猫の白血病・エイズのウイルステト どこまで信用できる?

2022年2月9日動物愛護,獣医療・ペット

白血病エイズ検査は必要ですか

猫の白血病とエイズの検査について、猫の保護活動をしている方から質問がありました。
「白血病、エイズのテストは、いつ、どんなタイミングで行うべきでしょうか。
小さい子猫の場合は、結果が信頼できないと感じています。
陽性が後で陰転したり、また陰性だったのに陽性になった猫がいました。
検査が陰性だったのに、里親さんが後日検査したら陽性で、トラブルになったこともあります。
また私の行きつけの獣医師は、子猫の採血は危険だと言っていました。
この検査は高くて無駄なものだと思うのですが。。」

猫白血病・エイズウイルスの検査の解釈

Aさんへ。
結論から先に言うと、猫白血病、エイズウイルスの検査は、無駄ではない信用できるテストです。
ただ、検査結果は精度が影響します。
そして猫の感染ステージを理解してから、結果を解釈しなくてはなりません。
白血病エイズテストは、スクリーニングテストの一種で、確定診断のためのものではありません。
猫の白血病やエイズがどんな病気で、ウイルスは体内でどういう経過をたどるのか、そしてテスト結果をどう解釈するのか。
今日はこれらについてお話します。

猫白血病ウイルスの感染の過程

猫白血病ウイルス感染症は伝染病の一種で、白血病ウイルスが感染することによって発病します。
感染猫の唾液、目や鼻からの分泌物、糞、尿などと接触することで感染します。
ウイルスと接触した後、リンパ節などの局部で免疫抗体反応が起こり、一時的なウイルス血症になります。
その後、もし猫の免疫力がウイルスに勝つと、感染は成立せずウイルスは消滅します。

もし猫の免疫力がウイルスに勝てない場合は、ウイルスはその後、骨髄などの体内に定着し、ずっと共存することになります。これを感染の成立と呼んでいます。
その後、通常数か月から数年間は症状がなく、見た目も健康な猫と変わらない状態が続きます。
この状態の猫を、私たちは、「ウイルスキャリア」と呼んでいます。ウイルスを持っている、という意味ですね。

見た目は健康でも白血病ウイルスを所有し、唾液や分泌液、糞尿を通して、この猫から他の猫にウイルス感染が広がります。
そしてやがて、多くの場合発病します。白血病、骨髄抑制による再生不良性貧血などの症状が現れ、命を落とすことになります。
ウイルスキャリアで発病していない猫は、獣医師でも誰でも、テストをしない限り、キャリアかどうかはわかりません。

猫免疫不全ウイルス(エイズ)の感染の過程

猫エイズも、猫白血病と同様の過程で感染します。
エイズウイルスは、主に血液を介して伝染します。
主に猫どうしが噛み合ったり、爪で傷つけあうことよって移ります。
ウイルスは血液の他に、唾液や体液、糞尿にも少量含まれているため、ケンカ以外の方法でも、例えばフードのお皿やトイレの共有でも感染することもあると言われています。

猫が新しくエイズウイルスと接触すると、まずは局所的に免疫抗体反応が起こります。この時発熱などの軽い症状が起こる場合もありますし、ほぼ無症状のこともあります。
ウイルスと接触した後、猫の免疫で勝てなかった場合は感染が成立し、ウイルスと共存する状態になります。
こうなるのに、約2か月かかります。

猫によっては、慢性の歯肉炎や結膜炎が続く、という症状がある場合もあります。
その後、数か月から数年、猫によっては10年以上、多くは長い期間ウイルスキャリア状態が続き、その後エイズ症状を発症することになります。
猫エイズが発症すると、免疫不全から起こる貧血、骨髄性疾患、腫瘍性疾患、あるいは他の二次感染症の併発など、様々なエイズ病状が起こり死亡します。
ただし、猫によってはエイズを発症しないで天寿を全うすることもあります。
白血病と同様に、感染から発病するまでのキャリアの時期は、一般の健康な猫と区別ができません。

なぜ白血病とエイズのウイルス検査が必要なのか

上記のように、外からは、ウイルスを持っているキャリアか、ウイルスを持っていない猫なのか、検査をしない限りわからないからです。
もしキャリアであったら、他の猫にウイルスを感染させることがあります。
同居猫がいる場合には、伝染させる危険があります。
これらのウイルスキャリアの猫は、効果的な発症予防方法はありません。
ただ、将来の発病に備えることができます。
キャリア猫の場合は、免疫力を落とさないよう最大の注意をし、貧血や内臓機能の健康チェックするために、定期的な血液・尿検査が勧められます。

血液検査―スクリーニングテスト

動物病院では、通常院内で行えるテストキットを常備しています。
これは採血した後にその場ですぐに行う検査キットで、10-15分程度の時間で結果が出ます。
通常、0.3ミリリットル程度、約3滴ほどの血液で行います。
これは子猫でも十分に安全な採血量です。

注意しなくてはいけないのは、これは、スクリーニングテストと呼ばれるタイプのテストだということ
感染しているか、していないかというのを「見分ける」というタイプのテストです。
このタイプのテストは、結果が「陽性」「陰性」として出ます。

院内で行うスクリーニングテストの他に、検査機関に血液サンプルを送り、詳しく調べてもらう他のタイプの検査があります。
これはスクリーニングテストに対して、エンドポイントテストと呼び、ウイルスや抗体の量を測って数値で結果を出すタイプもあります。これらは確定診断時に使います。
さらなる精密検査には、IFA、ウエスターンブロットという種類、あるいはPCR検査など多数あります。
またPCR検査も、今ではリアルタイム、デジタルPCRなど複数の異なる種類が開発されています。

通常動物病院で行っている、皆さんがよくご存じの白血病エイズテストは、数あるテストの中の、まず第一段階で行うスクリーニングテストであることを理解してください。
スクリーニングテストでは、猫白血病は抗原を、猫エイズは抗体を測定します。
そして、いくつかの会社がテストキットを販売しています。

テストは会社によって精度が違う

動物病院内で行う白血病エイズのスクリーニングテストですが、会社によって、検査の「精度」が異なることが分かっています。
これは、外部の機関が公平に調べ、結果が公表されています。
実際は、実はウイルス感染しているのに、抗原や抗体が検出されず陰性となることがあります。
これを「感度」と言います。
白血病やエイズウイルスではなく、他のウイルスに間違って反応して陽性と間違ってしまっても困ります。
これを、「特異度」と言います。

この感度、特異度を調べた結果、会社により結構大きな差があることがわかっています。

専門医学会では、アイデックス社の、「スナップFELV FIVコンボテスト」が一番感度、特異度が高いので、猫白血病・猫エイズのスクリーニングテストは、このアイデックス社のものを使用することを奨励しています。
キットの値段も会社によって差があります。次回動物病院で、検査キットの種類を確認しましょう。
そして、より正確なテスト結果を得るために、できればアイデックス社を使うことをお勧めします。

陽性からの陰転はなぜ起こる

ウイルスに感染したキャリア猫が、将来ウイルスが無くなり、無キャリアになることはありません

ではなぜ後日、陽転、陰転ということが起こるのでしょう。
これにはいくつかの理由があります。

まず初回のテストが、感染の初期で行われる場合が一つ。その後、感染が成立しなかったのかもしれません。
それから猫エイズの場合は、抗体を調べるテストなので、親からもらった移行抗体のための陽性であることが考えられます。
また、テストの感度特異度が、キットによってばらつきがあります。本当は陽性だったのに、感度が悪くて検出できなかったのかもしれません。
またまれにですが、検査を行う人のテクニックのエラーも起こります。
採血量が規定量より少ない、あるいは常温にもどしてから使用するキットを、冷蔵庫から出した直後に使ったなど、人為的なエラーが関与することもあります。

猫白血病ウイルス感染―感染1か月後に行う

猫白血病ウイルスは、ウイルス抗原、すなわち微量のウイルスそのもの存在を検査します。
よって、猫が白血病ウイルスと接触した直後は、一時的に局所でウイルスが増殖します。
この時にテストをすると、陽性になります。
しかしその後、もし猫の免疫力が勝ち感染が成立しない場合は、猫はキャリアになりません。
この場合、1か月後に再び検査すると、陰性になります。
これに約1か月の時間がかかると言われています。
それゆえ、陽性の結果が出た場合は、1か月後以降に、再検査をすることをお勧めしています。

猫エイズ感染―2か月後に行う

一方、猫エイズのテストは、抗体の有無を調べています
ウイルスを検査しているのではありません。体内に抗体があるかないかを調べています。
それゆえ、ウイルスに感染してから体が抗体を作るまで、それなりに時間がかかります。
通常、ウイルスと接触後、2か月くらいしないと判明しにくいとされています。

また生後6カ月以内の子猫の場合は、親からの移行抗体である可能性があります
実際にはエイズウイルスに感染していなくても、胎児の時、あるいは初乳によって、母猫が持っている抗体を引き継いている場合です。
この場合、移行抗体があるので検査では陽性となりますが、実際にエイズウイルスには感染していません。
ただ、子猫でも本当にエイズウイルスに感染してキャリアであることもあります。
スクリーニングのテストでは、どちらも陽性で区別することはできません。
この場合、PCRテストなど、さらなる精密検査をすることで、ウイルスキャリアかどうか判明します。

新しい猫のウイルス検査―いつ行うのがベストか

では、いったいどのタイミングで検査するべきなのでしょうか。
白血病・エイズウイルス検査は、皆さんいつ行っていますか?
猫を保護することになった時、入所時に行う人が多いかもしれません。
保護猫の場合は他の猫への伝染、それから里親募集にも影響します。
もしその猫が、昨日まで外を放浪していたのならば、今日テストを行っても、結果が1-2か月後に変わる可能性があります。白血病は1カ月、エイズは2か月経つまでは、最終的にキャリアかどうかわかりません。
また子猫の場合も、移行抗体が消える6カ月齢前後まで体内に存在します。

それゆえ、保護した猫の経歴によって、検査するタイミングを変えるのが一つの方法です。
例えば完全室内猫で1匹だけで飼われていて、ずっと外に出ておらず、他の猫と接触していない場合は、すぐにテストをしても問題ないでしょう。

『入所時に検査結果がわからないと、シェルター内の他の猫にうつしてしまう』という懸念を聞きますが、猫白血病、猫エイズウイルスは、空気感染しません。
グルーミングし合ったり、ケンカしたり、あるいはボウルを共有しない限り伝染しないので、施設内で他の猫との接触せず飼育すれば問題ありません。
そもそも、猫の伝染病は白血病・エイズウイルスの他にもたくさんあるので、新入所の猫は、すべて一定期間隔離をするべきです。これはシェルター管理の基本です。

その個体の過去の経歴により、すぐにウイルス検査をせずに1-2過越待ってから行うのが1つの方法です。
また、入所時にまず行い、2か月後に念のためにもう一度行っているシェルターもあります。
スクリーニングでの結果が不明瞭の場合は、外注の精密検査を行うことにより、詳しく判明できます。
子猫のエイズが、母親からの移行抗体なのか感染なのか、あるいは白血病が一時的なウイルスとの接触なのか、永久的に感染が成立しているのかといったことは、さらなるPCR検査等で判明できます。

子猫からの採血

白血病エイズの、スクリーニング検査に必要なのは、0.3ml、3滴の血液です。
これは出生直後の子猫からでも、安全に採血できる量です。
子猫からも、安全に採血することができます。
今は新生児の医療も発達し、生まれてすぐの100gにも満たない子猫からも、場合によっては採血検査し、留置針を入れて静脈点滴をする時代です。
もっともそんな新生児に、あわててウイルス検査をする必要は通常ないでしょう。
ただ必要ならば、どんな年齢の子猫でも老猫でも、採血は安全に行えますので安心してください。
子猫や新生児は特に繊細なので、成猫とは異なる採血テクニックが必要です。主治医の獣医師は心得ていると思いますので、不安でしたら詳細を相談してください。

ワクチンはテストに影響する?

猫エイズの場合、抗体の有無を検査しているので、結果に影響します。
エイズワクチンは一般的ではありませんが、接種後数年間はテスト結果が偽陽性になります。
白血病の場合は、抗原を調べていますので、ワクチン接種の経歴はテスト結果に影響しません。

テスト判定まとめ

以上、スクリーニングの白血病エイズの検査をまとめると、以下になります。

白血病ウイルス抗原が陰性(―)の猫の解釈
・白血病ウイルスに感染していない。
・本当は感染しているけど、テストキットの感度が悪く、陰性になった。
・1か月以内にウイルスと接触したけれど、まだ十分なウイルス量がなく、これから陽性になる猫。
・人為的ミスー血液量が不十分、など。

白血病ウイルス抗原が陽性(+) の猫の解釈
・白血病ウイルスキャリア猫
・1カ月以内にウイルスと接触し、一時的な局所感染があり、これからキャリアになる猫。
・1か月以内にウイルスと接触し、一時的な局所感染があるけれど、免疫が勝って今後キャリアにはならない猫。
・人為的ミス 検査方法間違えた、検査判定時間を守らなかったなど。

猫エイズウイルス抗体が陰性(―)の猫の解釈
・猫エイズウイルスに感染していない猫。
・2か月以内にエイズウイルスと接触し、現在ウイルスを持っていて今後キャリアになるけれど、まだ抗体ができていない猫。
・人為的ミス。血液量不足など
・テストキットの感度が悪いために、本当は陽性なのに陰性となった。

エイズウイルス抗体が陽性(+)の猫の解釈
・エイズウイルスのキャリア猫
・生後6カ月未満で、親からの移行抗体を所有し、エイズウイルスに感染していない子猫。
・生後6カ月未満で、親かあの移行抗体を所有し、さらにエイズウイルスにも感染している子猫。
・人為的ミスー検査方法間違えた、検査判定時間を守らなかったなど。
・過去に猫エイズワクチンの接種を受けたことがある猫

正しいタイミングをカスタマイズする

猫白血病、エイズテストを最も有効に使うためには、その猫の年齢や過去の経歴によって、検査をするタイミングをカスタマイズする必要があります。
子猫の場合は、エイズが陽性の場合のみ、PCRテストを追加で行うこともできます。
過去2か月の間に、他の猫と接触したりケンカした可能性のある猫は、すぐに検査を行わずに2か月待つのも1つの方法でしょう。
入所時に1回、その後譲渡が決まる時にもう一回リピートすることも可能です。
あるいは、上記の理由を説明し、里親さんが譲渡後にもう一度検査をする場合もあるでしょう。

白血病エイズテストの将来

さて、このウイルステストは将来どうなると思いますか?
もっと性能のよいテストが出て、100%その場で確実に判定ができるようになるでしょうか?
残念ながら、ウイルスと接触してから感染が成立し、抗体ができるまでには時間がかかるので、即座に確実に判明することはできないでしょう。

しかし、将来このテスト自体をしなくてすむようになる方法があります。

それは、この世から、エイズ・白血病という伝染病がなくなることです。

エイズ白血病は、予防できる伝染病です。
伝染している猫と接触しなければ、うつることもなければキャリアにもなりません。

今の私たちにできること。

猫は、皆すべてウイルス検査をし、その後外に出さず、完全に室内で飼育することです。
地域猫は屋外で複数の猫が交流する性質上、ウイルスの伝染、拡大を助長します。
1日も早く地域猫が減り、地域猫がいなくなり、飼い猫はすべて室内で飼育することで、エイズ白血病ウイルスはやがて淘汰できる、と私は信じています。

もしその日が実現すれば、すべての猫は、白血病エイズ検査をする必要がなくなります。
白血病エイズで命を落とす猫がいなくなる日です。
2度と白血病エイズ検査をしなくてもよい日。
その日がいつか、本当に来ますよう。。。

 

2022年2月9日動物愛護,獣医療・ペット

Posted by Dr. Yuko Nishiyama