女性獣医師がこのまま増えたら、動物病院はこうなる
女性獣医師がこのまま増えたら、将来動物病院はどうなるだろう
昔は男性獣医師が圧倒的に多かった
昔は男性が主であったが、時代とともに女性が増えた、という職業は多々ある。
ヒトの医者もそうだし、弁護士、警察官、設計士や会計士など、ざっと考えただけでも多くが浮かぶ。
専門職もそうだが、一般のサラリーマンや個人事業主なども、おそらく過去30年に女性が増加したと感じる。
獣医師においても、過去50年に女性の割合が目覚ましく増えた。
日本もアメリカも。おそらく世界的な傾向なのだろう。
1970年の米国獣医大学は、約9割が男子学生だった。
それが2007年には、75%が女性学生に変化した。
2017年時点で、全米の仕事をしている獣医師の55%が女性、45%が男性であった。
割合では、現在は女性が男性よりやや多い程度だが、年齢によって見事に入れ替わっている。
若い獣医師ほど多くが女性。高齢になるほど、男性というしくみだ。
今後この傾向は続く限り、獣医師人口は急激に「女性化」するという。
現在、米国の獣医大の学生の8割が女性であると言われている。
UC DAVIS カリフォルニア・デービス獣医大学の卒業写真
2022年卒業のクラス写真。
CVMA.カリフォルニア獣医師会雑誌より許可を得て転写。
ざっと見て、ほとんどが女性なのがわかる。
実際に、アメリカの大きな獣医大会に参加すると、参加者の多くは若い女性と高齢の男性が多い。
なぜ女性獣医師が増えた?
これに関してはいろいろな説があるが、誰も本当の理由はわかっていない。
・昔は女性であるというだけで、初めから大学進学をしない人がいた。今は女性も大学進学をするようになったために増えた。
・昔の獣医師は、馬や産業動物の分野での労働が多かったが、過去50年で小動物分野の需要が広がった。犬、猫などのペットは大動物ほど力を必要としないゆえに女性の希望が増えた。
・麻酔、鎮静の技術が発達し、力を要する仕事が減ったから。
・犬猫といったペットの診療では、以前は外傷や事故などの「ちょっと血まみれ、膿みまみれ」な外科が多かったが、現在は皮膚科、眼科、内科といった「やわらかい病気」が中心になったため。
・一般に男性は、女性が大多数を占める環境で一緒に仕事をすると違和感を強く感じると言う。女性は逆に、男性多数の中で仕事をしても、それほど違和感を感じないという。
動物看護師はもともと女性が多い。それゆえ、女性が中心になっている現在の獣医業界を、男性は希望しなくなってきている、という説もある。
いずれにしても、日本もアメリカも、将来は女性獣医師が多数を占める時代になることだろう。
女性獣医師が増えるとどうなる?
さて、ここからは私の全くの私見である。
個人的な想像なので、全く予想ハズレになるかもしれないので、個人の独り言として読み流してほしい。
女性の獣医師が増えると、必然的に、女性が長く働ける環境が求められる。
結婚しても仕事を続ける。
出産、産休後も続ける。
子育てをしながら続ける。
といったことだ。
もちろんすべての女性が結婚して子供を産むべきと言っているのではない。
歴史的に女性は、どうしても出産に伴い仕事を一定期間休み、子育ての時は父親よりも中心になる場合が多い。
また、会社員の夫の転勤のために、新しい街の動物病院に転職することもあるだろう。
独身、結婚、人によっては不妊治療、そして出産と産休、子供を抱えての復職、
そして人によっては親の介護、といった人生の変化が、仕事に直接影響する。
今の日本の獣医師の平均勤務体制はどうなっているだろうか。
8時半出勤、早ければ19時に診療終了、それからオペなどあったら、22時、23時まで残業。。。
ママさん獣医師ならば努められない場合が多い。
女性獣医が増えると。。。パートタイム獣医師が増える
不妊治療にしても、子育てと両立にしても、親の介護にしても、女性が仕事を続けるならば、フルタイムではなく、時間限定が増えると思う。
子供の学校や託児所が閉まる前に仕事を終える。
家事や夕食のことを考え、遅くても18時には帰りたい。
週に2日だけなら働ける。などだ。
実際に私自身も、子供が小さい頃は週に3日、4日の勤務だったり、あえて夫がオフの日の土日に仕事をしたりしていた。
女性獣医が増えると。。。中規模病院が増える
そうなると、動物病院の獣医師の数が増えないと回らない。
院長1人に、パートの若先生1人だと、院長もなかなか忙しくて手が回らず、大きな手術もできなくなる。
よって、勤務時間が短い獣医師を複数、それぞれの都合に合わせて組み合わせて診療するようになるだろう。
女性獣医が増えると。。。企業動物病院が増える
企業病院とは、ある企業が(通常)複数の動物病院を所有し、管理経営している病院のこと。
いわゆるチェーン店の動物病院。
いち企業が複数の病院と多数のスタッフを管理することで、いろいろなメリットがある。
アメリカの場合、多くの企業病院は、有給休暇や福利厚生が個人病院よりもよい。
複数のパート獣医師を使ってシフト制にするのがうまい。
給与や業績の評価なども、しっかりとした基準があって明確である。
実際、女性獣医師が増えてきた過去30年間に、米国には多くの企業病院が誕生した。
もちろん、個人が所有の動物病院のよさもあり、一概に優劣はつけられないが、女性獣医師にとっては企業病院は、一般により働きやすい環境を整えてくれる。
実際、ママさん獣医師が数人勤務するということで、ベビーシッターと部屋を、病院内に備えた企業病院もある。
女性獣医が増えると。。。院内分業制が発達する
診療時間中にずっと同じ獣医師がいない。時間によって獣医師が変わる。
そうなると、どうしても院内で仕事を分担しなくてはならなくなる。
入院や外来、手術も、同じ日でありながらもケースをシェアして引き継ぎを行うことになる。
午前と午後で獣医師が異なる。
それが当たり前になるだろう。
女性獣医が増えると。。。ITデジタル技術が広がる
院内で複数の獣医師が症例をシェアするには、カルテもより分かりやすく、洗練されなくてはならない。
電子カルテの普及は必須であろう。
また、時間に追われて病院を去った後で、飼い主様と話しをしたり、あるいは検査結果を見たり、カルテに記入したりといった「院外からのアクセス」が必要になる。
帰宅途中の車の中から、ズームで飼い主さんに説明をする、というのもありだろう。
帰宅してから、携帯からカルテにアクセスして、書ききれなかったことを記入する。
アメリカでは、カルテもクラウドで共有するのが当たり前になってきている。
便利でありがたい。時代に感謝。
飼い主様とも、院内で直接会って話だけではなく、お互いに院内にいなくても、携帯やズームで遠隔で話す場合が増えているが、今後はそれも当たり前になっていくだろう。
女性獣医が増えると。。。獣医師を指名することが贅沢な時代になる
飼い主様にとっては、少し不便になるかも。
大きな手術はA先生、下痢はB先生、入院ケースはC先生、メス猫の不妊手術ならばC先生に、と、獣医師を使い分けるのがうまい飼い主様がいる。
それぞれ獣医師にとって、得意不得意な分野もあるし、獣医師選びは大切なことだ。
ただ今後、女性獣医師が増え、勤務時間が短い人が増えると、ご指名が難しくなるだろう。
病気は獣医師の都合に合わせてくれない。
むしろ、いつまでもご指名にこだわりすぎると、逆に病気を悪化させてしまうかもしれない。
動物病院内では、獣医師による技術の差がなくなるように、また治療方針も異なることがないように、全員の技術の底上げ、そして治療方針の共有が重要課題になるだろう。
女性獣医師が増えたらーシェルターメディスンが発達する
動物の保護活動、動物虐待からの救済といったシェルターメディスン。
いち専門分野であるが、なぜかこの分野は、圧倒的に女性が多い。
整形外科、腫瘍科、救急なども、以前は男性優位だったのが、今では女性も増えている。
が、やはりシェルターメディスンは、なぜか女性がほとんどである。
理由は不明だが、保護動物をしている人や団体の代表が、女性が多いのが事実だ。
今後、女性獣医師がさらに増えることで、より多くの獣医師がシェルターメディスンや動物虐待救済に興味を持ってくれるのではと期待している。
まとめ
理由はともあれ、時代とともに女性獣医師が増えているのは事実。
それに伴い、動物病院側も変化しないといけない。
さもないと、仕事を続けられずに業界を去る女性獣医師が増えてしまう。
そうなると、獣医師不足がさらに深刻になるだろう。
すべての女性獣医師が、気持ちよく仕事ができるよう、職場を改革してほしい。
また獣医師側も、何年たっても、例え将来開業の予定がなくても、職場でのチームの一員としての自覚を持って、常に技術と知識の向上のための努力をしてほしい。
「あ、それは私はできないんで、院長に任せています」という言い訳をせず、動物と飼い主様のために切磋琢磨しながら一生成長すること。
動物病院の仕事環境がさらに改善することで、本当の意味でのいい臨床。いい獣医寮サービスが提供できるようになるだろう。
がんばれ、女性獣医師!女性看護師!
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