ウクライナからの避難民に会って思ったこと
いろんな人種人と一緒に仕事する
在米30年以上になるが、私はロサンゼルスで仕事をするのが楽しくて好きだ。
私の勤め先の動物病院はけっこう大きく、総勢30人以上のスタッフがいる。
ロサンゼルスは特に様々な人種が集まっている地域ではあるが、うちの病院はやはり白人アメリカ人が一番多い。
当院のスタッフを人種的に見ると、7割が白人、あとの2-3割がヒスパニック(スペイン語系)。
黒人が2人、そしてアジア人は私1人だ。
英語を母国語とせず、第2外国語としている人は、10人以上いる。
10人くらいがスペイン語が第一言語。1人がフランス語。そして私は日本語が母国語だ。
うちの動物病院に限ったことではないが、当地では人種も国籍も言語にもデバーシテイがある。
という訳で毎日動物病院の院内では、英語のスラングが飛び交い、犬が犬語で吠え、スペイン語の陽気な歌声の中、私は仕事をしている。
手術室では白人アメリカ人のドクター、クリスがロックを聞きながら、腰を振りながら執刀しているし。
テクニシャンのジャッキーは、パルスオキシメーターの音に合わせて自己流のラテンリズムでバリカンで犬のお腹の毛を刈っているし。
その隣の器具洗浄室では、エラデイオがルンバをガンガン響かせながら、回転して踊りながら手術器具を洗っているし。
苗字
先日、看護師の1人に質問した。
「あなたの苗字って、ロシアの名前?」
彼女曰く。
「多分そう」
「へえ。おじいちゃんか誰かが移民してきたの?」
「それがね。誰もわからないのよ。少なくとも私の祖父祖母はアメリカ生まれ。だからさらにその前の人が移民してきたんでしょうね。もう昔のことだから、それが誰か、そしてそれがロシアかどうかも、定かじゃないのよ。」
私は続けて、ちょっとセンシテイブな質問をした。
「今、ロシアがウクライナに軍事侵攻して、大変になっているじゃない。自分がロシアのルーツであるって、何か感じることがある?」
私は失礼のないように気を付けて聞いてみた。
彼女は、「全然。私は私。私の祖先と今の国際問題は別のこと。私はアメリカ人。アメリカ人であることを誇りに思っているけど、ウクライナのニュースを見ては心を痛め、早く戦争が終わるように祈る気持ちは変わらないわ」。
なるほど、と思った。
ロシアの祖先をもたない私と、ロシアの苗字だけどアメリカ人である彼女が感じていることは全く同じなのだ。
もう一人、ロシアっぽい苗字の看護師(男性)がいるので、彼にも同じ質問をしてみた。
彼曰く。
「ぼくの苗字だけど、ロシアなのかな。ポーランドなのかな。家族の誰も真相を知らないみたいでね。」という答え。
「〇〇sky の前にOが入っているんだけど、どうやらそれがスペルの間違いみたいでね。」
「なので、僕の祖先がロシア人だという説、ポーランド人だという説、両方あって、家族の誰も真実を知らないんだよ。まあ少なくとも4世代前のひいおじいちゃんも、アメリカで生まれだからね。祖先は不明だけど、俺たちはアメリカ人家族だよ。」
という返事。
まあ昔、移民時にアメリカでの書類手続きの時、スペルを間違えたというのはけっこう聞く。
間違えなのか、何かの理由でわざとそうしたのか。
日系アメリカ人で、Inouye さんという方がいるけど、おそらくもともとはInoue さんで、どこかでInouyeとスペル間違いされたのかと想像できる。
日系のマツダさんも、Mazda だし。もとはMatsuda じゃなかったのかな。
ロシアかポーランドか不明である彼も、今回のロシアのウクライナ侵攻に関しても、先の看護師と同じで、自分の祖先と今回のロシアウクライナの戦争は別だと言った。
苗字は自分のルーツではあるけど、先祖がロシア人であっても、政治的な不当な戦争は許せないし、不条理に戦争で犠牲者が出るのにも反対している。
当たり前だけれど、ロシア系だ、日系だ、アジア系だ、という人種や民族がアメリカで生活していることと、今回の戦争は別の話なのだ。
ロシアからの移民
一方、一緒に仕事をするR獣医師のお兄さんの話。
彼は前妻と離婚した後に、しばらくしてロシアからの女性と再婚したという。
再婚して数年経つが、前妻の子供たちもロシア人の継母になつき、うまくやっているらしい。
だが今回のロシアのウクライナ侵攻で、確かに、「在米ロシア人」は少しセンシテイブになっているのが事実だという。
Rは言う。
「世界で起こっている政治や戦争と、個人の家庭の平和と尊厳は別。自分はロシア人の義姉を尊敬しているし、義姉がロシアにいる家族を案じ、兄もロシアの妻の家族と親しくしていることは何も変わりない。ようするに、政治や世界情勢と、個人は別のレベルの話だ」と言った。
もっともなことだ。
ウクライナ避難民
アメリカのバイデン大統領が、ウクライナからの避難民を10万人レベルで受け入れる、という声明を発表して久しい。
移民に対して寛容なアメリカは、特に「立場がはっきりしない」ウクライナ在住の人を多く受け入れていると聞く。
私の職場の人は、隣の家にウクライナ避難民が引っ越してきたと言っていた。
私の夫の職場の人もウクライナ避難民に1部屋無償で貸しているという。
先日、いつものスーパーにウクライナ避難民応援コーナーができて、ウクライナ風の?パンの試食を行っていた。
先日も近くの公民館で、ウクライナ避難民とのソーシャルパーテイーのイベントがあった。
ウクライナからの避難民が、この町にもたくさん生活し始めたのを実感している。
ウクライナ人のホームパーテイー
私の家のすぐ近所の人も、3人のウクライナ避難民を受け入れ、敷地内のゲストハウスに住むことになった。
先日、3人がウクライナ料理を作るという小さなホームパーテイーがあり招かれたので、立ち寄ってみた。
実は3人とも、Undocumented すなわち「非公開」の立場でウクライナに住んでいた住人で、今回難を逃れてアメリカに逃げてきたという。
Undocumented は、以前「非合法滞在」と訳された時があったが、必ずしも非合法とは限らない。
具体的には、外国から学生ビザで入国し、労働ビザに切り替えている途中の人。他の国から避難民としてウクライナに居住していた人、ビザや永住権を申請中で待っていた人など様々な立場の人がいる。
ウクライナに住んでいる人は、何もウクライナ人だけではないのだ。そういうウクライナ以外の国の人も、りっぱな戦争の迫害被害者で、命からがら他国に逃げてきているのだ。
日本人の皆さんはご存じだったか。
日本のウクライナからの避難民受け入れは、ウクライナ人と合法滞在者に限ると明確に言っており、Undocumented は頭から受け入れていないという声明を出している。
どこかで線引きをしなくてはいけないのはわかるが、戦争という非常時に、こういう決まりで避難希望者を分けてしまう日本はいかがなものか。
ロサンゼルスのわが家の近所の3人は、1人は学生ビザが切れて切り替え中だったセルビア出身の方、2人はポーランド系の人だが、ウクライナに長年住んでいながら、複雑な事情で永住権を待っていたという人。
近所の3人は、これからそれぞれ仕事を探し、いつまでも居候をしていられないので、アパートを探して自立しなくては、ということでいろいろ熱心に情報集めをしていた。
英会話もそれなりに取得しており、最低限の会話ができる。
レストランでも、建築関係でも、クラークでも、何でもすると、これからのアメリカ生活の第一歩に目を輝かせていた。
(しかもみんな、イケメン♡でした。)
ホームパーテイーに立ち寄った人は皆、募金箱に寡少ながらのキャッシュを、彼たちの当初の生活費として入れていた。
もちろん、ホームパーテイーに立ち寄った人の中には、おそらくロシア人を祖先に持つ人だっていたはずだ。
こういう時に、人種も、ルーツも、そして合法違法の滞在資格も、関係ないのだ。
人が、迫害されている人に手を貸してあげる。
当たり前の心だ。
そこにあるのは、国籍も人種も関係なく、迫害された人たちをサポートする個人と個人の繋がりだ。
何とかというおいしいポテト料理をつまみ、ありがとう、がんばってねと固く握手して応援した時、私は逆に彼たちからエネルギーをもらっていた。
人種、ブリード
獣医業界で仕事をしていると、犬種差別、猫種差別を見ることがある。
ブリードに関する個人の感想を言うのはよしとしても、そのブリードの性格や多発する病気のことを、必要以上に持ち出されると、私は不快感を感じる。
ピットブルはみんな危険。
チワワはみなデブで噛みつく。
ダックスは半身不随で麻痺する。
ゴールデンは癌で死ぬ
フレブルはみんな呼吸困難で死ぬ
それぞれ好発、多発する病気を予備知識として学ぶことは大切だが、それを不必要な時に不必要なタイミングで言うと誹謗中傷となる。
近年の保護動物活動、譲渡活動をする人の中にも、純血種を飼う人に対して、頭から否定的な言葉を言う人を見たことがある。
トイプードルといった純血種を飼っているからといって、飼い主を頭から敵視する必要はない。
そもそもどんな事情で純血種を飼い始めたのかもわからないし、犬だって純血種を選んで生まれてきた訳ではない。
純血種であっても雑種であっても、ペットショップからでも保護犬でも、大切なのは、今その方がどういう飼い方をしているか。その犬がどうであるか。
過保護、半ネグレクト、間違った飼い方をしていれば、改善を促す。
虐待予備軍であれば注意する。
適切な飼い方をしていれば、評価する。
犬をブリード(人でいう人種)や、ショップ出身か譲渡会出身か(国籍。出身地、ルーツ)で判断し、自分の抱いているイメージで誹謗してしまっていないか。
ロシア人を祖先に持つ人がウクライナ避難民に寄付をするのがごく自然にできる社会のように、動物愛護の世界でも、ブリードや出生地を超えて、その個人(それぞれの犬、猫)を尊重した保護活動、譲渡活動を気持ちよく行えるようになりたい。
何犬だから、どこ出身の猫だから、ではなく、この子にとってベストな里親探しを、この子にとってベストな医療を提供するようにしたい。
今回のウクライナ情勢により、迫害されて避難を余儀なくされたすべての人に、謹んでお悔やみ申し上げると同時に、全世界が平和に、戦火が消えるよう、微力ながら心から祈りつづけたい。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません