猫の不妊去勢手術 は5カ月齢までに行いましょう
子猫の手術は本当に安全ですか
猫は何か月齢になったら、安全に手術できますか、とよく質問されます。
体重何キロになったら、手術可能ですか、とも聞かれます。
答えは単純ではなく、その猫の個体、病気の有無、環境、その他を考慮して決めます。
今日は猫の不妊去勢手術の適齢、専門家の意見、懸念されるリスク、長期の副作用、安全性等についてお話したいと思います。
初めに明確にしておきますが、これは猫に限った話です。
不妊去勢手術の施行時期については、犬と猫では見解が異なります。
犬の話は、また別の機会にしたいと思います。
時代によって変わった
今から半世紀前のアメリカでは、猫の不妊手術は、1度子猫を出産してからというのが主流で、その後、最初の発情が終わってから、という時代がありました。
その時は、科学的な根拠に基づいたものではなく、おそらく麻酔、抗生剤、鎮痛剤などが未発達だったため、経験からのものだったとされています。
当時は麻酔の前にも後にも、長い時間の絶食が必要で、痛みや感染に耐える体力と内臓機能が要求されたのでしょう。
やがて麻酔、手術器材やモニター機器、薬物が改良され、約6か月齢くらいでも安全にできるようになりました。
その後、アメリカのシェルターでの殺処分数が社会問題化し、もらわれることのない不幸な命を、1匹でも減らしたいということで、全米で不妊去勢手術の普及運動が起こりました。
最初は、生後6か月くらいになったら必ず手術してね、という譲渡契約をした上で渡していたのですが、それでも気が変わったり、忘れたり、逃げるということがたまに発生してしまう。
そこで、譲渡される子猫を、もうその時に手術をしてしまおう、そうすれ絶対妊娠しない、ということで、生後4か月未満の「早期不妊去勢手術」が普及し始めました。
また近年、不妊去勢手術のする年齢と、成長ホルモンと、骨格や尿道の発達等が関係しているらしい、というのが犬で報告され、それゆえ、猫も骨格が十分成長し終わるまで手術を待つべきではという仮説も出てきました。
アメリカの専門医の見解―生後5か月齢までに
このようにアメリカでは歴史的に、不妊去勢手術を行う時期が変動したため、臨床獣医師も市民も動物愛護団体も、本当はいつがベストなのかわからなくて混乱していました。
何とかしなければということで、科学的なエビデンスと統計、臨床医学知識、社会事情に精通したプロを集めて、専門委員会が立ち上がりました。
2016年に、Veterinary Task Force on Feline Sterilization (猫の不妊化に関する獣医特別委員会)が発足し、専門委員会としての見解を発表しました。
結論は、
「猫は生後5か月になるまでに不妊去勢するべきである」
です。
そしてそれに伴う利点を説明しています。
その後この見解は、米国獣医師会、米国動物病院協会、猫臨床専門学会、シェルター獣医専門学会など、複数の獣医専門学会から広く支持、承認され、現在に至っています。
私たちアメリカの臨床獣医師も、この専門委員会の声明文に基づいて、猫の不妊去勢手術をする時期を考え、個別に奨励しています。
専門委員会の見解―5か月齢までに手術をする利点
生後5か月齢までに、猫に不妊去勢手術をすると、以下の4つの利点があるとしています。
1.乳腺腫瘍のリスクを下げる
2.子宮蓄膿症、難産などの産科関係の疾病を予防する。
3.早ければ4か月齢で妊娠してしまう猫の、望まない妊娠を避けることができる。
4.問題行動を緩和できることがあり、それによって遺棄される猫の数を減らすことができる。
乳腺腫瘍の予防は、大変大きいと感じています。
メス猫は、初回の発情が来る前までに、不妊手術をすることで、発生率をかなり低く抑えることができます。
また、不妊手術前のメス猫には子宮関係の疾病が発生するのも事実です。
猫は交尾刺激で排卵する動物なので、発情がきても交配しないと、持続的に発情が続きます。それに伴い子宮内膜が異常になるホルモン疾患の内膜症や子宮水腫、蓄膿症など、比較的若い猫にも起こります。
また、猫が何らかの問題行動をするようになると、飼い主が困り果てて飼育遺棄やネグレクトにつながります。排尿・排便行動、マーキング、攻撃性、猫どうしのケンカ、鳴き声など、多くは不妊去勢述をすることで、緩和、予防ができるとされています。
Neuter Before Adoption NPA 譲渡前手術
全米のシェルターでの猫の殺処分数が減少したのは、複数の要因が相乗効果をあげたから、と考えられています。
その一つが、譲渡前の不妊去勢手術NBAです。
譲渡時に手術が終わっていると、間違った妊娠出産を完全に予防します。
さらに、飼い主へは、終生飼育、室内で飼うことの徹底、問題行動の時は相談解決するサポート体制など、コミュニテイー全体で助け合う文化を築いてきたことがあげられています。
バックハードブリーダーや悪徳繁殖業者の取り締まりの強化、繁殖するのに許可証を必要とする、といった政策も効果的でした。
そして現在、新しく猫を飼う時は、シェルターや愛護団体から、というのが主流になりました。
早期不妊去勢手術の不安 手術技術
一般に、生後4か月齢までの子猫に行うものを、早期手術と呼んでいます。
早い場合は、生後6週齢くらいで行うこともありますが、一般には生後8週齢くらいから行っています。
ただ、子猫の成長、栄養、病気の有無などで、体力に差があります。よって、判定は個別に行い、8週齢になったらみんな手術可能、という訳ではありません。
特に鼻炎、下痢、寄生虫、その他の感染症の疑いの子猫は、注意が必要です。
麻酔は、成長した猫と「基礎」は同じですが、手法が異なります。
子猫は成猫とは生理が異なるので、いわゆる小児学の知識が必要です。
具体的には、低体温の予防、低血糖の予防、代謝や血圧の変化のモニターが異なります。
手術前の絶食時間は成猫よりも短く、2カ月齢で2時間、3カ月齢で3時間、4カ月齢で4時間が目安です。
手術の術式は成猫と同じですが、メス子宮卵巣といった組織は柔軟で脂肪、血管が少なく、生理的腹水が子猫にはあります。
しかし逆に慣れてしまうと、むしろ成猫よりやりやすく、短時間で終了することができます。
そのため、メスは腹部の切開する部分が、かなり短くても安全に手術できます。
オスの去勢手術も、睾丸を陰嚢に確認したうえで、ごく小さな皮膚切開で行えます。
クローズ法という、総漿膜を切開しない去勢方法が一般的です。
また一般に、子猫は麻酔量が少なく、1匹あたりの手術時間が短いため、経営的にはコスパがよいとされています。
アメリカの低料金不妊去勢クリニックは、多くは子犬、子猫の早期不妊手術で、また料金も、従来の生後6か月齢と比べて、より格安で行うことが可能です。
早期不妊去勢手術の不安 麻酔
子犬、子猫の麻酔関しては、複数の統計報告が出ています。
結果として、早期不妊去勢手術の麻酔は、安全に行うことができることが分かっています。
麻酔、手術中と、麻酔覚醒直の合併症―死亡、心肺停止、痙攣などーは、早期手術も、6カ月齢以上の手術を比較しても、発生率に差がみられません。
しかし、手術から1週間以内に発生するマイナーな合併症―切開皮膚部分の感染、糸がとれる、治癒の遅れや、下痢、元気食欲の消失などは、逆に早期不妊去勢手術のほうが、発生率が低いという結果が出ています。
これは実際に、現場の獣医師も感じていることで、子猫の手術は、切開部分も小さく、多くの場合気にして舐めることもなく、覚醒直後から元気に飛び回って遊んでいるのを経験しています。
麻酔と手術は、子猫も成猫も同じく安全であり、そして術後の合併症は、子猫のほうがより少ない、というのが判明しています。
早期不妊去勢手術の不安 長期的な副作用
子猫の不妊去勢手術と、ある種の病気の関連性はないのでしょうか。
結果からいうと、手術時の年齢と以下の病気の間に、明確な関連性は認められていないと結論づけられています。
骨格形成、関節形成不全
特に大型犬では関連性が示唆さえているために、猫でも骨と関節の成長に影響するのではと懸念されていますが、猫では関係は否定されています。
オス猫の尿道狭窄、尿道の未発達について。
あまりにも幼少の時期に去勢をすることで、尿道がうまく発達せず、将来、尿道閉鎖症が起こりやすくなるという懸念が以前からありました。
確かに、去勢のオス猫の尿道閉鎖症の発症率は、未去勢猫よりも高くなっています。
しかし、複数の研究報告、統計結果で、早期去勢手術をした猫と、生後6か月より遅く去勢手術をした猫との間に有意差はなく、どちらも発症率は同じだとわかっています。
そもそも猫の尿道閉鎖症は、尿道の細さだけではなく、尿道炎、膀胱炎、尿結晶、尿の酸アルカリ度、尿比重、細菌感染、無菌性膀胱炎、ストレスなど、複数の因子が関与している病気です。尿道のサイズだけで病気の発生率は予想できません。
早期不妊去勢手術と問題行動
排尿、排便異常行動、尿スプレー、攻撃性などの好ましくない猫の行動と、早期不妊去勢手術との関係も、調べられています。
結果的に、早期不妊去勢手術と、問題行動の因果関係はないと結論されています。
まとめー猫の不妊去勢手術は5カ月齢までに
1.猫は不妊去勢手術をすることで、乳腺腫瘍の発生率を下げ、産科の病気を予防し、また好ましくない問題行動を緩和、予防します。
2.子猫を含む、すべての猫に、譲渡時に不妊去勢手術をすることは、望まない妊娠出産を予防し、殺処分数の低下に貢献します。
3.生後16週齢未満の子猫にも、安全な方法で麻酔、手術が行われ、死亡率率は、従来の6か月齢の猫と同じ、術後の問題はむしろ少ないとわかっています。
4. 尿道狭窄や問題行動、関節疾患と、手術を行う年齢は、直接の関連性はないと結論されています。
ケース別の猫の不妊去勢手術をするタイミングは、以下が奨励されています。
あくまで猫の個体、成長、病歴により、手術時期を調整します。
愛護団体、保護活動の場合
・生後5か月齢以上の猫はすぐに
・生後5か月齢未満の猫は、譲渡時に。一般には8週齢以降。(8週齢未満の譲渡はお勧めしていません)
終生飼育する予定の飼い主さんの猫
・生後5か月齢以上の場合は、すぐに。
・生後5か月未満の場合は、子猫のワクチン接種が終了した後、通常4-5か月齢までに。
TNR(ノラネコの捕獲ー手術ーリターン)の場合
・子猫は、早期不妊去勢手術をし、順化して一般譲渡を奨励。
多頭飼育崩壊から保護した子猫、成猫の場合
・子猫は、健康状態が許す限り、5カ月齢までに手術、順化、一般譲渡がベスト。
・妊娠猫は、妊娠期、健康状態、関わっている関係者との相談の上、短期、中期、長期の滞在場所、誰が最終的に飼うかによって、堕胎不妊手術をするか、分娩させるか、を総合的に決断する。
・その他の成猫は、健康状態が回復し次第すぐに。
すべての猫が、5カ月齢までに不妊去勢手術を
Fix by Five
Spay by Five
アメリカの事情を中心にご紹介しましたが、皆さんのお住まいの地域のご事情に合わせて参考にしていただけると幸いです。
今までと同じように、自信を持って、不妊去勢手術を啓蒙し、広めていただけたらと思います。
これ以上、不幸な命を作らないために。
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