犬と猫が熱中症になりかけたら  自分でできる救急処置

2025年7月7日アメリカ,人生・生活,動物愛護,日本,獣医療・ペット

動物病院に行く前の応急手当が致死率をぐっと下げます!

今年も暑い夏がやってきました。
今日は犬と猫の熱中症について、もう一度おさらいしましょう。
そしてもし、自分のペットが熱中症になりかけている場合に、自分で行う応急手当について説明します。

熱中症の応急処置は、Cool Down. 涼しくさせること。

ただし、症状が重篤な場合は、自宅で行う救急処置だけでは効果がなく、直ちに動物病院に連れていかないと死亡するケースが多々ありますのでご注意ください。

動物病院に行く場合も、まずは自宅での応急手当を試してみてください。

熱中症とは

暑い環境に置かれた状態が長く(個体差あり)続き、自力で体温調節できなくなり、体温が40度以上に上昇し、運動機能、内臓機能、脳機能に支障をきたすもの。重篤な場合は死に至るもの。

典型的な症状

高体温 直腸体温が上昇、特に40℃以上
激しいパンテイング(犬)、流延(よだれ)
呼吸数の上昇 犬猫 60回/分以上
心拍数の上昇 犬猫 200回/分以上
嘔吐、下痢、失禁、ふらつき
脱水
意識低下(反応が鈍い)、痙攣、意識消失(反応なし)。

注意!
意識低下、失禁、ふらつき、痙攣、意識消失の場合は、緊急状態です。応急処置をしながらただちに動物病院にて医療手当を受けてください

熱中症になる要因

高温の環境下に長く(個体差あり)いること
多湿の環境下
換気の悪い環境下

多くの場合これらが重なると発症しやすくなります。

熱中症になりやすい犬と猫の特徴

熱中症は誰にでも起こります。
ただ、以下の動物たちは特に起こりやすいので注意が必要です。

・短頭種 フレンチブルドッグ、ボストンテリア、シーズ、パグなど
・老齢動物
・肥満
・子犬子猫
・長毛
・黒い毛色

また、以下の既往症のある動物も発生しやすいです。

・気管虚脱、軟口蓋異常
・心疾患、肺疾患
・甲状腺機能低下症
・貧血
・クッシング病、アジソン病。
・糖尿病
・認知症、関節疾患
・ストレス下にある動物 多頭飼育崩壊現場など

フレンチブルドッグなど、生まれつき熱中症にかかりやすいペットもいれば、加齢などにより以前よりも熱中症にかかりやすくなる子もいます。
また甲状腺機能低下症など、見逃されている基礎疾患もあります。

普段から定期的に健康チェックをぜひお勧めします。
関節疾患の動物は、暑くても避難できない、あるいは迅速に動けないためにリスクが増します。
認知症の場合は、暑がるという初期サインを飼い主が見逃しやすいというリスクがあります。

自宅で行う応急手当

さて、比較的軽い熱中症の場合は、まず自宅で迅速に以下のことを行ってください。

1. 涼しい場所に移動させる。

まずは部屋全体を涼しくしてください。これは何よりも重要なことです。

通常22℃以下、できれば速く涼しくできる小さめの部屋が理想です。

2. 濡れタオルで被毛と皮膚を濡らす

冷たい冷水の必要はありません。
水道水で十分です。

タオルをひたひたに濡らし、動物の胴体と四肢を濡らしてください。

特に毛の短い腹部、脇下、鼠径部、四肢のパッド部分などが有効です。
首や胴体も濡らしていいですが、目と耳に水が入らないように。

シャワーや桶を使う必要はありません。

体に付着した水分が蒸発し、それによって体温が下がる生理機能を利用するものです。
高熱動物が濡れると、体温により見る見る水分が蒸発します。

冷却パックや冷却グッズは、使用してはいけません!

保冷パック、アイスパック、冷たい冷水が体に接触すると、皮膚の血管が収縮して逆効果です。
アイスが接触している部分は冷たくなりますが、全体の体温は下がりません。
人用の冷却スプレーやミントなどの塗る商品も動物には使わないでください。

体表の血管を収縮させないことが大変重要です。

大切なのは、暑がっている動物に涼しく感じてもらうことより、一刻も早く体温を下げることです。

高く上がった体温を下げるためには、体表の水分蒸発がいちばん効率がよいのです。

3. 扇風機、ファンなどで軽く送風する

体を濡らすと同時に、送風することがとても重要です。

これは、体から放出された熱と蒸発した水分を、すばやく体表から逃がしてあげて、熱の放出と水分の蒸発を効率よく行うためです。

送風は強風の必要はありません。やさしく体全体に吹きわたるようにしてください。
動物の近くに扇風機をおいて、「中」くらいの送風でよいでしょう。

扇風機がない場合は、うちわであおいでください。

「人は被毛がないから風を涼しく感じるが、動物は感じないので送風しない」と言う人がいますが、これは、動物が涼しく感じるための送風ではありません。

熱中症時の熱の放出を促すための「空気の循環」のためのテクニックです。

この、「濡らして送風」テクニックは、動物病院でもっとも広く用いる第一の応急手当です。
自宅でも十分に行うことができます。

4. 水をオファーする(水を飲むか試してみる)

動物が涼しくなり少し落ち着いたら、水ボウルを近づけて、動物が自分で水を飲むか試してください。

もし飲水しないならば、決して無理に飲ませないことです。

シリンジやスポイトで無理に飲ませると、気管に入ったりむせたりします。

飲水は、もし脱水していたらヘルプになりますが、水を飲ませても体温はさがりません。
無理に飲ませる必要はありません。

5. できれば動物の体温を測定してください。落ち着いたら動物が低体温になりすぎないように気をつけなくてはなりません。

熱中症と脱水症

熱中症と脱水症を混同している人が多々います。
熱中症と脱水症は全く異なるものです。

熱中症になると脱水を併発するケースが多々ありますが、熱中症を伴わない脱水もあります。
また脱水すると熱中症になりやすくなります。
それゆえ、十分に水を飲んで脱水症を予防することは、熱中症の予防につながります。

もし熱中症になった場合は、体温を下げることを何より優先します。

熱中症でハアハア言っている犬に、無理に水を飲ませても意味はなく、むしろ誤嚥性肺炎を引き起こすことが懸念されます。

再度言いますが、反応が鈍い、意識がほぼない、痙攣している場合は、一刻を争う緊急事態です。
体表を濡らして車内温度を下げ、一刻も早く動物病院に連れていってください。

熱中症の予防

熱中症の予防は、まずは、高温多湿の環境に長く置かないこと。(空調管理)
運動も散歩も短時間に、暑い時間を避けること。
水分をまめに補給すること(いつでも新鮮な水が飲めるように)
クールグッズを使用するのも有効です。

・部屋は空調を入れ、特に湿度の管理に努めること。

一般的な健康な犬猫は、室温25-28℃、湿度40-60%を目途に。

・高齢動物、短頭種などはやや低めの室温設定を。

・十分な水分補給。

・冷間マットや首輪、ベストを使用する。

・嫌がらないなら保冷剤(食べると毒なので監督下で使用)の使用も。

・ミントやメントール系はあまり効果がなく、動物が嫌がることが多い。

一般的な生活の注意

・散歩は早朝、夜に。
・必ず手で舗装道路、道の熱さを確認し、低温火傷に注意。
・屋外の運動を控え、散歩も短めに。
・食欲、特に飲水量を注意深くモニター
・オシッコが通常より黄色いのは脱水ぎみのサイン。

最も効率よく体温を下げる方法

熱中症ではなく、運動などで体温が一時的に上昇してしまった犬が、最も効率よく体温を下げるのはどんな方法か、というのがアメリカで研究されています。

これは農場を走り回る牧羊犬や、仕事をする警察犬などの現場では重要なことです。
炎天下や火災現場で生存者を探す救助犬などもそうですね。

熱中症にはなっていない、走り回ることなどで一時的に体温が上がってしまった犬に、①目と耳を含む顔に濡れタオルを充てる②首に濡れタオルを巻く③首にアイスパックを巻く④瞬間的に顔と頭をバケツなどの水につけて、水を飲まずにすぐに顔を上げるように犬をトレーニングさせておいて、30秒以内に3度、22℃のバケツの水に顔を突っ込んでもらう。
この4つの方法を比較すると、圧倒的な有意差を持って、顔を瞬時に22℃の水につける方法が、効率よく体温を低下させたという文献があります。(上の写真参照)

この方法はアメリカでは人気で、トリートなどで犬を予めしつけておくと、嫌がらずに喜んで「head dunking」するようになり、犬も楽しみながらクールダウンするします。
注意 熱中症の犬には決して行わないでくださいね!

熱中症にさせてしまう飼い主さんはどんな人?

さて、実際に熱中症にさせてしまった、という飼い主さんたち。
場合によっては愛犬、愛猫の命を失ってしまう方も多々いらっしゃいます。

今日「犬も熱中症になるんですか?」などと熱中症を知らない、という方はまずいません。
皆さん、ちゃんと熱中症の存在を知り、皆さんそれなりに気を付けていた人たちです。
それでも誤って、熱中症にさせてしまうんですね。

ではどうしてでしょうか。

皆さん口をそろえて「気を付けていた、大丈夫と思った」と言います。

いつもエアコンを29℃に設定していて大丈夫だったから。
毎年玄関の板の間に置いて風通しをよくしていたら、大丈夫だったから。
毎日20時過ぎに散歩に行って大丈夫だったから。

おそらくそこに共通しているのは、「気を付けているから大丈夫」。「今まで大丈夫だったから」という過信なのでしょう。

しかし、気温は日によって変わります。
動物も加齢すれば水面下で病気のこともあるでしょう。

どうか自分の動物をもっと注意深く見てください。

散歩していても、家の中にしても、ペットはいきなり熱中症になりません。

少しずつ体温が上がり、パンテイングや心拍数が増え、様子がおかしくなります。

このような飼い主は、「大丈夫」という過信から、動物をよく見ていません。
初期症状を見逃しているのです。

皆さん、SNSやサイトの情報はよく見ます。
舗装道路を手で触り、温度計も、エアコンのモニターもよく見ます。

でも最も大切なのは、あなた自身の犬、猫を見ることです。

20時過ぎであっても、舗装道路が熱くなくても、室温が28℃でも、関係ありません。

あなたの動物が「暑いよ」と発するサインに、気がついてあげてください。

それができるのは、飼い主であるあなた、だけなのですから。

皆さんどうかくれぐれも安全に、暑い夏をお過ごしくださいね。

文責 西山ゆう子

シェアはご自由に行ってください。
引用する場合はご一報いただけるとうれしいです。

参考文献
https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/262/12/javma.24.06.0368.xml#:~:text=Trained%20voluntary%20head%20dunk%20with%20limited%20water%20ingestion,normal%20mental%20status%20and%20ability%20to%20pause%20panting.

2025年7月7日アメリカ,人生・生活,動物愛護,日本,獣医療・ペット

Posted by Dr. Yuko Nishiyama