マイクロチップの正しい入れ方

2022年7月26日アメリカ,動物愛護,日本,獣医療・ペット

マイクロチップの装着は医療行為

今日は犬、猫へマイクロチップを装着する方法と注意点について話します。

まず最初に明確にしておきたいのは、マイクロチップを犬、猫、あるいは他の動物の体内に入れるというのは、医療行為です。
小さなICチップを体内に埋め込む、一種のインプラントです。
見た目は、皮下注射に似ています。
しかしこれは、日本では獣医師にのみ認められた医療行為ですので、獣医師以外の方は絶対に行わないでください。
では動物看護師は?
アメリカでは合法的に、動物看護師も行えます。
日本では、マイクロチップ装着は、動物看護師にはまだ許可されていないと聞きました。間違っていたらご指摘ください。

マイクロチップの入れ方をこのブログで説明する理由

マイクロチップの装着は、皮下注射によく似ています。
それゆえ、皮下注射のような感覚で行ってしまう獣医師を、時々みます。
正しく装着しないと、後日チップが抜け落ちてしまうこともあります。
それゆえ、これは獣医師の方を対象に書いたものです。
非獣医師の方も、装着の詳細を知ることで、勉強になると思いますし、実際に自身の動物に入れてもらう時の事前知識としてよいと思います。

入れる時の重要点1 正しい挿入場所を知る

動物の肩から首にかけての皮下組織の部分で、左右の真ん中、深すぎず、浅すぎず、という場所に埋め込みます。
日本獣医師会は、このあたりの若干左側の部分に、と言っていますね。
チップが浅すぎる(皮膚に近い)と、組織に癒着しにくく、体内を動いて迷入し、他の場所に行きやすくなります。
またチップが浅すぎると、皮膚には神経があるので、おそらくごろごろした違和感が発生するかと思います。
皮下ぎりぎりに入った犬猫は、よくその部分を掻きます。掻いてもチップは簡単に壊れませんが、ずっと違和感があるのは気の毒です。
また深く筋肉の中に入れると、脊椎のすぐ近くなので神経に触る危険が出てきます。
それゆえ、入れる前に、皮膚、皮下、脊椎、肩甲骨を触って解剖を確認してから、入れる場所を決定します。
これはとても大切なことで、また獣医学や解剖学の基礎を学んだ人でなくてはできません。

入れる時の重要点2 装着前に注射器と動物をスキャンする

マイクロチップが入っていない、と思い込んでいるだけで、実際には入っていたという個体がいます。
すでに入っているのに、また入れてしまうというのを避けなくてはなりません。
2つ入ると、登録も面倒ですし、間違った固体と認識されるかもしれません。
またマイクロチップの電波は、電磁誘導が関係しているので、2つのチップが入ると相互作用して、チップの寿命が短くなると聞きました。
私は過去に、間違ってマイクロチップが2つ入った個体を何十頭も見ていますし、3個入った犬は3匹、4つ入ってしまった犬を1匹見ました。
それゆえ、チップを入れる前に獣医師は必ず、動物をスキャナー(チップ読み取り機)でスキャンして、入っていないことを確認してください。
また、これから入れるマイクロチップが、万が一不良品だったり、あるいはチップ番号が記載と異なっていないか確認するため、体内に入れる前の注射器(正式にはインジェクターと呼ぶようですが、ここでは注射器と呼びます)の中のマイクロチップも確認し、ちゃんと読みとめるか、番号に間違いがないかを確かめます。
入れる前に、注射器の中のチップと、動物をスキャンする。
簡単な確認作業ですが、重要なこと。忘れないでください。

入れる時の重要点3.奥まで入れてゆっくり抜く


マイクロチップを装着する時の注射器の針は、皮下点滴をする時のような太い針です。
それゆえ、チップが抜けたり戻ったりしないように、注意しながら装着します。
まず、針を刺す皮膚の場所を、アルコールなどで消毒します。
そこは、最終的にマイクロチップが入る場所より、2-3センチ後方になります。
針を刺したら、注射器の針を全部挿入します。
針の先だけで入れると、奥の正しい位置に到達しませんし、チップが抜けやすくなります。
内筒を押して、カチッという音がするまで、全部内筒を押し込みます。
それから針を刺した皮膚の部分を反対の手でつまみ、ゆっくりと針を抜きます
この時、皮下注射のように早く抜くと、チップがもどってしまうことがあります。
また、針を刺してから、注射器は持ち換えずにすぐに内筒を押すのがベストです
刺す、内筒を押すという部分には、なるべく時間をかけるべきではありません。
しかし、抜く時はある程度、時間をかけないと、チップも一緒に抜けてしまいます。
ゆっくりと針を抜いたら、その部分を10秒ほど、かるくモミモミして、皮膚の穴を塞ぐようにします。
皮膚出血が起こる場合もありますが、指で軽くおさえているとすぐに止まります。
マイクロチップを入れた日は、念のため激しい運動とシャンプーを避けるように指導します。

入れる時の重要点4 動物をきつく押さえすぎない。

動物が動かないように押さえることを、保定と言います。
動物看護師など、チップを装着する獣医師以外の人が、立ち会って行います。
飼い主様に保定をお願いする場合もあります。
保定の仕方に関しては、奥が深く、経験も知識も動物行動学も心理学も必要な分野です。
しかし、保定は最低限に、特に強く押さえすぎないのが、大切だと認識されるようになりました。
Fear Free テクニックといって、アメリカでは非常に一般的です。
注射でもマイクロチップでも採血でも、作業を行う前に、押さえた時から嫌がって動いたり、声を上げている動物を強引に押さえるのは、もう時代遅れで受け入れられない方法になってきています。
特に子犬、子猫は保定されるのがより苦手です。
押さえるのではなく、あっという間に終わらせること。
針をさす瞬間や、動いてほしくない時は、他に気を紛らわす方法を使う。
私は犬の場合は通常トリートを使うか、瞬時のDestruction 法を使っています。(詳細はまた別の機会に書きます)
猫の場合、特に子猫は、通常は保定しないで1人でマイクロチップを入れています。
子猫の採血も自分1人で、通常保定しないで行っています。そのほうが簡単ですし、猫のストレスが非常に軽減します。
これは私の考案ではなく、テキサスの猫専門医、Dr. Gary Norsworthy が以前から紹介している方法で、私は20年くらい前に彼の講演で知ってから愛用しています。これもまた別の機会に。笑

子犬、子猫は最低何歳から、安全にマイクロチップを入れられる?

はっきりとした安全データは公表されていません。
日本獣医師会によると、犬は生後2週齢、猫は生後4週齢となっていますが、これはおそらく、中型―大型犬のデータではないでしょうか。
個人的に小型犬の生後2週齢はサイズ的に難しいかと感じています。
おそらく500グラムほどのサイズがあれば、解剖的には問題なく装着できると感じています。
幼弱動物で気を付けるのは、サイズではなく、装着する時の保定です。
子犬、子猫は保定が嫌いで、じっとしている時間が限られます。
そして、痛み(針の挿入時)の瞬間反応や動きも、成体と異なります。
それゆえ、保定を最低限に、非常に迅速に正しく装着、かつ安全に、というテクニックが求められます。
小さいだけに、間違って皮下や浅い部分、深すぎる部分に入ってしまわないよう、よりきちんとした解剖学知識が要求されます。
いったん入れてしまえば痛みも違和感もないマイクロチップですが、強く強制的に押さえすぎたり、痛がっているのにずっと押さえ続けるといった行為は、おそらくネガテイブな経験、記憶となるので、避けなくてはなりません。

マイクロチップは不妊去勢手術時に

アメリカには、ほとんどのケースで、不妊去勢手術時にマイクロチップを装着しています。
獣医師も、手術時にチップが入っていなかったら、一緒に装着しましょうと勧めます。
不妊去勢手術のセット価格に含めている病院も多いです。
また、子犬子猫の時に、マイクロチップを入れたいと飼い主が希望をしてきたら、不妊去勢手術の時まで待ちましょう、と促します。
麻酔下以外でも装着できても、手術をするということが予定にあるのならば、その時のほうが、よりトラウマも少ないし、入れる獣医師側もやりやすいですね。
また行政のシェルターや愛護団体からの譲渡の場合、たとえ子犬子猫でも、不妊去勢手術をしてから譲渡するのが一般的なので、その時に一緒に入れています。
もちろん例外もあり、去勢はしたくないという人、去勢は1歳まで待ちたいけど、もう逃亡癖があるから入れたい、という人には、麻酔を待たずに入れます。
今回の日本の、生産者やブリーダーに対する若齢のマイクロチップ装着の義務化。
麻酔なしの状態で、子犬子猫にマイクロチップを入れるのを法的に義務化したのならば、正しい装着と当時に、正しい保定のテクニックを用い、トラウマにならないように最大限に努めることの重要性も一緒に啓蒙してほしいです。

マイクロチップ挿入の動画
以下、実際に子猫の挿入する動画をとりました。

まとめ

マイクロチップは皮下注射に似ていますが、ICチップを体内に入れるという医療行為。
正しい場所に、正しい方法で、迅速に、最低限の保定で安全に入れる技術が必要。
特に子犬子猫の保定テクニックを考慮してください。
本日はマイクロチップという機器(ハードウエア)の話でした。
マイクロチップはさらに、データを登録管理するという業務(ソフト)が必要です。
これについてはまた次回に。
西山ゆう子 

2022年7月26日アメリカ,動物愛護,日本,獣医療・ペット

Posted by Dr. Yuko Nishiyama