終生預かるということ自体は、法的に正しく手続きを行っていれば完全な合法ビジネスです。実際、「預かり業」という名称ではなくとも、合法的に成り立っている動物預かりのビジネスモデルはたくさんあります。
• 自宅に訪問して一時的に世話をする「ペットシッター」
• 自社施設で短・中期間預かる「ペットホテル」
• 終生預かって死ぬまで看取る「老犬ホーム」「老猫ホーム」
名称にかかわらず、「報酬を受け取ってペットを一定期間、あるいは永久的に預かる・引き取る」という業務は、適切な登録を行っていれば合法的に行うことができます。
健全な預かり業の条件
預かりサービスを健全に成立させるためには、以下の条件が不可欠です。
1. 第一種動物取扱業(種別:保管)の登録および法令遵守
2. 明確な利用規約・委託契約書の作成(所有権の所在、医療費の負担区分、死亡時の対応などを明記)
お金を受け取る際に「お礼金」「ご寄付」「フード代・実費」といった名称にしていても、定額の預かり料など実質的な対価(金銭取引)が発生している以上、法律上は「ボランティア活動」「保護活動」とはみなされず、第一種動物取扱業(保管)の登録が必要な「営業行為」となります。これは環境省や各自治体でも明確に示されています。
預かり期間中の「所有権」について
日本語の「預ける」「預かる」は、所有権が元の飼い主や依頼者(預け主)にある状態を指します。一方、「引き取る」「引き渡す」は、所有権が引き取った側へ移動することを意味します。
この曖昧さがトラブルの元になります。正しいビジネスモデルでは、事前の契約によって所有権の帰属を明確にしておかなければなりません。
また、預かり期間中に病気や事故が発生した際の「医療費の支払いはどちらが持つのか」、万が一急死した場合の「ご遺体の火葬や返還などの対応」についても、事前に合意して書面に残す必要があります。
預かりさんに関わる構造的問題点

では、保護活動の現場や個人間で発生している「預かりさん」には、何が問題なのでしょうか。
• 契約の不明瞭さ
契約書が交わされない、あるいは内容に不備が多く、保管期間、返還条件、緊急時の医療対応、死亡時の対応などが明記されていない。
• 所有権の曖昧さ
返還を求めた際に「譲渡されたと思った」「逃げた」「死亡した」と主張され、依頼者が確認できない状況に陥るケースがあります。そもそも預かり側に譲渡権限があるのか、事故や死亡時の損害賠償責任はどうなるのかが事前に明確化されていません。
• 飼育環境のブラックボックス化
個人宅で行われることが多いため、第三者や依頼者が内部の飼育環境を確認しにくい構造になっています。
預かりさんと「多頭飼育崩壊」
過去の事例でも、個人でいわゆる「預かり業」を行っていた人物が多頭飼育崩壊を起こし、動物愛護法違反などで逮捕・起訴されたニュースを目にしたことがある方も多いでしょう。
預かり業をしている人が全員ホーダー(収集癖により多頭飼育崩壊を起こす人)というわけではありません。しかし、もともと多頭飼育崩壊を起こしやすい資質を持つ人が「預かりさん」になることで、預かり料という収入を得ながらより多くの動物を集めやすくなり、結果として過酷な多頭飼育崩壊へ突き進んでしまうケースが存在します。
警戒すべき「預かりさん」の特徴
では、どういった「預かりさん」に警戒すべきなのでしょうか。多頭飼育崩壊を起こしやすい危険なサインは以下の通りです。
• しっかりとした契約書を作らない・交わさない
期間、費用、日常の管理方法、病気や死亡時の対応、医療費負担について事前に書面で明記しないケースです。
• 保護動物の「譲渡権限」が曖昧
預かり期間中に譲渡希望者が現れた際、誰が譲渡決定権を持つのかが事前に決まっていない。
• 飼育場所の透明性がない(家の中を見せない)
普段暮らす部屋の環境(ケージ飼いなのか、同居動物は何頭いるのか、清潔か、給餌給水の頻度、散歩やトリミングの対応など)を、預ける側が見学・確認することを強く拒否する。
• 定期的なコミュニケーション・報告がない
写真付きの定期報告(週1回など)や、体調不良・脱走・譲渡希望などの緊急連絡体制を事前に約束できない。
「家の中を見せてくれない」問題と行政の限界
個人宅の場合、無登録の一般人に対しては行政職員であっても警察の捜査令状がない限り、本人の同意なしに強制的に室内へ立ち入ることはできません。
しかし、動物を預ける依頼者が「事前に飼育環境を見せてほしい」と求めることは当然の権利であり、違法でも何でもありません。健全な預かりさんであれば、環境を隠す理由がないため快く見せてくれるはずです。頑なに室内を見せることを拒む預かりさんには、絶対に動物を預けてはいけません。
なお、正規に第一種動物取扱業(保管)の登録をしている事業者に対しては、行政(都道府県等)が法令に基づき令状なしで立ち入り検査を行う権限(動物愛護管理法第24条)を持っています。だからこそ、相手がしかるべき登録を行っているかどうかが非常に重要な意味を持つのです。
健全な預かり環境・ビジネスを推進するために必要なこと
現状のトラブルの多くは、「行き場のない動物の一時しのぎ」と「不透明な金銭授受」に頼っており、持続可能な保護活動とも健全なビジネスとも言えません。
これらを解決するためには、以下の取り組みが不可欠です。
• 第一種動物取扱業(保管)の登録・徹底
有償で預かる以上、無登録営業は明確な動物愛護法違反(無登録営業に対する罰則)となります。
• 明確な契約書・利用規約の徹底
所有権、費用負担、医療判断、死亡時の対応を双方で合意した書面を交わす。
• 適正飼養数(キャパシティ)の上限設定と監視
自身の管理能力を超えた頭数を預からない仕組みと、第三者によるチェックを受け入れる体制。
なぜそこまでして「センターからの引き出し」を行ってしまうのか?
この問題の背景には、「殺処分ゼロ」という数値目標への過度な執着やプレッシャーが存在します。
• 「引き出し」自体が目的化する構造
センターからの殺処分を免れさせることが最優先され、引き出した後の適切な譲渡ルートや適正な飼養環境が整わないまま引き出してしまうケースが生じます。
• キャパオーバーの転嫁
自身のシェルターや自宅が満床になっても「救わなければならない」という強い思いから引き出しを続け、溢れた分を外部の「有償預かりさん」へ押し出してしまう負のサイクルが形成されてしまいます。
今後の展望と解決へのアプローチ

動物保護活動の真の目的は、単に「殺処分数を減らす数値達成」ではなく、「一頭一頭が適正な環境で幸せに暮らすこと」であるはずです。
そのために重要なのがトレーサビリティ(追跡可能性)の確立です。
自治体のセンターから引き出された動物が、最終的に誰のもとで、どのような環境で暮らしているかを最後まで把握する仕組みが必要です。これは有償の預かり業者に限らず、保護団体自体についても「いつまで施設にいて、死亡したのか、譲渡されたのか」という推移の統計と透明性が求められます。
行政は保護団体に動物を「渡して終わり」にするのではなく、譲渡後の経過までしっかりとトレースし、その結果を公開していくべきです。
まとめ:トラブルを防ぐために私たちができること
【預かりさんに依頼する人・団体ができること】
1. 必ず事前に対価と条件を明記した書面契約を交わす
(所有権、費用、医療対応、譲渡権限、死亡時の対応、定期報告ルールなど)
2. 飼育環境(室内)を事前に自分の目で確認する
(見学を拒否する相手には絶対に預けない)
3. 相手が「第一種動物取扱業(保管)」の登録を行っているか確認する
4. 「殺処分ゼロ」という数字だけにこだわらず、一頭一頭の動物福祉(クオリティ・オブ・ライフ)を最優先にする
【行政に期待すること】
1. 無登録で有償預かり業(実質的な保管業)を行う個人・業者に対する厳格な指導と摘発
2. 多頭飼育崩壊の予備軍を早期に発見・監視するための立入調査と行政介入の拡大
3. 「ボランティア」や「無償の保護活動」を装った違法な有償預かりビジネスの見逃し防止
預かりさんによる多頭飼育崩壊は、発見された時にはすでに深刻なネグレクト状態に陥っており、規模も大きく非常に悲惨なケースが多いのが特徴です。
「命を救いたい」という善意が悲劇を生むことのないよう、私たち一人ひとりが厳しい目を持ち、行政や地域コミュニティ全体で「透明性のある適正な預かり環境」と「トレーサビリティ」を確立していく必要があります。
文責 西山ゆう子
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