動物愛護法の他にも、動物を助けられるものがあります

動物愛護,日本

こんな法改正では、日本の動物は永久に幸せになれない?

Aさんから、コメントをいただきました。
「私は、今回の動物愛護法の改正、数値化を、とても残念に思っています。猫の繁殖に関して制限を出していないですし、帝王切開に関しても、回数を規制していません。こんなことでは、悪徳ブリーダーは今までと同じように、動物の命を商売道具として使い、何度も産ませ使い捨てるでしょう。今までと同じです。これでは日本の動物たちは、永久に幸せになれません。
私は、ブリーダーもペットショップも、全部必要ないと思っています。悪以外の何でもありません。きびしい法律を作って、ペットショップもブリーダー業も、全部規制しない限り、動物は物のままで、ずっと苦しみ続けると思います」。

Aさんへ
お気持ち、よくわかります。
ニュースやSNSなどで、悲惨な状況で飼われている動物たち、不衛生な場所に閉じ込められている写真を見ると、本当に胸が痛みます。

今日は、動物愛護法以外にも、動物のために何かできることはないか、というお話をしたいと思います。

「数値規制」は甘すぎる?

現在、環境省が提示している「数値規制案」に対して、確かに、これも入れてほしい、これをもっと厳しくしてほしい、という要望を、SNSでみかけます。
きびしく規制しないと、悪徳業者は改善しないかもしれません。
ただ、それと同時に、今、きちんと愛情を持ち、本当に動物の体の負担を心配しながら、繁殖をしているブリーダーもいらっしゃること、そして、そのような方たちも、正しい繁殖を続けられる法改正でなくてはなりません。

ペットショップや繁殖業はすべていらない、なので法ですべて規制というのは、現時点では受け入れられないでしょう。

40歳以上の女性が出産すると、ダウン症の子の出産が多いので不幸だ、といって法で40歳以上の出産を禁止することはありません。
2度帝王切開をした女性は、3度目は危ないので、次の妊娠出産を法で禁止する、ということもありません。
帝王切開ばかりのブルドッグなんてもういらない、淘汰すればいい、と思う人もいれば、ブルドッグをこよなく愛し、犬種を保存したいと思う人もいます。
動物愛護法は、それぞれの各動物たちが、1匹1匹、痛みなく飢えなく幸福に満たされて生きることができるように、というのを目的としています。
一部の悪徳な人たちを取り締まるのが目的ですが、かといって、きちんと愛情を持って繁殖業を営んでいる人たちの基本権利を制限することはできません。

法改正をきびしくさえすれば、日本中のすべてのペットたちが幸福になるとも思えません。
私は、法律以外にも、動物の幸福を推進するものが、いくつかあると思っています。

動物愛護法以外に、動物を幸せにするもの

その他にも、私たちができるアプローチとしては、以下があると思います。

1. ガイドライン
2. ポジション・ステートメント 陳述、意見書
3. 共同組合、自主規制グループ
4. 消費者啓蒙目的のラベル

これらについて、以下、具体的に個人的な意見を述べたいと思います。

ガイドライン

一般にガイドラインは、行政機関、専門委員会といった、社会的に影響力があり、かつその道の専門知識を有する機関が作成し、公示しています。
一般市民が、どうしたらよいか迷う部分や、複数の情報があって、意見が分かれるようなことについて、あえて専門委員会などが、混乱を避けるために、ガイドラインという形で、方向性を示しています。
例えば、アメリカ獣医師会をはじめとする、米国の獣医関係の専門委員会は、以下のガイドラインを今まで発表しています。

・安楽死のガイドライン
・犬と猫のワクチン接種のガイドライン
・地域猫政策に関するガイドライン
・疼痛、痛みの管理に関するガイドライン
・寄生虫コントロールに関するガイドライン
・不妊去勢手術に関するガイドライン
・末期医療、ホスピスに関するガイドライン

どうですか?このリスト見ただけで、ぜひ、読んでみたい、内容を知ってみたいと思いませんか?
ガイドラインは、一般の人たちが、迷った時に参考になる参考書です。

ガイドラインは、一般に、法的な強制力はありません。
ガイドラインに従わなかったといって、るいは、ガイドラインに書いてあることと反対のことをしたといっても、罰せられることはありません。

しかし、例えば後日、訴訟になった時に、「何を根拠にそうしたか」「どうしてそうしようと思ったか」と問われた時に、ガイドラインに従ったから、というと、通常は十分に良識的な行為であったと認めら、自身を守ることができます。
法的強制力がなくても、何か理由がない限り、ガイドラインに従うべき、というのが一般常識です。

例えばです。

日本の獣医師会や、あるいは専門知識のある団体が、自主的にガイドランを出して、「犬の帝王切開は、生涯に3回までにするべきである」と公表したとします。
ブリーダーは、それに従う法的強制力はありません。が、例えばある犬に、5回帝王切開出産させたとします。
そして、その犬の状態が悪くなり、保護され、腹膜癒着の後遺症が出ていたとします。
そして、その犬は虐待を受けていたとして、後に動物虐待の告発、裁判になったとします。
その時裁判官や陪審員は、「ブリーダーはなぜガイドラインに従わなかったのか」と問い詰めます。
ガイドラインがあるにも関わらず、それに従わなかったから、犬の虐待につながった、と結論しやすくなります。

ガイドラインとは、そういう時に、パワーを発揮できます。

ガイドラインは、専門委員会等が作りますが、科学的エビデンスだけに戻づいて作られる訳ではありません。
今の現場での現状、ガイドラインを出した後の社会的、経済的な業界の影響、業界と同時に、地球や環境、コミュニテイー、将来性など、多くのビジョンからプラクテイカルに作成します。

私は、猫の繁殖や、犬猫の帝王切開などは、権威ある団体がガイドラインを作ることで、ある程度虐待が防げるようになると感じています。

ポジション・ステートメント

これは、その分野にとても詳しい専門家の団体、グループあるいは、個人の「専門的な見地、意見、陳述」です。
ガイドランは、基本、多くの人がそれを取り入れ、従うことを前提に作られますが、ポジションステートメントは、あくまでも意見です。
よって、その意見に現場が従うことを想定されていません。
各専門家は、自分の経験や文献など、専門知識から総合的に意見を述べます。
一般にガイドラインは、複数の専門家のポジションステートメントも参考にしながら、作られます。
犬の帝王切開の生涯の回数など、獣医外科医、獣医ペインマネッジメントの専門家、繁殖専門家、など、幅広いプロから、正式にポジションステートメントとして、意見を聞くのはどうでしょうか。
例えば、「犬の帝王切開は、通常、3回くらいが限度で、それ以上繰り返すのは、私はリスクが大きいと思う」という専門家の意見が複数集まれば、それがガイドラインや今後の法改正につながっていきます。

共同組合、自主規制グループ

法で規制されていない事でも、あえてそれを実行する組織やグループを作って、それを推奨するという消費者運動があります。

「文部省推奨商品」「ローカル」「地球にやさしい」といったような表現のマークやステッカーを見たことがないでしょうか。(正確な表現は覚えていないので、多少異なる言葉かもしれません)
例えば、リサイクル商品を使用することは、法で強制されていない物でも、あえてそれを主張し、消費者に、エコ製品を選んでもらうよう働きかけることがあります。
地元の農家を応援するお店であるとアピールすることで、地元の産業を推進する方法もあります。
ここに法的な規制や強制力はありません。でもあえて、グループがそういう活動をしています。

例えば、環境省なり獣医師会なり、動物福祉団体が、独自に基準を作り(今回の数値基準よりもさらにきびしく、動物福祉に沿ったもの)、その基準を満たしたペットショップや、ブリーダーだけに、「優良ブリーダー」「愛護団体推奨ブリーダー」といったステッカーを発行するのです。

そうやって、消費者の関心を高め、悪徳ブリーダーや悪徳ペットショップが介入できない基準を、独自に作るという方法も、りっぱな動物愛護活動だと思います。

消費者啓蒙目的のラベル

これらは、いち商品に、わざと、アピールする内容のものを記載する、という活動です。
その内容は、法律で、「ラベルに必ず記載しなくてはならない」という内容ではありません。
あえて書かなくてもいい情報を、書くのです。

80年代、私が一番印象に残っているのは、「動物実験しない化粧品」です。
当時、化粧品の安全を確認するために、うさぎの目に化粧品を入れて、問題ないか確認するというドレーズテストが慣行されていました。
すでに安全性が確認されている成分で作れば、ドレーズテストはしなくてよいのに、業界では相変わらず、うさぎをつかったドレーズテストが続けられていました。
そこで、動物実験していない製品には、あえて、化粧品のパッケージに、「動物実験していません」というロゴとラベルを書き加えるという運動が世界的に始まりました。
それによって消費者は、今まで関心がなかった人も、あえて動物実験していないものを選ぶようになり、多くの化粧品会社が、動物実験をしないで、新商品を開発するようになりました。
化粧品の動物実験廃止は、消費者ラベル運動で成功したいち例です。

同様のものは、他にもたくさんあります。

・遺伝子組み換えしていない食品
・国産のものだけで作られた食品
・ホルモンを使用していない牛乳や牛肉
・ケージフリーの鶏卵
アメリカの場合、よく見かけるのが、
・ビーガン食;動物性由来のものをいっさい不使用
・PBSフリー;缶製品のコーテイング剤のPBSを不使用
・Fair Trade Product 商品;発展途上国の教育プログラムの付加価値つき商品
・Grass Fed Beef 牧草育ちの牛の肉
などです。

あえて、それをラベルに書いて訴えて、消費者に賢い消費を促しています。

例えば、どうでしょう。

ペットショップの販売の子犬子猫に、自然分娩で生まれた子犬、子猫に、「帝王切開なしで生まれた命」というロゴをつけるのはどうでしょう。
誰だって、ペットを購入する時に、帝王切開をしないブリーダーから、愛情を持って、無理に繁殖しないで生まれた子犬、子猫を買いたいと思うはずです。

「帝王切開なしで生まれた命」

「ケージフリーのブリーダーからやってきました」

「8週齢までお母さんと一緒にいました」

悪徳繁殖業者が、どうがんばっても書けないようなことを、ペットショップで訴えることで、消費者が学べることが多いかと思います。
もちろん、ウソの表記をしないよう見張るシステム、またウソの表記が発覚したら、それを通報するシステムも必要ですね。

まとめ

今回の法改正、数値規制は、多くの関係者が大変な努力をされたと想像しています。
最後まで油断することなく、できる限り、今の悪い現状を改正できる、具体的な、実行力の伴うものになるように、関係者の方に引き続きがんばっていただき、そして私たち市民は、それを熱く応援したいです。

Aさんへ。

どうかあきらめないでください。
愛護法だけではなく、私たちが他にできることが、きっとあるはずです。
少しずつ、動物たちが幸せになれるように、私たちができることを、力を合わせて考えていきましょう。
動物たちのために。
  

 

 

動物愛護,日本

Posted by Dr. Yuko Nishiyama