新型コロナウイルスとペットへの感染の危険性 <ペットに感染したという報告を怖がらないで>

2020年5月16日動物愛護,新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは、ペットにうつる?

新型コロナウイルスが、犬や猫にも感染した、という報告が、世界中で、あちこち出てきています。

ある報告は、実験室の中で、人工的にウイルス感染を起こしたものであり、またある報告は、複数の採材や複数のラボでのテストによって立証されたものもあります。

また、猫から猫に感染した、という報告も出ています。非常に関心の高い話題なので、報告の段階で、メデイアに取り上げられ、広く私たちにニュースとして配信されています。

しかし、初期実験や、症例報告の段階で、これだけ早くニュースとして配信されることは、実はとても珍しいことです。報告も、初期実験も、とても大切なステップです。そして、その数が増え、実験方法や検査方法、診断方法がより正確に行われ、コントロールと呼ばれる比較対象もきちんと制定され、複数の専門家が、信ぴょう性を判定をする、というプロセスが次に入ります。そして、それぞれの報告の信ぴょう性や、確実性、普遍性などを、その道の専門家たちが、複数で審査して、事実が確定していきます。

そうしたプロセスを経た後に、事実として、「業界では、こうであると結論づけている」と発表されます。通常、奨励報告や基礎実験の段階で、それが大きなニュースになることはないので、混乱は起こりません。

新型コロナウイルスは、今、世界中の関心が集まっているものなので、これは仕方ないことです。しかし、私たち一般に人が、一つの初期報告結果に基づいて、今すぐ結果を急ぐのは危険なことです。

いたずらに、ペットの感染を恐れたり、動物を不当に遺棄してしまう危険さえも出てきます。冷静に判断しなくてはなりません。

飼い主からペットにコロナが伝染したかどうか

例えば、以下の報告があったとします。(仮定のものです)

1.猫の飼い主が、新型コロナウイルスに感染し、発熱し、入院して治療をした。
2.その後、猫が、くしゃみ、鼻水、という症状を呈した。
3.猫の鼻から採材し、新型コロナウイルスのPCR検査が、陽性だった。
この3つの情報から、「猫が新型コロナに感染した」と結論できると思いますか?

専門家の意見は、NOなのです。

専門家の意見は、NOなのです。PCRは、ウイルスが生きている、死んでいるを問わず、例えウイルスの死骸でも付着していたら、陽性となります。

それゆえ、猫の鼻のPCRが陽性でも、新型コロナウイルスが、猫に症状を起こしていたかどうかは、証明できません。

猫は、実はヘルペスウイルスや、カリシウイルスなどの、他の伝染病でも、かぜ症状になります。むしろ、そちらのほうが、一般的です。

たまたま、飼い主さんからのウイルスが、鼻に付着していながら、実は、他の理由でくしゃみをしていたのかもしれません。それゆえ、さらに他の調査、検査をしないと、正しい結論は出せません。

猫の上部気道感染症を起こす他の複数のウイルスのPCR検査をして、他がすべて陰性であれば、新型コロナウイルス感染の疑いが濃くなります。
猫は、外に出ることなく、飼い主としか接触していなかったかどうか。外に出る猫であれば、他のタイプの病気の可能性も出てきます。植物のタネか何かを、鼻から吸い込んでいたのかもしれません。

猫には、免疫が低下する病気、あるいは慢性の歯肉炎などの持病がなかったかどうか。猫に抗体検査をして、新型コロナウイルスに対する抗体価があがっているかどうか。

このような、さらなる調査や検査をすることで、他の要因を否定しなくてはなりません。感染した、と結論するのは、簡単ではないのです。新型コロナウイルスは、まだ新しいウイルスなので、犬猫といったペットへの感染に関しては、まだまだ未知の部分が多く、ちゃんと分かっていない、というのが事実です。

今までに判明していること

米国疾病予防管理センターや、アメリカ獣医師会など、複数の専門委員会の発表によると、現在の見解は、以下のようになります。

1. 新型コロナウイルスは、人から人に感染するのが、最も一般的な感染方法である。
2. 人から犬、人から猫に伝播することは、おそらく起こっていると思われる。ただし、多くの場合、動物は呼吸器、消化器症状といった症状を呈していない。
3. 犬、猫といったペットから、人間へ、新型コロナウイルスが感染するという事実は、今のところ、確認されていない。
4. 新型コロナウイルスの流行において、ペットが介在して、伝染を助長するというリスクは、非常に低いと考えられている。
ということです。

すなわち、万が一、自分が新型コロナウイルスに感染してしまっても、自分の飼っているペットに、ウイルスを伝播させることはあっても、動物が具合悪くなり、死亡する可能性は非常に低いということです。

また、症状のない犬、猫が、コロナウイルスを鼻に持っていて、それを人間にうつすという事実は、今のこところ確認されていません。
ただし、鼻にウイルスがいることが判明している以上、その可能性もあるとして、気を付けましょう、ということです。

ペットをコロナから守るためには、まず自分が感染しないこと

ペットも人間と同様、新型コロナウイルスに感染した人と接触することで、感染するのでしょう。まれに、感染した犬、猫からも、ひょっとしたら、伝染するかもしれません。

いずれに場合も、人間ほど、発症率、致死率は高くないと想像できます。

ペットを新型コロナから守るためにできること。

  • 何より、自分が感染しないことです。
  • 帰宅したら、まずは手洗いうがい。ペットを触る前にです。
  • 自分も動物も、いつも清潔にし、衛生的な環境で、健康に暮らすこと。
  • ペットの食事の前後、散歩の前後には手洗いを。
  • ペットの食器もベッドも、いつも清潔に。

なんてことはない、特にコロナとは関係なく、普段から守るべき、ペットの飼い主として当然のことばかりです。報告のニュースに過度に敏感にならず、恐れず、今まで通りの健康な生活を心掛けてくださいね。あなたのペットは、あなたしか守れないのですから。。。

2020年5月16日動物愛護,新型コロナウイルス

Posted by Dr. Yuko Nishiyama