将来、動物看護師になりたいのですが、親が反対しています

人生・生活,日本,獣医療・ペット

進路相談のメール

「私は将来、動物看護師になりたいと思っています。子供の頃から動物が大好きで、動物と関わる仕事がしたいです。
しかし両親は反対しています。将来はもっとちゃんとした職につきなさいと言っています。
先生は動物看護師の仕事をどう思いますか?これから将来、よくなりますか?」

将来の希望

Aさんへ。
ご連絡ありがとうございます。
Aさんが将来なりたいと思う職業と、ご両親がAさんに想い抱いている希望が異なるために葛藤が生じているのかと思います。

実際に学校に行って勉強し、卒業して資格をとって卒業するのはAさんなのですから、Aさんがベストと思う道を選ぶことができればと感じます。
一方で、Aさんよりも人生経験が豊富なご両親は、おそらく今後授業料を払いながらAさんが一人前になるまでサポートするのでしょうから、意見したくなる気持ちも理解できます。
最終的には親子でよく話し合われて決められるとよいですね。

しかしその前に、Aさんも、そしてAさんのご両親も、動物看護師という職業の実際の現場を見たことはないかもしれません。

以下、日本の現場で内側から見た動物看護師という職業と、これからの日本の動物看護師がどう変わっていくかという予想を、アメリカの動物看護師の現状と比較しながら、自分なりの予想を紹介したいと思います。

親子で話し合う時の参考にしていただけたらと思います。

国家資格

ご存じのように近年、動物看護師の制度が改定され、農水省が管理する国家資格になりました。
正確には愛玩動物看護師という名称になりました。りっぱな国家資格です。

それ以前、制度が変わる以前からも、日本の動物看護師たちは動物病院を中心に多くの場で活躍しています。
動物病院以外にも、トリミングサロン、ペットショップ、それから製薬会社や研究施設などの企業に就職する人もいます。動物園や水族館で働く人もいます。

最近では、動物愛護団体が所有するシェルターや、シェルタークリニックにも需用があります。

国家試験を受験するには、大学を卒業するコースと指定の専門学校(3年以上)を修了するコースの2つがあります。

個人的には、どちらも優劣がつけがたいと感じており、どちらのコースを経てきた人も皆優秀です。
もしご両親との葛藤があるのならば、国家試験受験を目標に4年制の大学に通うのも1つの方法かもしれません。
もし在学中に気が変わり進路変更をするようになった場合でも、大学卒業という別の広義の「肩書」が得られます。

また動物看護師の資格を得た後も、気が変わり、動物と関係のない職業を選ぶ人もいます。

進路変更は、獣医大学の学生にも、誰にだってあります。
今の時代、数年仕事をした後にキャリアを変える人も少なくありません。

あまりガチガチに考えず、ある程度柔軟に対応するくらいの気持ちでいいのでは、と私は感じます。(ご両親に怒られるかな?)

これからの動物看護師キャリア

過去の日本の動物看護師市場を見てみると、給与、労働時間、社会保障のどれを見ても、一流企業のような市場は形成されていないのが、獣医業界の現状でした。

しかし、アメリカの獣医業界が過去30年の間に激変してきた影響を受け、日本も今後変化してゆくことが予想されます。

過去、日本の動物病院の多くは個人経営のソロドクターで、一次診療が中心でした。すなわち、獣医師1人に動物看護師1人といった規模。
一次診療とは、専門診療に対する言葉で、紹介なく誰でも行くことができる一般の病院です。
内科から外科から予防から緊急まで、あらゆる症例に対応なくてはならず、手に負えない特殊なケースのみ大学病院などに紹介しました。
動物病院に入って来る動物は、基本皆、自分のところで対処しなくてはならぬという社会的義務がありました。
そのため、日祭日を含め、夜も19時20時くらいまでの長い診療時間、週6日7日勤務が当たり前でした。閉院後も誰かがドアをたたけば、時間外でも診て応急処置をすることも珍しくありませんでした。

しかし今では、獣医療は専門化、細分化され、また企業病院やグループ経営病院が都市を中心に広がっています。
専門病院、夜間救急病院、高度医療センター、不妊去勢手術中心の予防医療病院など、病院が分業して、横の繋がりができてきました。

よって、一般の動物病院が何から何まで対応したり、時間外に応対する必要もなくなりつつあります。

獣医師も看護師も、それに対して勤務、職務が変化しています。

動物病院の勤務形態

ワークライフバランスの重要性も認識され、また企業病院を中心にサービス残業などの改善を内側から改革するようになってきています。

国家資格になり、動物看護師の給与もそれなりに上昇すると期待されています。
シフト制を組む動物病院も増え、自分の希望や体力に合わせた働き方ができます。
そうなると、今まで中期、長期キャリアとして長く動物看護師を続けることが難しかった人たちが、結婚や出産、あるいは親の介護など、人生のイベントと一緒に長く続けられるようになっています。

アメリカでは、動物看護師でロングキャリアを全うする人が普通にたくさんいます。

先日も、私の勤務するアメリカの動物病院で、同僚の動物看護師が40年のキャリアを終えてリタイヤするということで、院内でパーティーをしてねぎらいました。明日からは、自分の犬と猫を連れて、表の入り口からここに通うわ、と笑っていました。

動物看護師の分業化

動物看護師の職務も、どんどん変化し、専門化しています。

アメリカでは動物看護師の専門化が進んでおり、手術専門、鳥エキゾ専門から、薬物管理専門、画像専門など、ある分野のみの任務を行う看護師が増えつつあります。
専門看護師を選ぶ人たちは、いち分野が得意であると同時に、いち分野がとても苦手なので、という人もいます。

例えば、手術専門の看護師は、「飼い主さんとの会話がとにかく苦手なので」という人もいます。
看護師の専門化は、すべてのスキルが揃っていなくても、一部が得意な人でも続けられるというメリットがあります。
おそらく日本も近い将来、専門化していくのではと感じています。

動物看護師の職務の拡大

今は法律的に制限されていても、将来おそらく必要になり、職務が拡張されるのでは、という分野もあります。

例えば、動物の往診訪問。
獣医師ではなく、看護師が1人で往診し、動物の状態を診たり、皮下点滴や注射をしたり、というのが期待されます。

同様に、動物シッターの仕事も、法的には投薬や、インシュリン注射は制限されていますが、動物看護師にこれらの任務を認める可能性があるでしょう。
ますます高齢化社会が進む日本では、一人暮らしの方が急遽入院などで、一時的にシッターサービスが必要になる人がますます増えます。

高齢の動物で通院が難しくても、スキルのある動物看護師が往診することで、獣医師だけに頼らずにより効率的に自宅介護や在宅治療が可能になります。

動物福祉関係

動物愛護団体にも、動物看護師を雇用するところが増えています。
数匹から、中には数十匹、百匹以上の動物を保護している動物シェルターが全国に増えています。
多頭飼育崩壊の現場から、急遽保護して簡易シェルターを設けることも多々あります。

動物シェルターでは、毎日の管理から、衛生消毒、伝染病管理、病気の発見から治療まで、専門的知識のある動物看護師レベルの人が求められます。譲渡会会場の監視もそうですね。

同様に、殺処分ゼロ時代の日本では、各自治体のセンターは、動物を殺す場所ではなくなり、保護、管理、そして譲渡会の場所になってきました。今は獣医師が中心となっていますが、今後は動物看護師の活躍が期待される分野かと想像します。

ダイバーシティ

従来、動物看護師は、労働条件や給与の関係から、結婚するまでの若い女性が多い分野でした。
でも以上のように、獣医業界の変化と共に中、長期のキャリアに変化しています。

それに伴い、女性が中心だった動物看護師の中に、男性が少しずつ増えています。

これはアメリカにも見られる現象で、男性のキャリアとしても動物看護師はりっぱな職業です。

もう若くてきれいな女の子が、ヒラヒラしたエプロンを着て応対する職業ではなくなり、医療知識、動物の知識を勉強したプロとして、男性も女性も、若きも熟年も今後は増えることでしょう。

個人的に私は、男性も女性もどちらの動物看護師も好きです。どちらもそれぞれの魅力があり、一緒に仕事をしていて楽しく気持ちがいいです。男性も。女性も。

Aさんへ


動物看護師は、ちゃんとした職業です。

ご両親がもし「ちゃんとしていない職業」という印象を持たれているのならば、私の意見を少しでも参考にしていただけたらと思います。

ご両親とよく相談して、自分の好きな道を思いっきり進んでください。

そして「動物が好きな自分」のためにベストな職業を探すと同時に、

Aさんのように、「本当に動物が好きな人のお世話が必要な動物」も、日本にたくさんいる、ということを知ってください。

世の中にいるのは、幸せな動物ばかりではありません。

捨てられ、虐待され、傷つき、あるいは信じられないくらい多頭で汚い環境から生き延びた動物たちが、体に、心に傷を負いながら生きています。

あなたを必要としている動物たちもいる、ということも考えてみてくださいね。

ご健闘を祈ります。

Best Regards and Good Luck!