「私はコロナのワクチン接種を受けない」という人と一緒に仕事をする時

アメリカ,新型コロナウイルス,獣医療・ペット

私はワクチンを打ちません

コロナのワクチン接種が順調に進んでいますね
私の勤める動物病院には、50人以上のスタッフがいるが、この度全員が、新型コロナワクチンの接種を受け終わったと聞いた。
「全員接種してくれて、本当によかった」とボスは肩をなでおろしていた。

周りを見ると、どうしてもコロナのワクチン接種をしないという人が会社の中にいて、接種済みと接種していない人が一緒の場所で仕事をしなくてはならない、という問題が現在アメリカのあちこちで起こっている。

私の勤務する動物病院もそうだし、会社、お店、レストラン。人が集まって共同作業をする場所やイベントで、今後、ワクチン接種をしていない人と、どうやって共同生活をしていくのか。

例えば、保護動物施設や保護動物カフェでも、スタッフやボランテイアさん、譲渡会に参加する保護主さんなど、どう取り扱うべきなのか。

一人一人に、コロナワクチンの接種の有無を尋ねる?制限する?それって差別?

動物病院の獣医師、看護師は?接種しなくても同じ仕事を続けていいのか?

採血、留置装着など、人との距離が保てない作業を、非ワクチン接種者に、そのまま続けさせてよいのか。

今後の私たちのニューノーマルについて、私が経験したり、見聞きしたこと、さらなる私見を述べたい。

ワクチン接種がスロー化

アメリカでは、今年になってから順調にワクチン接種が進んできたものの、ここにきて接種スピートも落ちているという。

私の住むロサンゼルスでも、現在接種の優先順位はなくなり、12歳以上の希望者には全員、接種できるようになった。

私が接種を受けた今年の1月、2月は、まだ医療従事者が優先の時で、予約を取るのも大変だったし、私は少し遠くの会場まで行って接種を受けた。
夫と息子は、少し遅れて3月ころで、この頃は予約はそれほど混んでおらず、近くで割と簡単に接種できた。
そして夫は接種後、「I Got COVID-19 Vaccine!」という、恐ろしくかわいらしくないシールを胸に張られ、プロテインドリンクと、プロテインバー、ナッツの詰め合わせをお土産にもらって帰ってきた。
先日、15歳の娘が接種を受けた時は、胸にシール、それからプロテインジュース、ビタミンガム、ドライフルーツの袋、シャンプーやソープの割引券などが入った袋を、お土産にもらってきた。

接種が遅い程、何らかのお土産が増えている。

現在カリフォルニアでは、新型コロナワクチン接種を受けると、150万ドルだかの宝くじ抽選券が無料でついてくる。

接種をしようか悩んでいる人を引きよせるために、お土産から宝くじまで、当局はあの手この手で対策を練っている。
ここにきて、やはりワクチンは打ちたくない、と思っている人が一定数いることを物語っている。

なぜ、みんなにワクチン接種が奨励されるのか

ご存じのように、ワクチン接種は義務ではない。

医療行為ゆえ、誰もが強制することはできず、するしないは、あくまでも自己責任として、自分で決定することだ。
しかし日本もアメリカも、1人での多くの国民が、新型コロナのワクチン接種をうけることを奨励している。

理由は以下のとおり。(CDCの公式サイトより)

ワクチン接種を行うと、

・新型コロナウイルスに感染しても、重症にならず、軽症状で回復する確率が高くなる。
・新型コロナウイルスに感染して、無症状の場合でも、他の人に伝染させる確率を低くする。
・ワクチン接種は、地域全体の感染の流行を緩和することが分かっている。

動物病院や会社のような、一つ屋根の下の施設でも、同様なことが言える。
ワクチン接種をしていない人がいれば、その人は感染時に重症化し、無症状でも他の人に伝染させる可能性が増してしまうのだ。
また未接種者が多ければ多いほど、感染拡大やクラスターを起こしやすくなる。

さらに、動物病院のように、飼い主様と接触する仕事、スタッフどうしがどうしても、距離を保てず、近くに寄り添って仕事をしなくてはならない、といった仕事内容が、感染確率を増すことになる。

ワクチン接種をしない理由

では、ワクチン接種をしない人たちは、どういう理由からなのか。

大きく分けて、医学的理由と、それ以外の理由の2種類がある。

医学的理由とは、アレルギーがある、何かの持病があり、ワクチン接種で病状が悪化するような体質である、などだ。

非医学的理由には、モラル的なことと、実質的なことがあるとされている。

モラル的反対とは、ワクチンの副作用を受け入れられない、人体実験のようで嫌だ、そもそもワクチンの効果を信じていない、これは政府による集団洗脳だ、といった考えなど多数あるだろう。
どうでもよい、興味がない、という人もいるかもしれない。

実質的理由とは、単に接種に行く時間がない、会場に行くだけのお金がない、子育てや介護をしていて行けない、といった理由である。

組織のボス、指導者が行うべきこと

新型コロナワクチンの一般接種が始まった段階で、各組織の指導者、責任者は、以下のことをまず明確に、従業員(あるいは組織に関わるスタッフ)に、以下のことを指導するとよいとされている。

1.組織(会社)では、新型コロナワクチンの接種を全員に奨励する、と言う意図とその理由を説明する。
(政府や厚生省が奨励している理由と同じでよい)

特に当院は、動物の採血など、人との距離を保てない作業もあるので、など、自分の組織の現状を付け加えるとさらによい。

2.ただし、奨励であって、強制ではないことを明確にすること。

3.接種はあくまで、個人の意思で最終決定してほしい、ということ。
さらに、接種が普及する今後、接種の有無で、労働環境や昼休みの環境が変わることを伝える。

4.一般に、会社内でもCDCのガイドラインを取り入れるので、今後は、勤務中にそれに従ってほしいと明確にする。
(例)
・現在のCDCガイドラインに沿うと、勤務中はずっとマスクを着用し、6フィート以内の距離に近づく時は、フェイスシールドを必ず着用することになる。

・飲食のためにマスクをはずす時は、建物の外に出てもらう。当社では、個人のためのランチルームはないので、食べる時は自分の車の中など、プライベートな場所を自分でみつけて、そこで飲食すること。(ワクチン接種済み者は、マスクをはずして、社内で複数で飲食してもよい)

・濃厚接触者になった場合、ワクチン非接種者は、10日間出社せず、自宅検疫をしなくてはならない。その間、当社では無休扱いになる。(ワクチン接種者は、発熱等の症状がなければ出勤可能)。

・この他にも、CDCや自治体のガイドラインはいろいろあり、また時々刻々と変化している。その都度このような方針は、変わることがあること。

・今後は、非接種者は、接種者とは異なった扱いをすることになる、ということ。マスクや防具など、ベストを尽くすが、基本は自分で責任もって準備してもらうことになる、ということ。

これらの「今後のニューノーマル」について、組織のスタッフや関係者全員に、今の段階で通知する必要するべきです。
その上で、個人が接種、非接種の判断を行うべきです。

個人面談

組織内に、ワクチンを接種しないという人がいる場合、組織指導者は個人面談をして、接種しない理由を聞くべきでしょう。

その理由が医学的理由の場合は、個人情報なので、プライバシーを尊重しながらも、医療決断にはやはりプロが必要です。
接種するリスクと、接種しないことで起こり得るリスクについては、プロのアドバイスが必要です。信頼のおける主治医や産業医を紹介するのもいち方法でしょう。
医学的理由でのワクチン接種拒否を、インターネットだけの知識で決める人がいるのも事実です。

非医学以外の理由で接種を希望しない人には、その理由を聞いた上で、信頼のおける情報を提供することができます。

ワクチン拒否理由には、私たちが想像している以上にいろんなものがあると言う。
例えば、
注射が嫌いだから。
以前、注射中に針が折れる夢をみたから。
信頼するおばあちゃんが、必要ないと言ったから。
お父さんがワクチン接種を受けて、副反応で筋肉痛になったのを見たから。
など様々です。

強制的に勧めるのではなく、わかりやすい印刷物や、サイトを準備し、正しい情報や、ヘルプになるサイトや人物を紹介することが可能でしょう。

差別ではなく区別


ジステンパーやパルボといった、伝染病のワクチンを接種していない犬や猫は、立ち入ることができない場所が普通にある。
ドッグラン。トリミングサロン。
猫カフェ。犬や猫のホテル。
保護動物の譲渡会への参加も、ワクチン接種を条件としている場合がほとんどであろう。

これらは、公衆衛生の立場から、必要な予防対策なのだ。
アレルギー等でワクチン接種できない犬も、ペットホテルに泊まれないから、個人のシッターさんを探すしかない。

新型コロナワクチンが普及した後のニューノーマルも、おそらくこのような区別がある社会になると言われている。

医学的理由で、ワクチンを接種できない人を、差別する世の中になってはいけないが、差別と区別は異なる。

これは差別ではなく、医学的に求められる制限なのだ。

ワクチンの接種は個人の判断。
誰も強制できない。

ただその判断をするためには、会社などの組織では、どういった「区別」を行うことになるか、今しっかり説明してほしい。

そして、接種者と非接がが住み分けをしながらも、気持ちよく一緒に仕事できればいい。
それがこれからの時代の我々に必要なモラルになると感じている。

追記
アメリカの現状、自分の体験をもとに書いた私見です。実際には、厚生省などの指針や各自治体の方針、今までの組織の慣行や現状などを検討した上で、組織の責任者や弁護士と相談して方針を決定してください。