動物収容施設の動物数 うちは何匹まで収容できる?
動物を多頭飼育する場所の福祉
数匹以上のペットを、たくさん飼い、飼育する施設の「動物の収容許容数」の話をしたいと思います。
犬や猫を、多頭飼育する施設は、大きく分けて3タイプあります。
1. 個人。
2. 職業、ビジネスとして。
3. NPO、慈善活動として
個人の趣味とビジネスを兼ねて、あるいは、多少収益を上げながら保護活動をする、といった、混合型もあるかと思います。個人の多頭飼育の場合、通常は普通の民家に住み、たくさんの犬や猫に囲まれて生活するのが好き、という人になります。
職業としてのペットの多頭飼育施設としては、ペットショップ、ブリーダー、ペットホテル、ドッグトレーナー(預かりをする場合)、看取り施設(ドッグホーム、キャットホームなど)、サンクチュアリ、ペットトリミングサロン、動物病院、引き取り屋、などがあげられると思います。場合によっては、サーカスやミニ動物園、イベント会場なども、多数のペットが一時的に収容されることもあります。
一方、NPOとしての慈善活動としては、動物愛護団体、猫カフェ、ドッグカフェなどがあげられるとおもいます。自治体が所有する、行政の動物愛護センターも、多頭飼育施設になります。
今日はここで、2と3の場合の、ビジネスおよび、事前活動に相当する、ブリーダーやペットショップ、動物愛護団体のシェルターについて、お話します。個人が所有するペットの数については、また別に機会にお話ししたいと思います。
施設で飼育できる頭数の決め方
では、いち施設で、何匹飼育することができるのか。
適切な頭数は、どうやって判明するのか。
これに関して、まず3つのゴールがあることを理解してください。
1. 最低基準
2. ガイドライン
3. 動物福祉の共通のゴール
1.の最低基準ですが、これは、最低でも守らなければならない、という条件のことです。これ以下になったら罰金や実刑、といった法律による規制の時に使われます。日本では、今回の法改正で、数値化することが具体化しましたが、現在、数値化規制で検討されているのは、この最低基準のことです。最低でも、どんなに諸事情があっても、これ以下になってはいけません、というのが最低基準です。よって、この状態が必ずしも、施設内の動物が快適に過ごせる条件になっていないかもしれません。
2.のガイドラインですが、こちらが、「動物が施設内で快適に過ごすために」に設定されているものです。多くの場合、専門委員会や関係者が、科学的文献やデータや、現状を把握した上で、動物が快適に過ごすことを目標に、設定されています。実際の動物収容施設は、1つの最低基準ではなく、2のガイドラインを、基準にして、動物の収容頭数を検討するべきです。
3.の共通ゴールですが、これは、5つの自由のことです。
すべての動物は、個人で飼われている場合も、施設に収容されている場合も、飼い犬も、保護猫も、5つの自由が守られていなくてはならない、という世界的な動物福祉の考え方です。
5つの自由とは、以下のものです。
・飢え・渇きからの自由
・不快からの自由
・恐怖・抑圧からの自由
・痛み・負傷・病気からの自由
・本来の行動がとれる自由
たとえ、1の最低基準が満たされていても、また、2のガイドラインに沿った飼育環境であっても、そこで暮らす1匹1匹の動物すべてに、これらの5つの自由が満たされていなければ、適正に飼育しているとは言えません。
皆さんお気づきのように、最低基準も、ガイドラインも、「守っているから大丈夫」「基準ができたから、これだえ守れば問題なし」ではないのです。すべての動物が満たされ、5つの自由を守ってあげること。動物を飼育する上で最も大切な、目標なのです。
うちでは何頭まで飼育できる?実際の計算方法
では、実際の計算方法です。
計算は、3つの視点から計算します。どれも重要です。
1. 経済的に飼える頭数。
2. 施設の広さ的に飼える頭数。
3. マンパワー的に飼える頭数。
経済的に飼える頭数
まず、昨年1年間の、収入を計算します。これは、事業収入の場合もあれば、ご寄付の場合もあるでしょう。そして、365で割って、1日あたりの収入を把握します。
それから、1匹の動物に、施設滞在中に1日あたりに費やす実費を計算します。これは、施設の家賃、上下水道代、食費、人件費、光熱費、医療費、などなるべく細かくデータを集め、計算します。
また、動物愛護団体の場合、1匹あたりの平均滞在日数を把握し、不妊去勢手術代、ワクチン代、医療費なども加え、1匹が1日に費やす実際のコストを割り出します。1日の収入÷1匹の1日の実費=1日当たり、収容できる動物の頭数になります。
クラウドファンデイング
動物愛護団体では、まず収容し、医療費や治療費などを動物病院で見積もってもらい、それからクラウドファンディングで、ご寄付を集めるという活動方法を拝見します。
しかし、もしご寄付が集まらなかったら、動物に治療ができない、ということです。
それゆえ、ご寄付が集まらない場合に備えて、他の収入方法を確保する必要があります。
また、例えご寄付が集まっても、タイムリーに治療ができず、手遅れになる危険もあるでしょう。
これは、かわいそうや、仕方ない、という感情論ではありません。
病気の動物に治療をしないことは、5つの自由のうちの、痛み、負傷、病気からの自由に違反しています。
よって、クラウドファンでイングに頼る方法は、ご寄付がタイムリーに集まらない場合は、動物愛護に違反する可能性につながりますので、注意が必要です。
施設の大きさ的に飼える頭数
これは、犬か猫か、また、犬もブリードやサイズ、年齢、収容形態によって、大きな差があります。若くて活動的な犬の場合は、それなりの広さが必要でしょう。
高齢動物の看取り施設などは、運動量は多くないかもしれませんが、他の犬と密接することで、ストレスになる場合もあるでしょう。
猫の場合、個別のケージなのか、合同部屋なのか、縦型の上下運動ができるケージなのか、によって、異なります。よって、あくまでも指標として、多くの専門委員会では、だいたいの目安としてのガイドラインを設けています。
犬の場合、1匹あたり、3.2-5.9 ㎡のスペースが目安。
猫の場合は、1匹あたり、0.7-1.0 ㎡ のスペースが目安。
これは、個別のケージや寝床のスペース、大きさではなく、飼育頭数の計算の目安としての数値です。例えば、50平方メートルのスペースの部屋がある場合、50を3.2や、5.9で割って、8.5から15.6匹、という数値が出てきます。
すなわち、50平方メートルのスペースの部屋には、8-15匹の犬が目安、ということになります。犬や猫のライフスタイルや大きさ、あるいはケージや収容施設のデザインにより、ある程度調節は可能ですが、5つの自由を守りながら、自分で調整することです。
マンパワー的に飼育できる頭数
マンパワーとは、すなわち、お世話をする人の数です。まず、実際に動物のお世話をする人の数と、労働時間を把握します。
実際のお世話は、動物の散歩や給餌などに加えて、食器洗いや洗濯、共同部分のフロアーやケージの掃除や消毒の作業を含めます。その1匹に実際に費やす時間、その一匹のケージの清掃の時間ではありません。
電話応対や会計、メール対応やSNSでの広告、など、事務作業は含まれません。一人の人が事務と世話の両方をしている場合は、時間にしてそれぞれ、何時間かを解析します。
ビジネスの場合は、雇っている雇用者がお世話しているかもしれません。愛護団体の場合は、団体の代表であったり、通ってくるボランテイアさんの場合もあるでしょう。
有償、無償に限らず、動物のお世話をする人の時間を、計算します。そして、以下の時間配分を目安に計算します。
・ほとんど世話のかからない、低レベルの世話量の場合:一匹あたり15分。
・平均的な世話量:一匹当たり30分
・かなり1匹に時間を割いて、ハイレベルの世話をする場合:一匹あたり60分
例えば、5人のスタッフが、1日4時間の労働をするとします。
4時間×5人=20時間=1200分。
その場合、1匹の世話時間が15分の低レベルで、
1200÷15分=80匹
30分という平均レベルの場合は、
1200÷30=40匹
1時間という高レベルの世話の場合
1200÷60=20匹。
すなわち、5人が4時間労働するこの施設では、20匹だとかなり贅沢な世話ができ、80匹だと、かなり最低限の世話しかできない、という計算になります。
私たちのゴール
以上は、複数の資料や文献を参考にした上で、自分なりの意見としてまとめたものです。なかなか、自分の施設のキャパシティーを把握するのは難しいかと思います。
特に、動物愛護団体の場合は、所属する自治体の「殺処分ゼロ政策」が重圧となる場合もあるでしょう。しかし、殺処分ゼロは、決して、ゴールであってはなりません。
ゴールは、あなたの施設の中の、1匹1匹の幸せです。5つの自由が満たされた、動物としての最低限の権利が保障されていることです。
経済的、施設の広さ、そして自分やボランテイア、従業員が世話のできる頭数を、ぜひ、計算してみてください。そして、それを目安にして、自分たちの施設内での、よりよい動物福祉を実現させてください。
ゴールは、施設の中の、1匹1匹の幸せであるべきです。
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