皮下注射の仕方 

動物愛護,日本,獣医療・ペット

注射は医療行為

まず初めに明確にしておきたいのは、犬、猫などの動物にする注射は、医療行為であるということ。
よって通常は獣医師と動物看護師のみが行うもの。

注射には皮下注射、筋肉内注射、静脈注射、大きな意味で点滴注射(皮下点滴、静脈点滴)など多数あるが、どれも獣医師と動物看護師にのみ、行うことが認められている。

動物看護師は獣医師の監督指導の下で行うもので、「この注射液をこの量、皮下に注射しなさい」という指示がなくては行えない。

しかし、自宅治療のひとつとして、獣医師が飼い主に、自分の動物に注射をするように指示を出すことがある。
この場合、飼い主は自分の所有する動物に、指定された薬物を規定量、指示どおり行うことになる。
通常は獣医師より注射のやり方を教えてもらい、消毒などの基礎概念を学んだうえで、注射器や薬物などを処方してもらい、自宅で行い、そして使用後の正しい廃棄の仕方等も教えてもらう。

同様に、動物愛護団体に施設内での注射の指示が出ることがあるかもしれない。

正しい「注射の仕方」をこのブログに書く理由

理由は3つ。


1. 獣医師、動物看護師の方を対象に、正しい注射の仕方をもう一度復習していただく。

2. 獣医師より指示を受け、自分の動物に注射をすることになった飼い主さんに、じっくり学んでいただくため。

3. 飼い主が動物病院に行った時、獣医師や看護師が自分の動物に注射をする、という場面に居合わせる時に、獣医師看護師が、正しい技術で、基本に忠実に注射を正しく行っているか判定するため。

犬、猫への注射で多いのが、皮下注射だと思うが、注射の仕方が下手、あるいは技術が間違っているという獣医師、看護師に出会うことが多々ある。
また、テレビや映画、番組の中で、獣医師が注射をする場面が映る時、あるいはYouTube の動画でも、下手だなあ、危ないなあ、と閲覧していてヒヤッとする時がある。
せっかくなのでこの場でぜひ、私が理解している正しい動物への注射を、もう一度学んでほしい。

皮下注射をする時のポイント2点

ここでは一般的な皮下注射のことを説明する。
ポイントは2つ。

1つは、獣医師の行う注射の技術。
もう一つは、動物の保定(動かないように押さえること)の仕方。

この両者が正しくおこなわなければならない。

皮下注射をする時のテクニック

まず注射を行う人が気を付けるポイントは2つ。

1つは、正しく注射器を持って、針を生体に刺してから、持ち変えないこと。
2つ目は、薬物を注入する時にふらふらしないように、注射を持つ手の一部が動物の体を触っていること。

人間の場合、注射はチクっとするかもしれない、でも動いたら危ない、といった前知識がある。
でも動物は基本、痛い時、不安な時、新しい経験をして怖い時など、構わず動き、あるいは発声する。
注射針や注射液の注入時の不快や痛みを軽減するのは難しいので、とにかく迅速に早く注射を終わらせる、というのが何よりも大事なのだ。
あっと思った時はもう終わっていた、というのが望ましい。

それゆえ、針を刺してから、注射器を持ち変えてはいけない。

針を刺した直後に、ただちに内筒を押す(注射液を注入する)。

針を刺した場所にたまたま血管がないか、内筒を少し引いて確認する、ということは、皮下注射では必要ない。

もう一つのポイントは、内筒を押す時に、手の一部を動物の体に障り、ふらふらしないということ。

私は右利きだが、注射器は中指、薬指、小指の3本で注射器の胴体の片側、親指でその反対側を持つ。
人差し指の先を内筒に軽く触り、針を刺した瞬間、内筒をすぐに押すように準備している。
針を刺す時は、右手の小指のつけね部分を、動物の体に軽く押し付けるようにする。
そうすることで、注射器を持つ手は安定し、内筒を押す間も、その部分はずっと動物と接触していることになる。

動物の保定

さて、もう一つの重要なことは、動物を安全に押さえること。
これに関しては、本の1章が書けるくらい複雑なことなので、詳細は割愛する。
大切なのは、動物に不快や恐怖を与えず、短時間で、安全に行うこと。

そして何より、強く押さえすぎないこと。

残念ながら日本の動物病院の多くでは、動物を必要以上に強く押さえすぎる傾向が目立つ。

アメリカではずいぶん前から、Fear Free Program という、動物医療関係者や、保護団体関係者向けのプログラムが普及し、注射時、投薬時、診察時をはじめ、入院から治療、就寝時まで、どうしたら快適に過ごせるか、行えるかという概念が体系化して普及している。
Fear Free Program は認定証も発行されるが、一般の獣医師看護師にも概念が広待って受け入れられている。

動かないように力づくで抑えるのではなく、保定は最小限、最短を心がけ、気を紛らわす、あるいはトリートを与えるといった楽しいポジティブな経験と結びつける。

注射で強く押さえつけられ、必要以上に長い時間を要してしまうと、動物は注射も、動物病院も恐怖、嫌な場所という経験をしてしまい、次回の来院の時にさらに強く反抗するようになる。
特に子犬、子猫は非常に気をつけなくてはならない。
直前まで遊ぶ、トリートを与えるといった行為をし、あっという間に注射をし、一瞬のうちに終わらせるのが望ましい。

動画

以下、簡単に説明した動画です。
外部リンク
3分

まとめ

いかがでしたか?
もちろん、これ以外にも異なるテクニックで皮下注射を行う獣医師もいるだろう。
上記の方法以外はすべて間違い、というのではない。
自分が一番気持ちよく、慣れている方法で行うのが一番。
ただ、注射の基本はどのテクニックでも同じで、手早く、持ち変えず、注射器がふらふらせず、動物を強く押さえつけず、一瞬であっという間に終わらせること。

どうか動物のためにも、安全に正しい方法で行ってほしいです。

西山ゆう子

動物愛護,日本,獣医療・ペット

Posted by Dr. Yuko Nishiyama