ニューオリンズの空から想う

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サンクスギビング

アメリカ感謝祭の週末。私はメキシコのカリブ海へ小旅行。

ロサンゼルスから飛行機で4時間以上一生懸命飛んでも、まだ北米大陸の真ん中へん。
やっぱりアメリカって、ドでかい!と改めて感じる。
帰路、ルイ・アームストロング空港でバタバタと乗り換え。
ルイジアナ州、ニューオリンズの町を飛行機の小さな窓から見下ろす。
静かに堂々流れるミシシッピ河が、カリブ海に合流するところで、太陽の光に反射して実に美しい。
ここは中南部の南国の町。
ジャズが発祥した町。
ケイジャン料理の町。
シーフードやチキンと野菜とスパイスを使ったケイジャン料理は、なぜか日本人の口に合うと私は思っている。
ジャンバラヤ

ガンボ

私もアメリカに住んでから、ガンボ、コーンブレッド、ジャンバラヤといったケイジャン料理が好きになり、自分でも結構作るようになった。
今でも時々我が家の食卓にこれらがあがり、家族にも喜ばれるレシピだ。
フランスやメキシコの文化の影響を受けたニューオリンズは、市民が住む家も独特で「かわいい」ということで有名だ。
小さな2階建てにカラフルなドアと壁。玄関前には椅子を置いて休むパテイオがある。
そして三角にとがった屋根が特徴的だ。

ハリケーンカトリーナ

2005年8月。
史上に残る大型ハリケーンがニューオリンズの町を直撃した。

低地である町を取り囲む堤防は過去にハリケーンで破壊されたことはなく、堤防が崩壊することは、「想定外」であった。
最大級5の暴風雨と荒波で堤防は破壊し、ニューオリンズの町の80%が浸水した。
ハリケーンカトリーナによる総死者は1800人以上、行方不明者は700人以上とされている。

もちろん、堤防が破壊する前から、緊急事態宣言と避難命令は発令されていた。
だが自家用車を所有しない住民も多く、ペットとして犬猫を連れて避難するのが難しかったという人もいた。
これは車の所有率が低い日本の都市部などにも共通することだ。
浸水が始まると、自分の足で逃げることができなくなり、人々は自宅の屋根の上に上って救助を求めた。
ペットがいる人はなおさら、浸水が始まるといよいよ逃げられなくなっていった。
避難警告の遅れ、当局による避難サポートの不十分、被災者のその後の対応と治安悪化に対する整備不順など、多くの問題があったと指摘された災害であった。

スノーボールという名の犬

その犬は、真っ白のテリア系の小型犬だったという。(写真の犬はスノーボールではありません)

9歳の男の子が愛犬スノーボールを抱きしめながら、強風が吹く中、家族と一緒に避難者用のバスに乗るところだった。
全米放送のテレビ局がその様子を実況中継していた。
バスに急いで乗り込む時、一人の警察が現れて、男の子からスノーボールをひょいと取り上げた。
「犬はバスに乗れないんだよ」

家族に追い立てられてバスに乗った男の子は、気が狂ったように大きな声で鳴きながら、バスが発車してもずっとずっと、大声でスノーボール、スノーボールと泣き叫び続けた。
その様子が全米のテレビに流れた。
そしてその男の子の様子に、多くの視聴者が胸を痛めた。
ペットである犬や猫と一緒にどうして避難できないの、どうして犬はバスにのれなかったのか?という疑問が人々の間で広まることになった。

同行避難

今でこそ同行避難、同伴避難が当たり前のように言われるようになったが、当時はまだ普及していなかった。
その後カトリーナにより被災し、家が浸水して逃げられなくなり、その後救助された人の証言、あるいは救助隊からの証言が、後日集められて整理された。
それによると、ニューオリンズの住民の中には、せっかくボート救助隊が来ても、「犬をボートに乗せられないのならば、乗らない」といって屋根から降りるのを拒否し、その後死亡した人も少なからずいたという。
犬を探しているから、猫を探しているからといって、救助拒否をした人たちもいた。
救助ボートにペットと一緒に乗るのを断られたため、仕方なく犬や猫を自分の肩に背負って水の中を歩き、泳ぎ、結局溺れて死亡してしまった人たちもいたという。
そうやって、ペットと一緒の避難を拒否されたために、命を失った人もいたことも人々の疑問、怒りへと発展した。

ペットと一緒に避難する、というのは、ペットの命を救うこと。

でもペットと一緒に避難ができないことで、ペットの命だけではく、救えた人の命も救えないことがあるのだ。
ペットと一緒に避難することは、人の命も救うことなのだ。
その事実を、この時まであまり認識されていなかった。

なぜ動物は一緒に救助できなかったのか

動物と一緒に避難すると、そのぶん、スペースが減るからだ。

元来10人乗りのボートには10人救済できるが、犬が1頭乗ったら9人の人命と1頭の犬の救命になる。
10人乗りのバスに猫キャリアを1個つんだら、9人しか人は乗れなくなる。
それまでは、災害避難時という緊急時に、特に救助するバスなりヘリコプターなり、交通媒体が限られている時は、人命が優先され動物がその次というスタンスであった。

スノーボール法の可決

しかし、やはりこれはおかしいと考え、災害時に動物と避難できるようにならないのかという思う人が増えた。

スノーボールと生き別れになった男の子。そして犬のためにボート乗船を断って犬と一緒に命を落とした人が、世間を動かした。
避難時にペットと一緒に避難できるように法律を改正しよう、という運動が全米に広がった。
異例の速さで、翌年、Pets Evacuation and Transportation Standards Act ペット避難及び輸送基準法が成立、議会で可決された。

この法律は、緊急避難時に、ペットと一緒に避難したいと希望する人に対して、救助隊が「ペットは置いていかなくてはならない」と、同伴避難を拒否することを禁止するもの。

決して、ペットと一緒に避難しなくてはならない、という法律ではないので、誤解しないでほしい。
たとえペットがいても、ペットをおいて自分だけ逃げたいと希望する場合は、ペットも一緒に連れてきなさいと法で強制してはいない。
またこれは輸送に限っての法律であり、避難所施設側が、ペット同伴で避難する人を拒否できる、できないという法律でもない。
避難所の受け入れに関しては、それぞれの自治体の条例によって異なるということだ。

悲劇を乗り越えて

飛行機の中から見るニューオリンズの町は緑豊かであり、沼なのか、川なのか、湿地の多い様子がよく見える。

この町がかつて被災し、水の中に多くの命が失われ、多くの動物の命を失われたことなど、まるでなかったような平和な風景だ。

あれから18年の歳月が経ち、スノーボールの少年の悲劇がこうやって、同伴避難という新しいスタンダードになって引き継がれた。

あの少年はあれから成人し、今でもスノーボールのことを思い出すことがあるのだろうか。

サンクスギビングの今日、改めて想う。
こうやって少しずつ、世の中の動物が守られ、暮らしやすくなっていることに感謝したい。
その陰に多くの命や犠牲者があったことを、忘れるまい。
災害の時に備えて、どうやったら小さな命と自分と家族を守りながら避難できるか、あらかじめ考えて準備できることに感謝したい。

家族と一緒にいられる、今の生活に感謝したい。
あたたかい食べ物があり、暖をとるために着る服があり、ゆっくり眠れる家があることに感謝したい。
仕事をして、お給料をもらえることに感謝したい。
友と楽しい時間を過ごせることに感謝したい。
健康に歩けることに感謝したい。

多くの人が、汗を流して田畑を耕し食物を育て、危険と向かい合って、漁、牧畜をし、
誰かが寝ないで輸送をし、誰かが安全を管理してくれることを忘れずにいたい。

世界中の人と動物が、苦しまずにいられますように。
世の中から戦争がなくなりますように。
Happy Thanksgiving!

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Posted by Dr. Yuko Nishiyama