ペットロスの予防法

アメリカ,人生・生活,獣医療・ペット

今年のアカデミー賞

先日行われたアカデミー賞。
ショートアニメの部門で優勝したのが、
If Anything Happens I love You という映画です。
皆さんはもう、観ましたか?
私はこのニュースを知った時に、ああ、やっぱりなー、あのアニメはよかったからなー、とうれしくこっそり感激してました。

ここから先は、ネタバレになってしまうので、無の状態で映画を見たい方は、ぜひ、この先を読む前に、実際の映画を観てくださいね。

12分という短い動画で、You Tube にもあがっているようです。
ハンカチのご用意をお忘れなく。

私にもしものことがあったとしても、愛しているからね

If Anything Happens I love You は、学校内の銃発砲事件で、娘を失った夫婦のことを描いているアニメです。
といっても、過激な場面は一つもなく、全体的に柔らかい、モノトーンのやさしいマンガになっています。
突然、娘を失った両親は、悲しみの中で、いろいろな心の葛藤と後悔に直面します。
夫婦はお互いを責め、父親はアルコールに逃げ、母親は家の中で娘の思い出を直視することもできません。
夕食のスパゲティから、家の壁の傷まで、すべてが娘の思い出となって、それが毎日、悲しみとなり、何をしても悲しい、というシーン。
ラストの部分では、作者がどういうメッセージを伝えたかったのか、解釈はそれぞれだと思いますが、夫婦は娘を失った後も、一緒に思い出を共有しながら生きなくてはならない、もう一度愛し合って生きることが、娘の愛に応えること、というメッセージかもしれません。

題名の、If Anything Happens I Love You, というセリフは、娘が最後に母親に送ったメッセージ。
日本語訳の題名があるのか、知りませんが、ニュアンスとしては、
「私に万が一のことがあるとしても、今、言っておくからね。ずっとずっと、愛しているからね、それだけは本当だからね」、という意味だと思います。
不理屈な銃弾に倒れた娘さんが、最後に、両親に宛てた、強いメッセージですね。涙

ごめんね。ありがとう


このショートアニメは、アメリカの銃社会への批判映画ではあるのですが、人々の心に響くのは、「愛する人との永遠の別れ」という重いテーマを、やさしいアニメで、やわらかく取り上げているからかもしれません。

両親、祖父祖母、妻や夫。時には子供といった家族の死を、人は経験します。
友達や知人、職場の人や近所の人の場合もあるでしょう。
自分が世話をしたペットとの別れ。
テレビなどで親しみのあった有名人の死亡ニュースに、悲しみに暮れることもあるでしょう。
特に、その死が突然であれば、ショックも大きいのは理解できます。

私も自分の人生を振り返り、実の父親や祖母、自分の飼っていた犬や猫、親友や恩師との別れがありました。
生まれる前の、自分のお腹の赤ちゃんとの別れも、何度かありました。

また、獣医師として、多くの飼い主さんと、最愛のペットとの別れをお手伝いしてきました。
子犬子猫の短い命も、若い時の突然の事故死も、高齢による老衰も、はてまた長い闘病生活の後の死も、皆それぞれの悲しみと、後悔と、辛さと悲しさがあります。

自然死でも、安楽死でも、やはり人は迷い、後悔します。

大往生の後の死でも、完璧ともいえる看病の後の見送りであっても、愛する人やペットとの別れは、それぞれに辛いことです。

ペットロスで悲しみに暮れ、その後、愛犬を追って、自殺された飼い主さんもいらっしいました。
いち獣医師にとって、患者(動物)の最後を看取り、看病させていただくということは、その飼い主さんの心ともお付き合いをさせていただくことです。

いつもそれをしっかりと肝に銘じて、仕事をしてきました。

どういう看取り方をすれば後悔しないか、時々質問されます。
残念ながら、後悔のない別れはないのではないでしょうか。
実際、動物が息を引き取った瞬間、飼い主さんから出てくる言葉でいちばん多いのは、
「ごめんね。。。ありがとう」です。
私自身も、最愛の自分のペットの最期の瞬間に出てきた言葉は、ごめんね、ありがとう、でした。

ペットロスにならないために

しかし、ペットを亡くした後に、なるべく後悔しないようにすることはできます。

いわゆる、ペットロスの予防策です。

おそらく、ペットだけではなく、人を見送る場合にも言えるのではないでしょうか。
私は精神科でもセラピストでもないので、あくまでもいち臨床獣医師として、長年多くの人がペットロスになるのを見てきたうえでの、個人的な感想です。

それは、
「愛している、感謝している、と言う言葉を、死ぬ前に伝えておくこと」です。

動物の場合は、言葉だけではなく、行動でこれを伝えなくてはなりません。
どういう言い方、どういう伝え方、どういう行動でそれを伝えるかというのは、その人やその犬、その猫によって異なることでしょう。
ただ、犬も猫も、言葉は話せなくても、思っている以上に私たちの言葉を理解しています。

長い自宅看病をしていても、必ずしも皆、想いを伝えきっているとは限りません。
逆に、普段からその想いを、ちゃんと伝えている人もいます。

「ずっとずっと忘れないよ。ずっと愛しているよ」
「私のことは心配しないで、安心してもう逝っていいよ」、と伝えてあげてください。
そして、その想いが、自分のペットに伝わったかどうか、気にしてあげてくださいね。

見知らぬ人を傷つけないで

私たちのまわりには、万が一のことがたくさん起こっています。
いつ、もしものことが起こって、あっという間に天国に逝ってしまうか。
そんなことは、日常的に起こりえます。
新型コロナ。
災害。
交通事故。
自殺。
病。
事件。

そういう世の中で生きている以上、突然の不幸が誰に襲い掛かるか、誰にもわかりません。

私はこのショートアニメを見て改めて感じました。
明日、どんな人が、どういう形で去ってしまうか、誰にもわからない。
だからこそ、普段から、伝えておくことは伝えておかなくてはいけない。
I love you.

たった3つの単語の文章を伝えるのが、難しい。
そればかりか、SNSを見ると、人が人を悪く言っているコメントばかり。
「死ね」「ブス」と言うのは禁止されていても、人のことを悪く言うコメントは、後を絶ちません。

例えば、皇室の方の結婚は、税金が関与するので、他人事ではないのはわかりますが、小室圭さんに対して、「こういう男は信用できない」というバッシングに私は心を痛めています。
会ったこともない人に対し、ニュースの情報だけで、ここまで人格否定するコメントに私は違和感を感じます。

婚約が破談になり、自殺した人を私は知っています。
別に2人の結婚を応援している、というのではないのですが、関係のない人までが、一部の情報だけで、性格否定するSNSに、私は寒気を感じます。
私だったら、「見ず知らずの人から、どうしてここまで言われなくてはならないのか」と感じるでしょう。
本当にその人の人格を否定するのならば、直接会って、話して、本人を熟知してからにしてほしいです。

否定、中傷、いじめ

心で誰かを憎むのと、それをネット上に書くのは、異なること。
人は、否定したり中傷したりすることで、改心したり、解決することはありません。
傷つくだけです。
人から人に伝えるべきことは、嫌いというメッセージではなく、愛しているというメッセージであるべきです。

ネット上でしか知らない人をイジメるのは、何の意味もなく、コミュニケーションとしては、無駄なもの。
本当に伝えるべきなのは、感謝、尊敬、愛情。

役立ちました。
ありがとう。
ステキですね。
気に入りました。
そういうあなたが好きです。

明日、自分に何があっても、相手に何があってもいいように、伝えるメッセージは、I Love You にしませんか。
感謝や愛情のメッセージを伝えることが、ペットロスを予防し、世の中をポジテイブにし、そして未来の幸せにつながるように思っています。

ショートアニメを見て、そんなことを考えてしまいました。
皆さん、くれぐれもコロナに気を付けて。
Stay safe.
Be Strong.
I love you.