あなたのシェルターは、新型コロナ対策ができていますか?

動物愛護,新型コロナウイルス

動物愛護団体の方へ
ご自分で実際に犬や猫を保護し、一般の人に譲渡するという、動物保護活動をしている方のために、ヘルプになればと思い、私見をまとめてみました。参考にしていただけたらと思います。

アメリカの動物シェルターは空っぽ?

新型コロナウイルスが大流行しているアメリカの各地では、行政のシェルターや、個人保護団体のシェルターなどで、譲渡が進み、シェルター内の動物がどんどん減っている、というニュースが日本でも報道されました。おそらく地域差はあると想像しますが、私の住むロサンゼルスでも、いくつかの愛護団体は、シェルター内の動物が減っていると言っています。

そのニュースを見た多くの方は、「いくら外出禁止令で家にいる時間が長いからといって、衝動的にペットを飼うなんて」「今後失業しても、ずっと飼い続けられるの?」と、思われたかもしれません。確かに、施設側の発表やニュースを見る限り、「この時期、癒しを求めて犬や猫をもらってくれる方がたくさんいます。おかげでほら、シェルターは空っぽ。うれしい悲鳴です」みたいな報道の仕方です。

「シェルターを空っぽに」、というのは、新型コロナ対策のキャンペーン

実は、新型コロナの流行が始まった2-3カ月くらい前から、アメリカの専門家や関係者が集まり、行政や愛護団体のシェルターを、何とかしないと大変なことになる、と考えていました。そして、来る大流行に備えて、今からできる事、今から準備しておかなくてはならない事は何かと話し合われました。

そして出した答えが、「今のうちに、シェルター内の動物の数を、可能な限り減らす」ということでした。権威ある専門委員会や団体が中心になり、そのメッセージを全米の愛護団体や自治体に知らせ、多くがそれに従い、実行しました。

新型コロナウイルスが流行、あるいは長期化した時に、シェルターに何が起こるか

具体的には、以下のことが懸念され、また、現在実際に起こっているところもあります。

1. 寄付金の減少。経済が鈍化し、失業者が増え、市民は善意の募金をする余裕がなくなります。よって、愛護団体の運営を直撃します。

2. 譲渡会ができない、譲渡希望者のために、市民が施設を訪問することを禁止される。実際に今は、一般の人が見学できる公共、個人のシェルター施設は営業が禁止されています。譲渡希望者は、インターネットなどを通して譲渡を申し出ます。すなわち、通常ルートでの譲渡は減少します。

3. シェルターで働くスタッフ、ボランテイアの数が減る。いつもは出勤していた夫が今はずっと家で仕事している、子供が家でホームスクールになる、保育園が閉まる、といったことがあると、いつもはボランテイアに通う時間的余裕があった人が、家庭で家族の世話をすることになります。スタッフも、どうしても家にいなくてはならない、という人も出てきます。実際に新型コロナに罹患したり、濃厚接触したりして、入院や自宅検疫となる場合もあるでしょう。シェルターで働く人の数が、今までのように確保できなくなります。

4. スペースがなくなる。これから、自分のペットを飼えなくなった、という人が増えるのは明らか。ご自身が死亡した、長期入院となる、失業破産のために金銭的に飼えなくなった、などなど。最悪のシ場合、ェルターが満杯になってしまい、引き取りお断りという事態になってしまうと、どこにも引きとってもらえないペットが捨てられたり虐待されるかもしれません。

5. 検疫、隔離の場所が必要になる。新型コロナウイルスは、人からペットへの直接感染は、今のところ否定されていても、ペットがウイルスを媒介する可能性を懸念しなくてはならなりません。それゆえ、新型コロナウイルスと接触した動物(飼い主様が新型コロナにかかった)は、従来の在舎動物とは別の、検疫室、隔離室を使わなくてはなりません。今まで以上に、多くの個別スペースが必要になり、グループに分けて飼育しなくてはなりません。

6. 施設の閉鎖などがありうる? 一般にアメリカは日本よりも保健所や衛生局などの当局が強い権限を持っており、必要と判断されれば、明日にでもシェルターを閉鎖する指示が出ることがあります。不衛生な環境や、ネグレクトから閉鎖の命令が出ることもあります。寄付金や人員の減少、引き取り依頼の増加を考えると、とにかく今、在籍している動物を、何とか減らすのが望ましいでしょう。

7. 備品、消耗品、個人防護具の深刻な不足。消毒薬、クリーニング洗剤、マスク、ガウン、グローブ。。これらは、ヒトの医療現場に第一に送られるべきもの。今後、これらの慢性的不足、あるいは絶対不足事態が予想されてます。施設内でパルボなどの他の伝染病予防対策が、十分できなくなることも考えます。

どうやって、シェルターを空っぽにしたのか。

その施設によって異なるとは思います。しかし、すべての動物が正式譲渡となった訳ではなく、預かりボランテイアさんの利用など、通常とは異なる「今だけの非常事態」として、特別な枠を設けて、柔軟に対応した結果が大きいようです。

  • 引き取りを極力少なくしている。事情で飼えなくなった、引き取ってほしいという人には、今まで以上に強く説得し、せめてあと6カ月飼い続けられないか、などと、延期してもらう。
  • スタッフの家族、親戚、友達など、緊急事態であることを添えて、飼ってくれないかと強くお願いする。
  • 預かりボランテイアを増やす。普段よりも預かりボランテイアになる資格を緩め、多くの人に預かり宅になってもらう。
  • 期間限定の預かりボランテイア。6カ月だけ、などの制限を設けて。今までなかった特別枠を作る。などなど。
  • 備えあれば憂いなし

    みんな、この先どうなるのだろう、と不安です。シェルターを空っぽに、というキャンペーンは、人それぞれ意見も異なり、賛否両論もあるかと思います。

    すべてアメリカの真似をするべきとは思いません。ただ、これから流行が長期化する世の中で、責任を持って動物保護活動を続けると同時に、さらに、施設で働くスタッフやボランテイアの安全を最大限に守らなくてはなりません。

    もう一度言います。「シェルターが空っぽよ」といって喜んでいるアメリカのニュースは、ウソではありません。しかし、いくらアメリカ人が楽観的でも、先のことも考えず、家にいる時間が長くて寂しいから、と衝動的にシェルターに殺到したためではありません。

    世の中、いろんなニュースが氾濫していますが、読む側も、報道をする側も、その後ろで何が実際に起こっているのか、ちゃんと把握してほしいものです。ぜひ、ご自分で保護活動をされている方は、今からできることを、実行してほしいです。

    皆さん、くれぐれも、安全に、ご自愛くださいね。

    動物愛護,新型コロナウイルス

    Posted by Dr. Yuko Nishiyama