全米で流行している犬の伝染性呼吸器症候群(CIRDC)について

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なぞの新病原菌の呼吸器病?

複数の在米の犬の飼い主から質問を受けたので、この場で紹介したいと思う。

現在、アメリカでは「謎の」犬の呼吸器疾患が急速に広まっていると話題になっている。

通称ケネルコフ呼ばれている伝染性の呼吸器病である。
しかしもともと、ケネルコフは珍しい病気ではなく、日本でもアメリカでも日常的に診る伝染病だ。
通常のケネルコフ自体は死亡率も低く、多くは治療せずに回復するし、たまに重症化するケースもあるが、肺炎から死亡する例は少ない。

今年になって全米で、例年より多いケネルコフがみられるようになった。
私も、春頃から今年はずいぶん多いなあ、と感じていた。
ところが秋くらいから、通常の治療法に反応しないケース、あるいは急激に肺炎になって死亡するケースなど、「従来とは異なるタイプ」が出てきた。
中でもオレゴン州、ニューハンプシャー州で罹患する犬が多く、オレゴンでは200頭以上の「異常」ケースが報告されている。

現在は西海岸を中心に、全米14州で亜型が報告されている。

全米の獣医大学、獣医師会、専門委員会、検査機関、ペット保険会社、行政、およびアニマルシェルターなどの保護施設と、臨床獣医師が協力しあって情報の提供と研究を急ぎ、解明を急いでいる。

「新病原体」が関与しているのかは判明しておらず、病気はまだ不明瞭な部分が多い。

伝染性呼吸器症候群(CIRDC)とは

従来のCIRDC、通常ケネルコフ は、犬どうしで伝染する呼吸器疾患で、よくある疾患である。
軽症の場合は、軽い咳、鼻水、くしゃみ、結膜炎といった症状を呈する。
重症になると、気管支炎や肺炎、発熱、倦怠、食欲不振で、一部は悪化して死亡することがある。
幼齢犬、体力が消耗している個体(野良、老犬)、他に基礎疾患のある犬、免疫抑制のある個体(抗癌治療など)はリスクが高いとされている。
軽症の場合は無治療か、鎮咳薬を使用して静養すると回復する。
ネブライザーなどの補助治療が奨励されることも多々ある。
多くの場合数日から2週間程度で回復する。
肺炎など悪化する個体は入院による点滴や投薬になるが、適切な治療を行うと多くは改善治癒してきた。

ごくまれに、特に幼齢、老齢の犬、あるいは免疫力が落ちている場合、基礎疾患がある個体は治療の甲斐なく死亡することがあった。

病原体

従来のCIRDCは複数の病原体が原因となっており、通常は複数の病原体が感染源となっているとされている。
空気および飛沫によって伝播するので、犬どうしが接触したり、密着する場所で伝染しあう。
環境に残存したウイルス(アデノウイルスなど)の場合もまれにあるが、基本は飛沫感染である。

よって、犬が集まる場所で多発傾向がある。

動物保護施設(シェルター)、犬のホテル、トリミングサロン、犬の幼稚園、トレーニング施設などは、元来CIRDCがよく発生する場所である。
動物病院の入院中に移しあう場合もある。
また病原体は、もともと犬の呼吸器(鼻、口腔、咽頭、気管など)に少数常在していることもある。
病原体と接触したから必ず伝染する訳ではなく、犬の体調や施設の環境、衛星状態、ワクチンの有無など複数の要因が関与するとされている。

CIRDCに関与する病原体

通常の場合、以下のウイルス、細菌がCIRDCに関与する病原体とされている。

ウイルス
・犬パラインフルエンザウイルス CPiV
・犬アデノ2型ウイルス CAV2
・犬ジステンパーウイルス CDV
・犬ヘルペスウイルス CHV
・犬インフルエンザウイルス CIV
・犬呼吸器コロナ CRCoV
・犬ニューモウイルスCnPnV
・その他
細菌
・ボルデテラ Bordetella Bronchiseptica
・レンサ球菌 Streptococcus Zoocpidemicus
・マイコプラズマ Mycoplasma cynos
・その他

今問題になっている「亜型」について

今回のCIRDCは、従来のタイプと、それとは異なる亜型に分類される。

しかし、もともと一部の犬では、治療をしても悪化して死亡することもあるゆえ、その判別が難しい。
治療をしても悪化して死亡した犬がすべて、亜型とは限らない。

亜型CIRDCとは

現在、CIRDCと診断された犬のうち、次の場合を「亜型」定義することとされている。
1.軽度から中程度の咳が6-8週間以上続き、抗生剤を使用してもほとんど効果がない犬。
2.慢性の肺炎を発症し、抗生剤を投与してもほとんど治療効果がみられない犬。
3.24時間から36時間という短時間に、急速悪化して肺炎になり重症化する犬。

元来と亜型のCIRDCの明確な区別、判定が難しいため、現在のところ致死率の発表はされていない。オレゴンだけでも200例以上の報告が出ているが、この中には従来型のものも含まれているのではという見方もある。

治療について

Horizontal image of a sneezing dog photographed on a blue background. He is a mature male German Wirehaired Pointer. He has his bright orange hunting collar on. The expression is very funny with his eyes almost closed and his mouth open and sneezing.

今まで一般的に使用してきた抗生剤や鎮咳薬、ネブライザーなどの治療反応が低いために、試験的に異なる複数の薬物の使用が試みられている。
今までにない新しい細菌やウイルスの関与も示唆されているが、現在のところ明確に判明していない。

よって治療法も、決定的なものはない。
入院により、静脈点滴、薬剤、酸素吸入、ネブライザー、栄養補給といった対症療法が中心である。

ヒトの新型コロナウイルスの関連性について

ヒトのCOVID-19, 新型コロナウイルスが関与しているとい説は否定されている。
ヒトの新型コロナウイルスは確かに、犬にも伝染し、犬に呼吸器症状を呈することはわかっているが、今回亜型の流行もヒトのコロナウイルスは関係はないとされている。

亜型 CIRDCの、ヒトへの伝染について

従来、ボルデテラに関しては、ヒトにも伝染することが報告されている。
もっともこれは非常にまれなケースで、免疫力が低下した一部の人にのみ懸念される。
亜型のCIRDCに関しては、現在のとろ特に人への伝染の報告、懸念は発表されていない。
ただ自分の犬が咳や肺炎になった場合は、直接キスすることは避け、接触前後に手荒いなど衛星に気を付けて慎重に接触するべきである。

CIRDC予防について

新病原体の関与があるのか、ないのかも判明していない中、専門家は、現在ある犬の呼吸器系の予防ワクチンの接種をすることが、少なくともある程度効果的だろうという見解を示している。
ボルデテラ
・パラインフルエンザ
・ジステンパー
・アデノウイルス2型
・インフルエンザ H3N2 and H3N8

これらはワクチンがあるので、すべての犬はこれらのワクチン接種をすることを強く奨励している。
現在全米で、インフルエンザワクチンの在庫が不足気味なので、ぜひ早めに最寄りの動物病院にて予約することをお勧めする。
また、もともと「あまり外に行かないし、ホテルにも行かないから」といってワクチン接種をしてこなかった犬ほど、抗体が下がっているので、積極的に接種するよう専門家は勧めている。

犬のライフスタイルに注意を

とにかく他の犬との接触を極力さけるのがベスト。
逆に草、地面、壁、床といった環境に病原菌が長く残存する可能性は低いので、外の散歩などは極度に怖がる必要はないとされている。

犬の飼い主ができること

まず、インフルエンザを含めたCRIDCのワクチンを接種すること。

外の散歩では、他の犬との接触を極力さけ、近づかない、近づけない。

犬のホテル、宿泊施設の使用は避ける。

個人のドッグシッターや散歩シッターの場合は、他の犬と一緒に過ごさないよう、接触させないようにし、ププライベートで扱うようにしてもらう。
トリミングなどは、訪問の間隔をあける。
プライベートのトリマーにお願いする。

咳、鼻水といった症状が出た場合は、すぐに獣医師の診察を受ける。

トリマー、犬ホテル、犬のトレーニング場、犬の保護施設(シェルター)の人ができること

ワクチン接種の強化。

トリミングサロンなど、ワクチン接種を義務化し、どうしてもワクチン接種できないお客様には、他の犬のいない時間帯を設けて時間制にする。

換気、通気性をよくする。

空気洗浄装置を設置する。(HEPAフィルター)

到着時にすべての犬の検温をする。
発熱がある場合はただちに帰す。(獣医師の診察を勧める)。

犬の滞在時間をできるだけ短くし、施設内の人口密度を減らす。
(トリミングが終わったらすぐに迎えにきてもらう)

保護施設シェルターの場合、新規の入所はいったん中止し、施設内の消毒をいつもに増して徹底する。

動物病院ができること

呼吸器疾患のケースは、待合室で待機させない。
車内あるいは個室で待機。
従来のCIRDCと亜型の区別をできるだけ早く行うためにも、積極的な検査をする。
呼吸器伝染疾患のPCRパネルの施行、および胸部レントゲン撮影を積極的に。

また亜型の疑いの場合は、すみやかに所属の自治体に報告する。
獣医師会、専門委員会の最新情報を見逃さないようにする。

まとめ

本日、2023年12月7日現在の情報をまとめた。
これらの情報は急速に変化しているので、最新情報は各自確認してほしい。
1日も早く、原因究明されることを切に願う。
また日本にも今後上陸する可能性もあるので、関係者は注意してほしい。

参考サイト (一部)

リンクはご自由にお貼りください。
内容の言及および使用に関しては、ご連絡いただけると幸いです。
ご質問、懸念のある方はコメント欄よりお願いします。
これはあくまでも一般論です。
ご自分の犬の状態に関しては、最寄りの獣医師の診察を受けてご相談ください。
西山ゆう子