自治体の愛護センターに期待すること
センターとは
自治体によって名称が多少異なるが、ご存じのように現在の日本には自治体が管理運営する「動物愛護センター」がある。
その多くは通称「センター」と呼ばれている。
一般には何らかの理由で飼えなくなった、捨てられた、迷子になって放浪しているといった犬や猫を保護し、更生し、新しい飼い主に譲渡するという仕事である。
自治体によっては、犬や猫以外の愛玩動物、例えばウサギや鳥を受け入れるところまるかもしれない。
またその職務内容も広く、引き取りから譲渡といった保護以外に、病気や負傷を治療する医療、動物の飼い主からの相談、あるいは正しく飼うという啓発活動など多岐にわたる。
第一種、第二種動物取扱の登録や管理、狂犬病予防法に基づく犬の登録、さらに人獣共通伝染病など保険衛生に関係する分野も自治体の仕事であろう。
自治体によっては、保険衛生課という、いわゆる「保健所」と呼ばれる管轄でこれらの執務が行われることもある。
(全国詳しく調べた訳ではないので、間違いがありましたらご指摘ください)
昔は殺処分場だった
昭和40年代、私が子供の頃、日本に動物愛護センターはなかった。
不必要になった犬や猫は「保健所」に連れていかれて殺処分する、というのが一般的だった。
一部の子犬などは、譲渡されたことはあったのかもしれないが、公に譲渡する機関はなかった。
民間レベルで、犬や猫の保護、譲渡をする団体はあったのかもしれないが、今のように一般的ではなかった。
何等かの理由で犬猫を飼えなくなったら、人々は知人親戚を頼るしかなかった。
「ごろ」の思い出

私が小学2-3年生の時、札幌のわが家では、一匹の雑種の犬を飼っていた。
当時は不妊手術も普及していなく、また冬でも外の小屋にくさりでつないで飼うのが当たり前の時代だった。
「ごろ」と名づけたその犬を、私は誰よりも愛し、毎日毎日、ごろと一緒に遊び、ごろの小屋に一緒に入って宿題をし、ごろに抱き着いて小屋の中で一緒に昼寝をし、ごろと散歩をするのが日課だった。
茶色い和犬の雑種で、春と秋には、ごっそりと段になって毛が抜けた。
私も全身毛だらけになって一緒に過ごした。
ある日ごろは、7匹の子犬を産み、たまたま家に遊びにきた近所の子の足に噛みついてしまった。(狂犬病予防接種はしていた)
私はその時、ごろの横にいたのだが、ふいに近寄ってきたその子から、ごろは子犬と私を守ろうとしたのだと思う。
女の子は足に7針を縫うけがをした。
そして、まだ2―3才だったごろは、その後、保健所のトラックに載せられて、7匹の子犬と一緒に家を去る運命となった。
そのことを、母は私に、事前に知らせてはくれなかった。おそらく、私がいない間に行い、事後処理にする予定だったのかもしれない。
たまたま学校から、予定外に早く帰宅した私は、偶然にその瞬間に立ち会った。
とことこと1人で歩いて帰ってきたら、家の前に1台の見慣れないトラックが停まり、つなぎをきたお兄さんが、ごろと子犬を荷台に乗せているところだった。
母が、保健所のお兄さんに何か質問をすると、「もう、今日、すぐに行います」と答えるのが聞こえた。
状況がよく理解できない私は、母に向かって、「え、何、どうしてごろは連れていかれちゃうの?」と泣きながら聞いた。
母は目からつーっと涙をこぼして言った。
「人様を噛んだ犬は、保健所にいかなくちゃならないんだよ」
今とは違い、当時は保健所のトラックは、うしろの荷台がオープンになっていた。
荷台に乗せられたゴロと子犬の姿がよく見えた。
エンジンがかかり、ゆっくりと走りだすトラックを、母と2人で立ちながら見守る中、ゴロは決して私のほうを振り返ることなく、そのまま去っていった。
わが家には、ごろの毛とごろの匂いのついた小屋だけが残った。
シェルター
時代は変わり、「センター」という動物のシェルター施設が全国にできた。
引き取る犬猫を全部殺すのではなく、施設内で管理し、必要に応じて手当、更生を行い、新しい飼い主に譲渡するという活動は、非常に大きな前進である。
さらに、殺処分を限りなく減らすことをスローガンにあげて、極力殺さない努力をするのが今の日本の主流になっている。
もちろん、まだまだ問題は多く、何でも殺さないという政策にも課題があると私は感じている。
ただ昭和時代から比べると、行政の保護活動の発展はすばらしいと感じる。
そして各自治体にて、制度や予算も異なり、また地方ならではの課題(野犬など)も多々あると予想する。
収用、保護管理、譲渡活動だけではない。
動物愛護に関する認識も、動物虐待に対する意識も進歩した。
犬も猫も室内飼育が主流になり、生涯責任を持って飼うことが前提となる一方で、生涯飼育できず遺棄する飼い主、多頭飼育問題、野犬問題、地域猫問題など、まだまだ課題は多い。
そんな中私が個人的に考え、希望する「行政のシェルターに行ってほしいことリスト」を考えてみた。
個人のボランテイアでもなく、愛護団体でもなく、行政である自治体に行っていただきたい項目である。
すぐには無理でも、長期的なゴールとして参考にしていただきたい。
あくまでも一般論であり、特定の自治体や管轄を中傷する意図はないことを了承いただきたい。
行政に期待すること
1.動物の収容、管理
遺棄動物、負傷動物の引き取り
迷子動物の収容および飼い主へのリターン
2.医療
入所動物の負傷動物の引き取りおよび治療
入所動物の譲渡前不妊去勢手術手術(NBA)
一般市民むけ低料金・無料不妊去勢手術サービス
一般市民向け低料金クリニック
3.更生、順化、トレーニング
入所動物の順化、しつけ、トレーニング
一般市民むけのしつけ、トレーニング
4.犬と猫の捕獲
5.安楽死―重篤な病気他
6.譲渡活動 譲渡会
7.市民への啓蒙啓発活動 悩み相談、他
8.動物虐待などの通報の受付―24時間、週7日
9.パトロール業務 動物虐待、ネグレクト、崩壊予備軍の発見、摘発、指導
10.災害時の対策
災害時に避難所として受け入れる体制、救護、介護活動。
動物用備蓄―ペットフード、ワクチン、マイクロチップ、医薬品、他
11.多頭飼育崩壊時の受け入れ、コーデイネート
動物の受け入れと治療更生保護、崩壊現場検証、飼い主の更生など多角的なコーデイネート
12.虐待、ネグレクト動物の保護および法医学検証、または法医学解剖
13,第一種、第二種動物取扱業社の登録、管理、現場パトロール、警告、行政処分
14.飼い主が拘留・行方不明時の時の、動物の緊急保護、および管理
15,緊急時の保護
明らかに動物が衰弱、病気、負傷および苦痛の状態である時に、飼い主の意思とは関係なく緊急に一時保護する。(個人の飼い主、第一種第二種動物取扱業者、他)
16.地域猫問題の解決
地域住民の苦情、野生動物の共存、人獣共通伝染病および動物福祉、無責任な餌やり問題を包括的に対策。
17.哺乳が必要な子犬子猫の保護管理、譲渡
18.野犬問題の解決
無責任な餌やり、狂犬病予防法、人獣共通伝染病、動物福祉他の問題を包括的に対策
19,その他の現場および執務業務
時代とともに
なかなかこれを実現するのは難しいのはわかっている。
しかし、少しずつ現状を変えていくしかない。
動物は生き物だから、虐待、逃亡、負傷など、夜も週末でも発生する。センターと警察は一部業務連携しているようであるが、センターそのものが緊急に対応できるようになるのがベストであろう。
また治療診断、不妊去勢手術を行うことができる臨床獣医師がセンターにいなければ、これらの業務は網羅できない。
人事により、5年くらいで他の部署への動になるので、臨床を教えられない覚えられない、というジレンマも聞くが、ぜひ改革してほしい。
自治体によっては、移動がなく何十年もセンターに勤め、臨床をしっかりと行う獣医師がいるのだから、不可能とは思えない。
すべてのセンターに、少なくとも不妊去勢手術と診察治療を行う臨床獣医師が常在してほしい。
予算がないなら、初めは外部の動物病院との業務契約など、模索してほしい。
私たちが求めているのは、広く明るく、見た目がステキな欧米風シェルターといった、建築物(ハード)ではない。
しっかりと保護、譲渡し、虐待を予防摘発し、緊急時に保護し、被災時には被災者が頼れる場所になり、不妊去勢手術や医療治療を安く提供してくれ、地域猫や野犬問題を含め、地域住民に寄り添って動物問題を解決してくれる場所を求めている。
そういった、ソフトの部分こそが、本当にコミュニテイーのために必要なのだと思う。
「ごろ」がガス処分されたあの時から、日本の動物愛護は大きく変わった。
でもまだ、道の途中。
さらにこれからの改善、活躍を心から願い、見守りたい。
ディスカッション
コメント一覧
ご無沙汰しております、いつも大変勉強になります、今頭を悩ませてることは不妊できる常在獣医がいないか他の業務で忙殺され専念できる状況に無いこと、そのため獣医大の学生が指導教官がつくとはいえセンター獣医と共同で野良猫の不妊をしている札幌や今回は獣医大のみの不妊の山口県動物愛護センターなど、無主とは言え責任の主体がはっきりしないのが不安でもあり、以前九州の某県で獣医大と提携しとん挫したとかきいております、どこのセンターでも担当獣医の人手不足、またベテラン獣医の部署変更があり未熟な獣医が後を継ぎ苦労をしているセンターもあります。適材適所というより組織ありきで、獣医の集中化など解決できない問題ではないと思うのです。私共はどう活動すればよいか悩んでおりまず愛護法の愛護センターの仕事の中に野良猫等の避妊去勢手術を入れれば全国のセンターで不妊する根拠となりえますし、もろもろの解消の一助になると思うのです。
橋本様
コメントありがとうございます。
センターでの臨床獣医師不足についての懸念、同感いたします。
犬猫を保護しても、大多数を殺処分していた時代は、現場に臨床獣医師は必要なかったのかもしれませんが、保護してから管理、更生、譲渡が中心の今は、臨床獣医師の存在が必須ですね。
センターと獣医大の学生が提携し、不妊去勢手術を行うというプログラムは、現場での臨床獣医師不足が深刻な今は難しいかと想像します。
不妊去勢手術を学生に教えるのは、手間も時間もかかります。不妊去勢手術を学び、初めて執刀する学生も、通常より長い時間をかけて手術を行います。
将来センターで日常的に、不妊去勢手術を多数行うになった時、センターが獣医学生の不妊去勢手術の指導や、シェルターメディスンの学びの場として提供できるようになるのがいいですね。
行政であるセンターと、獣医大学が近い関係で教育と実習を共有できるプログラムが将来できるといいですね。
西山
おはよう御座います。日本は午前7時です。
随分ご無沙汰しております、お変わりありませんか?
広島でもコロナ禍でボランティアさんも保護頭数が増加し、新規の受け入れが難しい状況が続いています。
新たに保護依頼の相談があった場合、センターに相談して頂くよう依頼主にお願いしていますが、センターの対応は冷たいものです。
ほうて置いても死にませんとか、近くに親が居るからそのうち連れて帰るから、とか
これではせっかく動物絵へ向けた市民の気持ちを折ってしまい、次に見かけても何もしない人が増えてしまうのでは、と心配してます。
日本でも明治時代には西洋式の保護活動が始まっています。第二次大戦後には大きな愛護団体もでき、それなりに成果を上げたのでしょうが、それなのに何故、日本が今こんな現状なのか?
その理由が知りたい、その理由がわかれば、もっと実効性のある対策が見つかるはず!
以前のように往来が出来るようになりましたら、三原で講演をお願いします。
飯田様
コメントありがとうございます。
多くの自治体は、限られた人と予算と時間の中での業務で、なかなかすべての捨てられた命に対して対応できていないのかもしれません。
そこを補うために、愛護団体のボランテイアさんたちが必死にがんばっているのが現状とは思います。しかし限界があります。
低予算で内容をアップグレードするには、そこだけ外部のサービスを利用するのがよいのではないでしょうか。
例えば、夜間の緊急保護や救急医療に関しては、地域ですでに夜間営業している動物病院と携帯する、譲渡前不妊去勢手術は、提携動物病院に依頼する、といった形から始めることもできると思います。
官民の癒着が懸念、など言っていられません。
以前、私と一緒に仕事をしていた女性獣医師は、子供を産んでから数年間は、近くのロサンゼルスの行政のシェルターで「提携獣医師」として、必要な時だけ行って働いていました。
「明日犬メス3,オス3やってくれる?」と連絡が入ると、3時間くらいさっと行って手術したそう。入所の動物が下痢だ、血尿だ、といったケースは、遠隔で指導していたと言ってました。
彼女は子どもが5歳になるまで、そんな生活をしてから、またフルタイムの動物病院勤務にもどったけれど、コロナ禍だったり、低予算の行政シェルターでは、こうやってコスパを上げ、また彼女も子育てと両立できて喜んでいました。
実際にはいろんな壁があるのでしょうけど、本当にぜひ、内部もアップグレードしていってほしいですね。
はい、いつかまた、講演会で日本訪問することを心から願っております。
西山