未承認で販売されているFIP 治療薬 GS-441524 の薬物含有量の純正度について 米国獣医師会雑誌に論文より
アメリカ獣医師会雑誌
Journal of the Veterinary Medical Association (JAVMA)の今月号(April 2024, Volume 262, Number 4) に、FIPの未承認薬の薬物含有量の問題について、論文が掲載されました。
JAVMAは世界的に権威のある獣医学の専門雑誌で、ここに掲載されるためには査読という審査を通らなくてはなりません。
論文が’臨床的に有意義な内容であり、かつ論文の内容、方法、結果の導き方などに間違いがないことを専門委員会が確認したうえで、その信ぴょう性が認められたものだけが掲載されます。
雑誌は米国獣医師会のメンバーは自由に購読でき、その他の人は有料で記事を購読することができます。
雑誌の内容はコピーライトがあって全文をお見せすることができないので、内容の要点をここで紹介したいと思います。
FIP治療薬
「未承認で家庭用に販売されているFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療薬、GS-441524製品(経口薬と注射薬)の成分含有量を分析したら、ラベルに記載されている用量と実際の配合量に非常に大きな差がありました」、というのがこの論文のタイトルです。
Unlicensed antiviral products used for the at-home treatment of feline infectious peritonitis GS-441524 at significantly different amounts than advertised.
論文の著者は、オハイオ州立獣医大のAlycia M. Kent MPH ら複数。
分析の詳細
世界中の「ブラックマーケット」で売られている未承認のFIP治療薬、GS-441524製品について、30の最も一般的なブランド(販売会社)から、127個の注射薬および経口薬について、解析検査した。
各製品の中のGS-441524量と、レムでシビルの含有量を、タンデム質量分析計を用いた液体クロマトグラフィー法で計測した。
また注射液の酸性アルカリ性は、pHメーターで計測した。
結果
87の注射液のうち、95%に、実際にはラベルに記載された用量より多いGS-441524量が含まれていた。(平均39%の増量)。
また注射液の平均pHは1.3であった。
40の経口薬製品のうち、43%に、平均75%以上のGS-441524量が含まれていた。
また40の経口製品のうち58%に、平均39%以下のGS-441524量が含まれていた。
注射薬1つ、経口薬2つにおいて、GS-441524に加えてさらにレムでシビルが一緒に含有されていた。
Mutian を含む各製品の解析結果の一覧表に関しては、実際の論文を参照してください。
結果を見た西山の感想
GS-441524の注射液製剤の半分近くは、実際よりも多くのGS-441524成分が含まれており、平均すると39%多く含まれていました。
ラベルに記載された量と実際の量がこれだけ異なるのは、承認されている薬物ではありえないことです。
またphが1.3という非常に強い酸性の注射液は、生体に注射するには不適切で、公的機関が承認する生理的範囲を大きく超えています。
GS-441524の経口薬は、注射液よりもばらつきがあり、ラベル記載量よりも多いもの、少ないものなどが混在していました。
すなわち、いいかげんに製造していた可能性も考えられます。
アメリカでは、GS-441524はストリートドラッグと呼ばれ、SNSという新しいプラットホームで売買される薬物。それゆえ、各製品のいわゆる純度は不明と言われてきました。
含有成分が多いのは少ないよりはよし、と感じるかもしれませんが、薬物のオーバードースの実験もしっかりとされていない中、多量の成分が、腎層、肝臓、胃腸を含む臓器にどのような副作用をもたらすかわかりません。
また不適切な量、多量の薬物投与は、いたずらに薬物耐性を誘導する危険もあります。
注射液が強酸性液であるのは、注射部位の皮膚反応が多発していたことからも想像できますが、ありえないくらい強い酸性溶液であり、注射を受けた猫はどんなに痛かったかと思うと胸が痛みます。
純正度の他にも
未承認の薬物の恐ろしさは、薬物の含量だけではありません。
ここではGS-441524とレムでシビルの2つしか検査していませんが、他にどんな薬物が混入していても不思議ではありません。
また、重金属、防腐剤、安定剤など、どんな薬品がどの程度の濃度で入っているのかもわかりません。
ばい菌やウイルスなどの混入もわかりません。
動物は自分で自己責任のうえで治療の選択をすることができません。
私たち、世話をする人(飼い主)、医療提供をする人(獣医師)が責任ある判断をしなくてはなりません。
未承認薬は買わないで。
未承認薬は使わないで。
これはストリートの薬物販売が、街の裏通りからSNSのプラットホームに変わった今でも、昔から変わらない不変の決まりのはずです。
朗報
GS製剤は、今アメリカではクリニカルトライアルが行われており、承認済みの合法製剤が発売されるのも近いとされています。
また、ヒトのコロナウイルス感染症に承認されたものなど、多くの抗ウイルス薬を適応外処方でFIP治療に使われることもあります。
1日も早く、正式にFIP治療薬が正式に承認、販売され、表舞台に現れますように。。。
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