SFTS と地域猫 地域猫の世話と捕獲時の注意

動物愛護,地域猫,日本

SFTS と地域猫 地域猫の世話と捕獲時の注意

SFTSの注意喚起

今日は重症熱性血小板減少症候群(以下、SFTS)という病気について復習し、主に地域猫などの外猫と接触する人の注意点を書きたいと思います。

【注意・重要】

SFTSはペットから人に感染する人獣共通伝染病です。
ここ数年全国的に広がり、ペットおよび人への感染者が増加しています。
感染した犬、猫、人は死亡することもある危険な伝染病です。
病気の発生頻度、感染リスクは居住地、マダニとの接触頻度、ライフスタイル、年齢、健康状態に左右されます。

このブログはあくまでも私個人の知見と意見を表したものにすぎません。
詳しくは厚生省や獣医師会などの広報および、居住地域の自治体からの詳細を参考にしてください。
このブログの情報がすべてではありません。
また各ペットおよび地域猫に関しては、最寄りの獣医師の診察を受けて相談してください。

SFTS 概要

SFTSは、バンダウイルスによる伝染病で、ヒトを始め、犬、猫、アナグマ、シカ、イノシシ、タヌキ、キツネなどの複数の野生動物に感染します。
2011年に中国で初めて発見されて以来、2013年に初めて日本で確認されました。

以後日本では、毎年100人以上が感染、発病し、約20-30人の死亡者が出ています。
SFTSはマダニが媒介します。
このウイルスは野性のシカが天然のレゼルボア(保有宿主)となっており、日本大多数のシカはSFTSウイルスを持っています。
しかしシカは発病、死亡せず、ウイルスと共存します。

このシカの血を吸ったマダニが、タヌキやイノシシといった野生動物や、犬、猫、さらにはヒトに移動し、吸血する時にSFTSウイルスが伝播します。
また、いったんSFTSに感染して発病した犬、猫、ヒトは、血液や体液と接触することで、次の個体に伝染することができます。
すなわち、ダニを介してと、ダニを介さず直接接触する、の両方の方法で、SFTSは感染します。

少し前までは、SFTSは西日本(関西以南)に限定して感染者が出ていましたが、その後中部地方から関東、昨年は北海道にも発生がありました。
よって今では基本的にどの地域にもある全国的な病気であると認識されています。

ウイルスの伝播、感染の方法

マダニを媒介するサイクルは以下のどおり

マダニがシカの血を吸う。
その時にSFTSウイルスも一緒にダニの体内に入る。
そのダニが犬、猫、ヒトや野生動物に移動し、吸血する。
その時にSFTSウイルスが次の個体に伝染する。

マダニを媒介しない場合の伝染方法は、以下のとおりです。

SFTSに感染した犬、猫、ヒトの血と体液が、次の個体に接触することで体内に侵入する。
血液や体液で伝染する。
すなわち、感染者の血液、唾液、呼吸器分泌物(鼻水、淡など)、糞便、尿、嘔吐物などです。
これらの血液と体液が、動物や人の皮膚、結膜(目)、鼻粘膜、口腔粘膜、皮膚などに接触すると感染します。

ヒトが感染するのリスク

人間が犬、猫から感染する時、一番危険なのは、感染動物に咬まれることです

次に、感染動物を撫でたり、あるいは感染動物の唾液、分泌物、糞尿、場合によっては吐物を触ることで感染します。

無意識に自分の鼻や目、口を触ることで移ります。
また感染動物が食べた後の食器、トイレを扱うことでも感染リスクがあります。
怖いですね。
またさらに、SFTSで死亡したヒトや動物の死体を触ることからも、SFTSは伝染することがわかっています。
不審死した犬猫の死体を扱う時も、十分に注意いなくてはなりません。

発病率、致死率

感染率とは、過去にウイルスと接触をして、体内に抗体がある個体が、人口全体のどのくらいの割合かというもの。

発症率は、ウイルスと接触をした後に発病する率。

致死率とは、発病(発症)した後に悪化して死亡する率。

ただし現在、調査自体が多くなく、また調査時期、規模により差があるため、統一した見解にまで達していないらしい。今後さらなる調査が必要とのこと。

犬のSFTS
感染率 数%から数10%
発症率 おそらく10%未満とされる。
致死率 26-40% 報告により差あり

猫のSFTS
感染率 不明だが、それほど多くないと推定されている。ノラ猫を含め、感染率が多いという報告はない。
発症率 低い。おそらく10%未満
致死率 60-65%? 犬より高い。

ヒトのSFTS
感染率 低い 0.1-1%
発症率 感染したらほぼ全員発病するとされている。
致死率 20-30% 50代、60代以上に多く、高齢ほど高い。

犬と猫は、感染しても発病に至らない個体が多いのがわかります。

一方人間は、いったんウイルスと接触すると、ほぼ全員発病するという違いがあります。
これらの症状が出た場合は、すみやかに医者、獣医師に診察し、診断治療をしなくてはなりません。

犬と猫のSFTS感染のまとめ

犬も猫も、SFTSには、マダニが体について吸血される場合と、SFTSに感染した他の犬、猫、又は野生動物と「血液粘膜接触」する、の2つの経路で感染します。
よって給餌皿やトイレを共有する、またはグルーミングでも伝染します。

死体と接触することでも感染します。
しかし、ウイルスと接触しても発病しない個体が大多数。
すなわち、結構そうに見えてもウイルスと過去に接触した可能性があります。

ヒトのSFTS感染のまとめ

ヒトも、マダニに吸血されることと、感染動物(犬、猫、ヒト)と血液粘膜接触することで感染します。
咬まれる、引っかかれるというのが一番リスクが高いですが、感染犬猫を撫でたりすることでも感染します。
また感染犬猫の体液のついた、皿やトイレを介しても感染します。
SFTSで死亡した死体を触ることでも感染します。
ヒトはいったんウイルスに感染すると、多くが発病します。

SFTSウイルスの症状と検査

種によって若干差があるものの、犬、猫、ヒトともにおおむね以下の症状があります。
・発熱、元気低下
・食欲低下
・胃腸症状 下痢、嘔吐
・白血球、血小板の減少
・肝臓酵素の上昇
・腎臓機能低下
・黄疸
・炎症値の上昇

ウイルスの環境残存と消毒

SFTSはエンベロープウイルスなので、環境中に長く残ることはありません。
長くても数時間以内には効力を失いとされています。
70%のアルコール、および100倍の次亜塩素酸ナトリウム液で簡単に消毒できます。
ただし、有機物(便、吐物、分泌物等)の中では死滅しにくいため、動物の排泄物などは速やかに清掃するべきです。
いずれもヒトに感染する危険がありますので、マスク、手袋、ゴーグルといった防護具を使用しなくてはなりません。

地域猫の世話をする時の注意点

さて、以上のSFTSの感染機序から、地域猫やノラ猫と接触する方は、以下のことを注意するべきだと思いまいるす。
外猫は知らないうちにマダニに吸血されて、SFTSウイルスを持っている可能性があります。
たとえ元気食欲があっても、不顕性完成でウイルスを持っていることもあります。また明日から症状がでる潜伏期かもしれません。

よって、普段から以下のことを気を付けましょう。

1. 猫に触らない、なでない。
2. できるだけ猫に近づかない。
3. 足などにスリスリされる時のため、長ズボンをはく。
4. 使用済み食器やトイレに触る時は使い捨てのニトリル、ラテックス製のグローブを使用する。

また明らかに具合の悪そうな猫を発見した場合は、SFTSの可能性を十分に疑い、以下のようにするべきです。

1. 管轄の保健所、保健衛生課、またはセンターに通報する。
2. むやみに触らない。
3. 近寄る前にグローブ、マスク、目を保護する医療用ゴーグルを着用。
4. どうしても自分が動物病院などに連れて行く場合は、直接触らず、キャリーの中に誘導するなどする。
5. 動物病院に事前に連絡して指示をあおぐ。
6. くれぐれも咬まれたり、ひっかかれないように厳重に注意する。

ヒトの場合、潜伏期は1-2週間です。後日発熱、悪寒、倦怠、吐き気など異常がみられる場合は直ちに病院へ行き、SFTSの懸念があることを伝える。

また、猫の死体を発見した場合。絶対に触らず、近寄らず、管轄のセンターや保健課に連絡してください。

TNR捕獲をする時の注意

普段から咬まれないように、猫を興奮させないように気を付けていると思いますが、不妊去勢手術の前後で猫を捕獲機に入れた場合の注意点は以下。

1. とにかく咬まれない、ひっかかれないように注意。
2. 捕獲機には唾液や尿など、体液が付着します。厚手のグローブを使用し、使用後は捨てるかすぐに洗濯。
3. 猫にシャーっと威嚇される時に、唾液の飛沫が飛びます。捕獲機のまわりではマスクとゴーグルを使用する。
4. 捕獲機をカバーする毛布、タオル等も、使い捨てかすぐに洗浄する。
5. 捕獲機は毎回、洗剤と消毒用ハイターなどで洗浄消毒する。ヒトおよび次の猫への感染予防のため。
6. 手術時にノミダニ予防薬を塗布する。
7. 具合の悪そうな猫が捕獲された場合は、手術せず獣医師と相談する。

飼い猫、飼い犬とSFTS

室内飼いのペットの場合、SFTS感染のリスクは低いでしょう。しかし、マダニは室内にも入ることがあります。
1. 飼い猫は外に出さないのがベスト。犬も散歩以外は外に出さない。
2. 首、耳まわり、指の間などを頻繁に見て、マダニがいないか確認。
3. 吸血前、吸血後のマダニについて、見たことがない人は形相を調べておく。
4. 犬の場合、ノミダニ予防を常用する。
5. 猫の場合も、マダニのシーズンは予防薬を使用する。(地域によっては常用が奨励)
6. 窓やドアを含めた家の周りの雑草をきちんと管理し、剪定をする。
7. マンションのベランダなどには、植木や花などを極力置かない。

その他、SFTS予防のために気を付けること

野性のシカが環境にいる場合は、シカがマダニを落とすのでリスクがあがります。
またイノシシ、タヌキ、アライグマ、ハクビシンもSFTSに感染する報告が出ています。これらの野生動物が家に近づかないように、ゴミ出しや家庭菜園など、さらなる注意をするべきでしょう。
猫は野生の小動物を捕獲することがあります。くれぐれも猫は外に出さないようにする。

まとめ

以上、飼い犬、飼い猫、および地域猫のお世話をする人のための、注意点を書いてみました。

SFTSはまだ不明な点も多く、また情報はアップデートされますので、注意喚起していただけたらと思います。

主な情報ソースを最後に列記しました。

みなさん、どうかくれぐれも気を付けながら、安全にお過ごしくださいね。

2025年9月
文責 西山ゆう子

内容に間違いがありましたら、ご指摘ください。
シェアはご自由にどうぞ。
ブログやSNSでリンク引用する場合はご一報いただけるとうれしいです。

関連サイト
– SFTSの概要・Q&A・診療の手引き(2024年版)

– 獣医療関係者のSFTS発症動物対策(2025年版)

– 国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について(国立感染
症研究所 HP)

-「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」(厚生労働省 HP)

u-kansenshou19/sfts_qa.html

動物愛護,地域猫,日本

Posted by Dr. Yuko Nishiyama