コミュニティー動物病院 低料金動物病院ってどんな病院?

アメリカ,人生・生活,動物愛護,獣医療・ペット

コミュニティーとは、地域社会という意味

今日はコミュニティークリニックと呼ばれている、アメリカの低料金の動物病院について紹介する。

アメリカといっても地域差が大きいが、私の住むロサンゼルスでは、調べてみると少なくとも10か所以上のコミュニティークリニックが存在している。

コミュニティークリニックというのは総合的な呼び名であり、その他にもいろんな呼び方がある。

Low Cost veterinary Service 低料金獣医診療
Affordable veterinary clinic 低料金獣医クリニック
Humane Society clinic 動物愛護クリニック

など、幅広い呼ばれ方をされている。
これらを総称して、コミュニティークリニック、コミュニティー獣医診療所と分類されている。

コミュニティークリニックとは?

低料金、場合によっては無料で獣医療サービスを提供している動物病院のこと。

一般に獣医療サービスの中には、一般内科や眼科といった通常の一般診療から、予防医療(ワクチンやマイクロチップ、フィラリアやノミダニ予防など)、デンタル関係の歯科、不妊去勢手術や他の外科、ノラ猫のTNR、さらには安楽死など、様々な業務がありますね。

でもコミュニティークリニックでは、これらすべての業務を行っているとは限らない。
不妊去勢手術のみ、TNRのみ、というのもあれば、外科手術はやっていないで、外来診察だけ、というところもある。

どうして低料金で診療、手術をして採算がとれるのか?

低料金で運営することをゴールにし、そのための経営方法をとっているからである。

それゆえ、一般的な一次病院とはかなり異なった方法をとっている。

まずは設備投資の削減。
レントゲン、エコーといった高価な検査機器がなく、基本的な血液検査の機器や麻酔器などしかない、という所が多い。

また在庫する薬品等も最低限にし、すべて使い切るのが原則。
抗生剤2種、鎮痛剤2種、ノミダニフィラリア予防薬も1種のみなどとし、後は処方箋を書いて外部の薬局等を利用してもらう。(ネットだと安価な場合が‘多い)。
サプリや処方食など在庫しない。

それから、受け入れる患者頭数を多くすること。
不妊去勢手術の場合、1日に10匹、20匹、あるいはそれ以上の多頭を流れ作業的に行う。

人件費を節約し、一般に診療時間を限っているところも多い。
例えば、火、木は手術のみ。月水金は10時から15時まで一般外来診療など。
多くは入院もなし。
もちろん夜間の急患もなし。

ちゃんとした診療ができないのではないか?

当然、一般の動物病院と比べると、治療に限界がある。
それゆえ、コミュニティークリニックでは対応しきれない重症ケースも当然出てくる。

その場合、通常の料金を出して、一般の動物病院に転院してもらうか、安楽死をするか、という選択をしなくてはならなくなる。
多くの飼い主様は、金銭的に難しいので、安楽死を選ぶか、あるいはできる範囲の通院治療をして看病をするという選択をしている。

訴訟社会のアメリカで、問題にならないのか。

コミュニティークリニックは、低料金、良心的な値段で、低収入の人にも獣医療サービスを提供するというりっぱな社会任務で運営されている、特殊なタイプの動物病院と考えていただきたい。

低料金、地域社会への貢献に特化した、いち動物病院のタイプと言える。

他にも獣医療は、さまざまな「特化したサービス」のタイプがある。
高度医療センターは、一次病院では検査診断、手術治療ができないような難治性ケースを、高レベルの医療サービスをの提供している。

皮膚科は皮膚病に。腫瘍科は腫瘍疾患に特化。
TNRクリニックはノラ猫のTNRに特化。

すべての動物病院が同じ内容の医療サービスを行う必要はない。

それぞれの病院で、Standard of Care 診療基準が異なることは全く問題ないのだ。

どんな人がコミュニティークリニックを利用できるのか

基本的に誰でも利用できます。
行政が行っている場合は、管轄内の住人に限る、としているケースがたまにあるが、多くのコミュニティークリニックは、診察希望者に制限を設けてはいない。

しかし一般に混んでいて待ち時間が長く、また検査も限界がある3分診療の場合が多いので、しっかりとした検査診断治療を希望する人は、はじめから通常の一般病院に行っている。

一般には、コミュニティークリニックは、低所得者、ホームレス、高齢者といった人が多く利用している。
動物愛護団体の利用も多い。
動物愛護団体の場合、不妊去勢、ワクチンはコミュニティークリニックで、病気の子の治療は通常の病院で、と分けている人も多い。

コミュニティークリニックは、どこが運営しているのか

いろいろです。
行政、NPO団体、あるいは個人の獣医師など、コミュニティークリニックを開業する人や機関は様々。
行政の場合は、一定収入以下の人は無料で不妊去勢手術を受けられたり、助成金が使えるように便宜をはかっていることもある。

ただ、いち獣医診療施設であるため、正規の手続き、届け出を出して診療許可を取得し、また基準や法令に従わなくてはならないのは同じ。

コミュニティークリニックは、寄付金やクラファンも受け付けますか?

NPO組織にして寄付金を受け取っているクリニックもあるかもしれないが、多くは寄付金にたよらない採算制度を確立している。
今月は寄付金が足りないからスタッフに給料が払えない、あるいは病院閉鎖、となっては意味がないし、利用者に迷惑をかけてしまう。
大手企業にスポンサーとなってもらうような「安定した寄付源」を確保しているところはあるようだ。

コミュニティークリニックで働く獣医師は、ちゃんとした獣医師なのか

もちろんです!
コミュニティークリニックでも、りっぱに開業届を出し、州に認可された動物病院。
当然、州免許所有の獣医師、動物看護師が勤務し、指定された基準にそった診療をしなくてはならない。

特に不妊去勢手術の場合も、麻酔の導入やモニター、手術方法(ガウンの着用の義務、使い残しの糸を他の個体と共有するなど)など、きびしくチェックされ、コミュニティークリニックだから特別に手を抜いてよいことはない。

最低限の基準は守りながら、合法的に、しかも安価に獣医療サービスを提供するのがコミュニティークリニックなのだ。

まとめ

私も昔、コミュニティークリニックでバイトをしたことがあった。

その時に思ったのは、コミュニティークリニックのほうが、一般の動物病院よりもより慎重に類症鑑別を考えて、診療しなくてはならなず、より高いレベルの経験と知識が必要なのだとしみじみと感じた。

すぐに採血、エコー、レントゲンで判明できないのだ。
さらに確定診断しないで治療を強いられることがしばしば。
治療薬の選択が限られているぶん、副作用や合併症なども予測しなくてはならない。それを3分5分で次々と行うのだからかなりの重労働である。

しかし、目の前の飼い主さんは、たとえお金がなくても、ホームレスでも、病気の犬猫を心配して、1時間2時間も外で列を作って診察を待ち、祈るような気持ちで診察に臨み、薬をもらってうれしくて涙を流して帰ってゆく。

世の中には、お金のある人だけが動物を飼っている訳ではない。
飼い始めた時はお金があったかもしれない。
でもその後お金がなくなってしまうこともある。
そして様々な事情で、お金がなくても動物を飼う人もいる。(注)
どんな状況でも、最後まで責任を持って終生飼育しようとがんばっている人が多々いる。

コミュニティークリニックは、社会の中で、動物を抱えて困っている、悩んでいる人のために、光を与えてくれる存在なのだ。
人が住むどんな地域にも、1つ。
コミュニティークリニックがあって、いいんじゃないかと思う。

(注)
金銭的なことを計画せずに、お金や時間がないのに、安易な気持ちで動物を飼い始めることに反対です。
安易に動物を飼い始めることを奨励する意図はありません。