成犬になっても小さな犬でいてほしい 子犬を大きくさせない方法がありますか
どうしても体重5キロ以下の犬でいてほしい
先日、日本のとある動物病院で診察をしていた時。
生後5か月のトイプードルが、ワクチンのために来院しました。
見ると、非常に痩せていてガリガリの子犬。
食欲は旺盛だけど、最近あまり遊ばなくなった、とのこと。
1日1回、大さじ1杯くらいのフードを与えると、あっという間に食べてしまうという。
聞くと、これ以上体重が増えてほしくないと言い、食事の量を減らしているという。
今日の体重は4.9キロ。
「今生後5か月ですが、まだ骨格は成長するんですかね?」と聞かれた。
2か月前にペットショップで購入した時、「このトイプーは成長しても小さなタイプで、5キロ以上には絶対にならないって言われた」という。
なので、もう5キロになるので、これ以上太る必要はない、これ以上大きくならないようにと、食事制限している、という。
どうやら十分量の食餌をもらえず、極度に痩せていることがわかった。
「体重」と「栄養状態」と「ブリード」

残念ながら、この飼い主様は、ショップに告げられた成犬時の体重を見ていて、自分の犬の栄養不良を自覚していないようだった。
「この子は削痩状態で、栄養状態が悪いです」と私はいい、ワクチンは中止。
血液検査をすると、軽い再生不良貧血、低アルブミン、軽い肝酵素上昇。
典型的な低栄養、初期の飢餓状態だと説明する。
「このままだと、低栄養状態が続くばかりではなく、成長期の大切な時に一生取り返しのつかない不健康な犬にしてしまいます」と、私は怒りを込めて説明をした。
個体の体重は、骨、筋肉、脂肪、内臓などすべてを含めた体の重さであり、太っている、痩せていることとは関係ない。
肥満、痩せの指標となるのがボディ・コンディション・スコア(Body Condition Score:BCS)と言い、獣医師が身体検査で触診しながら判定するもの。
この子のBCSは2。9段階指標なので非常に痩せている栄養不良状態だった。
トイプーだから何キロ以下、というのは保証されたものではない。
このラインは何キロ以下、というのも、個体差がある。
例えば、「私は体重50キロです」「私は体重50キロの日本人です」と言われても、太っている人、痩せている人がいるように。身長、筋肉量、年齢により、50キロでも肥満の方、痩せの方など様々だろう。
急遽、子犬に必要なバランス食にして、給餌量カロリーを計算して、いきなり増やすと体に負担になるので、1-2週間かけて食事量を増やすように指導。
危ないところだった。
骨の成長と食事制限

一般に、小型犬は生後6カ月まで骨が急速に成長します。
そしてその後、1歳になるまで緩やかに骨が成長し、1歳前後で骨格の成長は止まります。
その後は骨のサイズは同じなので、体重の上下は筋肉や脂肪の量に比例します。
子犬の成長期の時に、給餌量を減らしても、骨は成長し続けます。
少ししか餌を与えないから、小さな犬になるということはありません。
しかも、成長期の低栄養は、関節、内臓、脳神経、心臓などに生涯にわたる健康被害をもたらす可能性があります。(後述)
もし、本当に極端な食事制限をして、犬を飢餓状態になれば、骨の成長は多少阻害されることもありますが、骨が脆く、関節が未発達で不健康な状態です。
成長した時の体重
遺伝による要因が大きいものです。
生まれた時に、成長した時の大きさがすでに遺伝子に組み込まれています。
どのくらい大きくなるかは、父親、母親の大きさにある程度影響を受けますが、親だけではなく、かなり先の祖先の影響もあります。
成長期に餌を少なく与えても、小さい成犬になりません。
成長期に餌を多量に与えても、大きな犬にはなりません。
また両親が小さい犬だからといって、小さい犬になる保証もありません。
よく聞かれるのですが、生後3か月の子犬を見て、将来何キロになるかという質問。
こればかりは予測が難しく、いくつかの研究報告によると、きまったルールはない、とのこと。
1歳の人間の子どもを見て、将来身長何センチになるか、想像が難しいのと同じです。
子犬の時期に、十分量の食餌を与えない時に起こる健康被害

少ない給餌量で育った犬は、成犬になって生涯続く、以下の健康被害が出る可能性があります。
1.関節疾患
成長板の変形、関節形成不全、パテラ脱臼の悪化。骨密度の低下。骨折しやすくなる
2.低筋肉による障害
筋肉量が増えない、関節を支えられない、運動不耐性、転びやすい。
3.心臓
心臓の未発達。心臓弁膜症、心筋症の悪化。
4.内臓
腎臓未発達、肝臓機能低下、消化機能低下、他
5.脳神経系
学習能力の低下、集中力がない、他
6.免疫系
免疫力の低下、感染症になりやすい、皮膚病の慢性化
7.問題行動
社会化できない、食べ物に対する異常な執着、攻撃性、異物を食べる、食糞、他。
生後1歳までの成長期に、食事の量が不十分だったり、バランスのよくない食餌を与えることで、犬は成長した後、ずっと健康被害を被ることになりかねません。
大切な子犬の時期、決して間違った食生活をしないようにしてください。
5キロ以下でなくてはならない理由
その飼い主様は、実は、マンションの規約を心配していました。
この度マンションをローンで購入し、5キロ以下の犬、1頭ならば飼ってよいということなので、念願だった小型犬をペットショップで購入したという。
その時、マンションの規約で5キロ以下の犬ではないとダメということを言うと、ペットショップの人は「このトイプーは大人になっても5キロ未満」だと言ったそうです。
しかも、管理委員会は厳しく、犬の体重測定もしっかり行うとのこと。
理由を聞いて気の毒に思いました。
しかし、ここで優先順位をきめなくてはなりません。
1.犬の健康被害を考え、正しい食生活にし、犬は将来5キロ以上の体重になる。
2.マンションの管理委員会に理由を話して、何とか交渉する。
3.5キロ以上になったら犬を飼うことをあきらめる。(新しく飼ってくれる人に譲渡する)
4.こっそり飼い続ける(見つかったら危険なのでお勧めしない)
5.5キロ以上の犬を飼うことができる、新しい場所に引っ越す
などのオプションがあると思います。
どれもそれぞれ、難しい決断とは思いますが、このまま飢餓状態を続けながら飼育することは絶対にいけない、と強く言っておきました。
生体販売の方へお願い

成犬になった時の体重について、ペットショップやブリーダーから、何キロ以上にならないから大丈夫と言われた、というのを、飼い主様から聞くことがあります。
飼い主様から聞くことなので、どこまで正確な会話かはわかりません。
しかし、将来の犬のサイズを、子犬の時に確定することは、ショップも、ブリーダーも、獣医師にも誰にもできません。
成長時の大きさは今の獣医学では、学術的に予想することができません。
「両親、ブリードからのあくまでも推定であり、時には例外的に大きくなる犬がいます」などと言い、そうなった時でも対処できるように促してほしいものです。
同時に、消費者ももっと賢い買い物をしてほしいです。
もし5キロ以上になってしまったら、というのを想定したうえで、自分がそれを対処できるかを考えてほしいです。
自分の希望の犬をゲットする魔法の方法
犬や猫を飼ううえで、どうしても譲れない条件があるかもしれません。
体重5キロ以下というマンション管理委員会の規約がある。
家が古くて隣の家と近いので、できるだけ吠えず、静かな犬がいい。
日中仕事に出るので、室内のオシッコシートで排泄できる犬がいい。
などなど。
実はそんな時、絶対に将来失敗しない、自分が希望している犬を必ずゲットできる、確実な方法があるのを皆さんご存じでしょうか。
実は確実に、それが可能な方法があるのです。
どうすればそういう犬をゲットできるのでしょうか。
それは、
最初から、自分の希望にかなった成犬を、愛護団体から譲渡してもらうこと、です。
子犬を飼うから、将来の大きさを心配しなくてはならないのです。
最初から、5キロ以下である、もう成長しきった成犬を、見つければいいのです。
最初から、滅多に吠えないと分かっている成犬、すでに100%、室内でそそうをしないでペットシーツのトレーニングがされている犬。
自分の譲れない条件がある場合は、そういう犬を最初から探せばよいのです。
そんな犬は愛護団体にたくさんいます。
もし希望の条件の犬が譲渡会にいなくても、希望を伝えておけばいつかやってきます。
犬も猫も10年以上、時には20年も長くつきあう家族です。
自分が後悔しないよう、そして犬や猫に健康被害をもたすことなく、正しく健康的に飼う。
飼い主として、当たり前の責任です。
改めて考えてほしいです。
改めて、犬を飼うなら、しっかり見るのは、体重計でもネット情報でもなく、ブリードの特徴でもなく、あなたの犬です。
何がほしいのか、満足しているのか、何か苦しんでいないか、その声なき声を聞くことができるのは、飼い主であるあなたしかいないのです。
文責 西山
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