動物と一緒の避難 理想の避難所とは
災害時の動物の避難
今回は動物の避難所のタイプについてお話ししたいと思います。
今年の1月1日に起きた石川県を中心とした能登地震は記憶に新しく、先日は沖縄県で台湾地震後に津波警報が発令されました。
私たちは災害や避難警報といった非常事態と隣り合って生活しています。
一方、SN Sでの発言、関係者、有識者のブログ発言などを見ると、日本における避難所は、同伴非難でペットと飼い主が一緒に生活できるようにするべき、というのをしばしば見かけます。
動物と一緒に避難する人を気持ちよく受け入れ、飼い主様とペットがずっと一緒に避難所で皆が仲良く生活。
それが理想であり、理想の避難所であるような新聞記事も見ました。
しかし私は、犬や猫にとっての理想の避難所というのは存在せず、避難所は災害の種類、規模、場所、季節、タイプ、そして被災者自身の希望や被害状況によって異なるものだと認識しています。
理想の避難所とは
私は、カリフォルニア獣医師会の分会である、California Veterinary Medical Reserve Corp という、被災時に要請に応じて、被災動物の救済活動をする獣医師のボランテイアグループにもう10年以上所属しています。
有事に備えての訓練や授業も受けました。実際の被災地での救助支援活動にも参加しました。
一般論として米国では、災害の規模や場所、災害のタイプ(地震、大規模山火事、ハリケーン、洪水、暴風雨、火山爆発、あるいはテロや戦争、放射線事故、他)によって、避難所の場所も規模もタイプも異なり、また動物と飼い主と一緒にするかどうかも、臨機応変に対応するべきという考えが主流です。
またどれが他よりいい、悪いというのではなく、それぞれに利点と欠点があり、同伴避難が特に理想であるという考えもありません。
アメリカの過去の災害時の避難タイプを見ると、飼い主と動物が、避難所で一緒に生活することもあれば、そうではない形もあります。
動物は時に、既存の動物シェルター(収容施設)に一時保護されることもあれば、災害範囲が広範な場合は、一時的に他地域に移動して保護する場合も少なくありません。
今回このブログでは、アメリカで一般に受け入れられている、災害時のペットの一時避難所をタイプ別に紹介し、その長所短所を簡単に説明したいと思います。
日本と米国では事情も考えも異なると思いますが、日本の被災活動の参考にしていただけたらと思います。
災害時の動物避難所のタイプ
1.家庭内避難
まず、被災後も避難所に行かず、動物と一緒に家に残るという方法があります。在宅避難と呼ぶこともあります。
ただしこれは、予め耐震性や家屋の強度などがしっかりしていると判明している場合や、自治体や専門家が「避難警告時も在宅避難を認める」など、公的に認められた場合に限るべきです。
素人判断で「多分逃げなくてもも安全だろう」と決めるのは危険です。
また家に住み続けても、水、電気などのライフラインが無くなる場合に備えて、水、食料の備蓄が十分であり、かつ人も動物も、排泄物の処理を衛生的に行う必要があります。
利点
移動しなくてもよいので、人や動物のストレスが軽減する。多頭飼育の場合助かる。
欠点
完全に家が安全かどうかの判定が難しい。
情報伝達がうまくいかず、孤立する可能性がある。
自宅で負傷、外傷、病気になった場合など、治療が臨機応変にできない。
ヘルプが必要でも、ボランテイアがすぐには行けない。
2.同行避難 動物と一緒に避難する場合
2-A 避難所内同伴型
複数の人が避難する避難所内に、同行してきた自分のペットと飼い主が一緒に避難所生活をするタイプ。
この場合、スペース的に充分な広さがあり、犬猫が入るスペースを割いても、他の避難者全員を保護できるだけの広さがあるのが原則になります。
また犬が吠えないなど、しつけが行き届いて他人に迷惑をかけずに生活できるのも条件になります。
また、避難所にはペットフードの備蓄がおそらくないので、飼い主が当初のフードを持参しなくてはなりません。
利点
動物も飼い主も一緒なので精神的に安定できる。
飼い主が自分でペットの世話をするので、散歩や掃除をするボランテイアが少なくてすむ。
欠点
ペットが負傷、病気の時、あるいは治療が必要な時は、動物病院まで移動しなくてはならない。タイムリーに診断治療できない。
長期の場合は、避難所まで、フードやシーツなどの備品を運ばなくてはならない。
大型犬、じっとしていない犬、あるいは爬虫類など場合によっては難しい。
避難所の周辺(外)が犬の排尿排便で汚れ、悪臭の原因になる。
動物にノミなどの寄生虫や伝染病がいると人に移る。
他の避難者が撫でて噛まれたり、といったいらぬ負傷事件も起こりえる。
2-B 避難所内―動物専用スペース併設型
飼い主と動物は同じ場所に避難をしてきたが、犬や猫たちは、人が寝泊まりする空間とは別の、動物専用のスペースで過ごすタイプです。
昼間は一緒に過ごし、消灯時間の時だけ犬猫は別というところもあります。
人間集まって生活するスペースには動物の出入りができず、飼い主は昼間、屋外でのみ自分の犬猫と一緒に過ごす、という場合もあります。
犬猫アレルギーの避難者や犬猫の声などを嫌う人との共同生活のために行われる場合もあれば、スペース的に人、犬、猫と分けたほうが合理的、便利だからという場合もあります。
小学校のようなところが一時避難所となった場合は、例えば体育館に人間が寝泊まりし、教室にクレートを入れて、例えば1年1組が犬の部屋、1年2組が猫部屋に、というのもあります。
この場合、例えば大型犬やよく吠える犬を別部屋にしたり、またワクチン未接種の犬などを別にすることも可能です。
また、倉庫街のようなところが避難所となる場合は、人の避難所と犬の避難所が徒歩5分という場合もあります。
利点
ある程度飼い主が、散歩など自分の犬の世話をできるので、ボランテイアの数が少なくても可能。
犬も猫も、一時的に飼い主に会えて精神的に落ち着く。
動物の世話をするボランテイアが、まとまった部屋なのでお世話しやすい。
動物嫌いな人が安心して避難所生活できる。
他のことで忙しい飼い主の場合(家族が行方不明、死亡、負傷など)は、自分で動物の世話をしないでボランテイアに任せられる。
欠点
動物スペースを管理、世話するボランテイアが必要になる。
動物が、基本はクレートの中の生活を強いられる
動物が伝染病を持っていたら、他の個体に移る。
世話する人が獣医師などの専門レベル、経験のある人ならば、設内の衛生状態、動物の健康状態の把握、排泄物の処理などがきちんと行える。
被災動物をプロレベルで観察、健康管理できる。
3 動物と人が別々の避難の場合
3-A 既存の動物シェルターを利用する場合
行政管轄のシェルター(日本で言うセンター)、民間の動物愛護団体のシェルターで、被災した動物を一時的に預かって保護、お世話するということがアメリカでは多々あります。
収用できる個体数に限りがあるので、スペースが足りない場合は、隣接する行政管轄を使用させてもらうとか、場合によっては州外など遠くの自治体や愛護団体が協力で助け合う場合もあります。
利点
もともと動物にとって安全で、安全に消毒管理でき、動物にとっても快適な温度湿度が保たれるのがシェルター。勤務する獣医師や看護師、あるいは動物の世話に長けているボランテイアが世話をすれば、負傷、病気の動物の治療や看病も安全に行うことができる。
フード、消耗品、あるいは医療用薬物などが通常どこのシェルターでも備蓄している。
応急手当、処置、場合によっては診断治療、手術する設備がある。
伝染病の予防やコントロールも専門レベルで行える。
欠点
飼い主と離れた場所での生活となる。
3-B 臨時簡易シェルターの設立
例えば非常に大規模な災害で、保護する動物の数が多くて既存のシェルターでは保護しきれない場合、あるいは馬や家畜など、遠くに輸送するのが難しい場合などは、倉庫、空いている建築物、個人所有の牧場などを、一時的な保護シェルターにすることがあります。
利点
まとまった数の動物の世話をするので、ボランテイアや獣医師看護師がある程度のレベルのお世話を行うことができる。
備品や食糧の輸送を、まとめて行うことができる。
欠点
飼い主と離れた場所での生活となる。
4 ペットとの車中泊
アメリカもペットと一緒に車中で長時間生活し、寝ることは奨励されません。
スペース的に狭く、衛生状態も懸念され、エコノミー症候群の原因にもなります。
また情報のシェアや、被災者の安否確認にも時間と手間がかかります。
米国では犬や猫を家に置いて自分だけ避難するということを促すことはせず、一緒に避難所で寝泊まりできなくても、近くや他の場所で、動物を保護する場所は必ずあるので、そこに動物を一時的預けて自分は避難所で生活するよう促されます。
動物に処置が必要な場合
往々にして、被災時は動物も人も、必ずしも無傷で健康であるとは限りません。
特に動物は、decontamination 汚染除去が必要な場合が多々あります。
日本では放射線汚染の記憶が強いですね。
洪水時に水に浸かった場合、下水と接触した場合などは伝染病菌が体に付着するかもしれません。
米国では過去に、ジアルジアなどの下痢となる原虫が犬から人に集団感染した例もあります。
火山爆発などの場合は、粉塵が被毛についたり、呼吸器や目が刺激物で傷ついている場合もあります。
あわてて自分でシャンプーしたりすると、人の目、皮膚、呼吸器に伝染病や化学刺激が移ることもあります。
被災者は必要に応じで医者が、被災動物は獣医師や、経験のある看護師や関係者が診察するべきです。
当初大丈夫でも、避難後数日で発症することもあります。
まとめ
同伴避難で、避難所で犬猫と一緒に24時間の生活ができるのは、よい場合もあれば欠点もあり、あるいはそれが逆に病気の発見の遅れなどにつながることもあります。
災害の種類は規模、場所、季節、人や動物の数、ペットの性格、その他で臨機応変に対応するべき、というのが現在主流な考え方です。
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西山ゆう子
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